ぶらり武器屋の旅
寝具屋を出て一人、街を歩く。
プレイヤーや住人の喧騒が響き渡るが、俺には随分と静かに感じる。
思えば街を一人で探索するのは初めてだ。普段根城にしている寝具屋から離れると、急に知らない街に放り出されたようで心細く感じる。
あの2人大丈夫かな、なんて心配してたけど、自分もそれなりにきているようだ。
ただ、賑やかな祭りの後は普段よりも寂しく感じるもの。すぐに慣れるだろう。
まぁ、一人というのは自由気ままに動けてそれはそれで悪くない。えーと、剣の使い方を教えてくれる場所を探すんだったな。
――
――――
――――――
「剣の使い方だぁ?」
「うす、良かったらオススメの剣術道場とか教えて貰えると嬉しいんですけど」
ここは鍛冶屋通り。
鉄で鉄を打つ音がやかましくも耳心地が良い。
ひとまず剣を扱っている店なら知っているだろうと、刀剣の類を売っている店を訪ねてみた。
どうせならとボロっちくて薄汚れている……よく言えば年季の入った老舗感のある店を選んでみた。
案の定、出てきたのは偏屈そうなじいさん。うん、初心者が来るとこじゃねぇわ、威圧感が半端ない。店選び間違えたかも。
「おめ、手ぇ見せてみろ」
「手? いいっすけど……」
「はっ」
手を見せるなり鼻で笑われた。あれか、剣ダコで力量がわかる的な玄人仕草か。あくまでアバターだから剣ダコとかできないと思うんだけど。
「おめに教えられる道場はねぇ。冒険者ギルドにでも行ってな、ヒヨッコ」
これはあれか、冒険者ギルドに行けば道が開かれるっていうじいさんなりの助言だったりするのだろうか。
典型的な仕事一筋で商売ベタな武器屋のじじいという感じだな。ぶっきらぼうだが、そういうキャラだと思えば不愉快ではない。
一応聞きたいことは聞けたが、質問しといてそのまま立ち去るのもどうかという小市民の心。
ちょうど700トラオムで良さげな剣が売っている。きっと旅立ちの剣よりは強いだろう。
――――――――
ロングソード
武器・片手剣
攻撃力+8
鉄で作られた重い両刃の剣。
――――――――
「冒険者ギルド行ってみます。それで、この剣……」
「わりぃが売れねぇな」
「え?」
まさかの取引拒否。気に入らない客には売らないとは、頑固にも程があるだろう。
「まともに剣を振れねぇやつに武器は売れねぇ。せめて刃筋を立てられるようになってからくるんだな」
刃筋を立てる? 専門用語だろうけど意味はわからない。たしかに、こんなヤツに売っても粗末に扱われるというのはあるか。
別に質問代のつもりで、どうしても武器が買いたかった訳ではなかったが、こうまで言われるとこのじじいから武器を買いたくなった。
それに、偏屈なじじいは腕がいいと相場が決まっている。打算も込みだがチャレンジしてみる価値はある、んじゃないかな? これで腕が悪かったら、言っちゃ悪いが潰れたほうが良いこんな店。
「じゃあ、上達したらまた来ます」
「勝手にしろ」
その言葉を最後に作業に戻った偏屈じじいの店を後にした。冒険者ギルドか。どこにあるんだろ。
まぁそれはそれとして、他の武器屋がどんな感じなのか気にはなる。セカンドオピニオンではないが、見るだけならタダ。偏屈なじじいの相手は疲れたので、普通に対応してくれるところを選ぼう。
――
――――
――――――
――――――――
ロングソード
武器・片手剣
攻撃力+12
鉄で作られた重い両刃の剣。
――――――――
「780トラオムです。いかがでしょう、庭で試し切りもできますよ」
鉄の剣を差し出しながら、モノクルをつけた身なりの良い紳士が笑顔で対応する。まるで駅に併設されている腕時計売り場のような豪奢さだ。
周りのプレイヤーも、美術品を鑑賞するように眺めている。
なにこれ、ちょっとだけ値段は高いものの、さっきのじじいの店の同じ武器より1.5倍つえぇじゃん。
武器屋通りの入口という好立地に店を構える、建物もおしゃれで繁盛している武器屋に入ってみたは良いものの、武器の性能も品揃えも、店員の接客態度も全てが上だ。
こりゃプレイヤーも寄り付く訳だな。
えぇ、このままだと、ただの偏屈じじいの家だぞあそこ。
現実だと、店主が横柄で味もまずいのに常連に支えられてなぜか潰れないラーメン屋みたいなのは稀にあるがっ……! ゲームでそんな意味わからん店があるとは思えない、何らかの意味があると思いたい。
いや、ソムニアのことだ、あえてリアルを追求したという可能性も……。
「あの、いかがなさいましたか? 商品に何か瑕疵でもございますでしょうか」
「あ、いや、違うんです」
思わず店員を不安にさせてしまった。何でもないと謝罪し足早に店を出る。
偏屈じじいの店で買い物してやるぞ、という気持ちは変わっていないものの、本当に大丈夫かという考えがよぎってしょうがない。
うゆとフェリシアの2人がいたら迷わず後者の店なんだけどな、って2人を言い訳にしてるだけか。なんて自嘲しつつ、冒険者ギルドに向かうのだった。




