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夢に出てくる意外な人選

 トン、トン、トン……



 これは横槌を叩く音ではなく、包丁がまな板をリズミカルに叩く音。


 トン、トン、トン……



 なぜ俺は剣を習いにきたはずなのに、包丁を握っているのか。


「猫の手だぞ! 指を伸ばしていると知らず知らずのうちに巻き込んでしまうからな!」

「にゃんにゃんっすー」

「そういう事じゃないと思う」

「えっ、違ったっすか先輩!?」


 なぜ俺は隣の女の子から先輩と言われているのか。



 ――

 ――――

 ――――――



「はい、初心者講習ですね。カリキュラムは剣、槍、斧、弓、棍棒。初回は無料で受講できますが、2回目は有料で1000トラオムです」


 時間は少し巻き戻って、冒険者ギルド。人がめちゃくちゃ入っていくからちゃんと受付できるか心配だったが、中はそれ以上に広く受付も多かったので特に心配はいらなかった。体育館の3/4ぐらいの広さはありそう。


「剣でお願いします。参考までに、体術や魔法は無いんですか?」

「魔法でしたら魔術ギルド、体術でしたら各種格闘道場をお勧めします。こちらのパンフレットをどうぞ」


 チラシを受け取ると、マップに魔術ギルドや格闘道場が追加された。うーん便利。

 ギルド内では受付の人が丁寧に対応してくれた。やっぱり初手ギルドが鉄板なんだな。

 まかり間違っても寝具屋なんて初手で行くもんじゃないらしい。


「受付完了しました。カリキュラム開始まで5分少々かかりますので、後ろの席に座ってお待ちください」


 受付嬢に着席を促され、腰を下ろしたついでにグルっとギルド内を見渡す。それなりに繁盛しており、討伐や採集依頼を見ている人、素材売却をしている人、パーティー募集掲示板を見ている人などで活気に溢れている。

 ギルドの隅にはサイコロをお手玉しては人を値踏みしているモヒカンがいる。ああいうロールプレイかな? 近づいたらチンチロリンとかで勝負してくれそう。



「あれーっ? しょーご先輩じゃないっすか」



 パーティー募集掲示板もそれなりに賑わっている。ちらりと見てみたが、顔写真に能力値、希望職、アピールポイントなどが簡潔に書いてあるプレートが掲示板に貼られており、良さそうな人がいたらプレートを取って受付に持っていくと紹介して貰えるみたいだ。

 俺が使う未来はあるのか……うーん。まぁ可能性はゼロではないだろう。



「違った? うーん……いや、やっぱしょーご先輩っすよね?」



 素材売却は窓口までいかずとも、施設に設置されている端末から申請できる。寝具屋の親父に買って貰えなかったのを纏めて売るかと思ったが、現状金に困ってないしインベントリに余裕はあるからそのままにしておこう。



「しょーごせんぱーーーーーい」



 さっきから無視されてるかわいそうな人がいるな。どんな顔だとそっちに顔を向けてみると、ドアップの女の子の顔。

 うわっ、鼻頭かすったぞおい! ビビって思わず飛びずさる。


「わ、わりぃ! そういうつもりじゃ……!」

「その声、やっぱしょーご先輩っすね! にゃー、こんな所で会うなんて奇遇っす」



 俺をしょーご先輩と呼んできた女の子。肩より下まで伸びる長い緑髪に、そこそこ存在感をアピールする胸。

 初めて見るプレイヤーだし、見た目も記憶にない。

 だが、悲しいかな、俺(まひる)を正午(しょうご)だなんてクソ寒あだ名で呼ぶ後輩、一人だけ心当たりがある。


「おっまえなぁ……」

「当たりっすか? 当たりっすか?」

「当たり。よくわかったな」

「へっへーっ! わかるっすよ、まんまリアルとおんなじっすもん」


 へっへっ、でも身長はすこぉし高いっすかね? と見上げながらにやにやする。ぐっ、1年ちょっとぐらい会ってねぇのになんで分かるんだ?


「そういうお前は全然違うんじゃねーの?」

「そんなことないっす」

「そうかぁ? 髪だって男かって思うぐらい短かったしさ」

「1年もすれば女の子は変わるっすよ! 緑髪は流石に変えたっすけど。ちなみに胸もリアルと同じっす」

「こら」


 胸を持ち上げながらドヤつく後輩。つい頭をパシンとはたいて「これこれー!」と喜ばせてしまった。こいつは人をからかって遊ぶ悪癖がある。



 こいつは桜乃璃子……は本名で、キャラ名は不明。1個下の学年で、地区が同じだったから登校で毎朝一緒に登校していたぐらいの関係性だ。よく石蹴りをして五分五分の勝負を繰り広げていた。

 クラブ活動では奇遇にも5、6年生で一緒になり、卓球やらバドミントンやらで遊んでいた記憶がある。

 中学に上がってからは疎遠になって、しばらく会っていなかったので、マジで偶然の再会というやつだ。



「お前……名前は?」

「えっ、ひどいっす、忘れちゃったんすか?」

「ちげぇよ、ゲーム中のキャラの名前」

「そっちすか。桜乃リコっす」

「まんまじゃねぇか!」

「なんか悪かったっすか?」



 お前、情報の授業でリアルの名前をネットで使わないようにしましょうって習ったじゃねぇか。記憶にないだろうなぁ、授業はいつも寝てるとか言ってたし。



「白夜ノクスさーん。剣の訓練カリキュラム、準備ができましたのでこちらへどうぞー」

「おっ、悪いな。そういうことだから行ってくる」

「今の名前しょーご先輩っすか? 受付さん、あたしもそれ一緒にねじ込めないっすか!?」

「リコ!?」

「はい、構いませんので、ご一緒にどうぞ」


 やったっすー! と両手を上げ下げして小刻みにジャンプしながら喜びを表現する。なんだよその変なダンス。

 相変わらず変わんねーなこいつ。

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