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お泊りはいつになっても楽しい

「ど、どうぞ。何もありませんが、入ってください」

「ん、邪魔するぞ」

「失礼しまーす」


 濡れた傘をくるくると回転させて水気を払い、帯を巻いて止める。昔の漫画でかっこいい傘のしまい方というのを見てから、こっそり真似していたりする。結構影響されやすい俺。


「うゆちゃん、その髪型かわいいですね……!」

「ふふん。ノクスが好きなら少しはサービスしてやろうと思ってな。まぁ別に好きではなかったらしいが」

「えーっ? かわいいのに……」


 かわいいのと俺が好きかは別の話だろ。


「傘ここ置いといていい?」

「ど、どうぞ」


 入口に傘を立てかけて室内へ。まー当然だが室内は俺達の部屋と代わり映えはしない。

 変わってる所といえば、椅子が1つ追加されて2つあることと、本棚に本が数冊挟まっていることだろうか。


「へー、フェリシアって本読むんだ。DP(ドリームポイント)で買った?」

「い、いえ……その、青空文庫ってありますよね……? あれ、無料で買えたので、つい……」


 本棚には檸檬や舞姫、カラマーゾフの兄弟、阿Q正伝など、俺でも名前は知ってるぐらいだけど中身は知らない本が並んでいる。


「面白い?」

「えっと、そのー……上級者向けかな、と……」


 なんとも歯切れが悪い返事。上級者向けと言われるとチャレンジしたくなっちゃうお年頃。無料で読めるんなら後で俺も見てみよう。


「あまり女子の部屋をジロジロ見るもんじゃないぞ」

「お、おぉ、そっか。俺の部屋を家探ししてたヤツには言われたかないけど」

「べ、別に構わない、ですけど……」


 本棚には人の性格が出るというが、まだその段階まで育っていない。またしばらく立ってから見せてもらおう。

 しかし椅子が2つか。まぁ来客なんて想定してなかっただろうしな。椅子がまだ1つしかない俺が言えた義理ではないが。


「す、すみません、すぐに椅子を買います……!」

「いいよ、俺立ってるから」

「そ、そういう訳には……」


 なんなら床に直接座っても……それは行儀が悪いか。


「ノクス、座っていいぞ」

「うーん、女の子立たせて座るってのもなぁ」

「私にいい考えがある。ん、座れ」


 いつになく押しが強いな。まぁそこまで言うんなら座るけど。

 渋々椅子に座ると、うゆも俺が座った椅子に近づき、膝の上に座ってきた。


「イヤなら言ってくれるんだったな?」

「お前なぁ……」

「お前じゃなくてうゆだぞ」


 ぐぬぬ、全然嫌じゃないが、髪の匂いが直に嗅げるこの位置は中二男子には刺激的すぎる。


「すぐに椅子を買います」


 フェリシアは手早くカタログを開き購入の構え。でも家具類はグレーアウトして買えないんじゃなかったか。


 ――

 ――――

 ――――――


 結局、フェリシアは自分のベッドに座り、俺とうゆは別々に椅子に座った。

 ちょっと残念と思ったのは心に秘めておく。絶対こいつ調子に乗るから。


「じゃ、じゃあ、わざわざ雨の中お散歩してたんですね……」

「中々良かったぞ。今度フェリシアも一緒にどうだ?」

「い、いいんですか……?」

「ん。でも3人だと流石に狭いかもしれんな」

「そこは新しく傘買えよ」


 相合傘は2人ならまだしも、3人だとロマンチックさより悲壮さの方が上回ってくる。




「そうだ、せっかく3人揃ったし、ソムニアで次何するか決める?」

「も、目標はあったほうが良いと思います……!」

「だな。ジョブが増えてできることは一気に増えたけど、正直選択肢が多いと迷うよなぁ」


 今日みたいな雨の日みたいに、できることが少ないと何で暇を潰すか困るけれど、やれることが多くてもそれはそれで困る。

 まったく贅沢な悩みだ。


「私は魔法を使ってみたい」

「お、うゆは魔法か。いいんじゃないか?」


 剣や鈍器で殴るのは時と場所を選べば現実世界でもできるが、魔法は逆立ちしたって無理だからな。夢でしかできないことをやるというのは全然アリだろう。


「じゃ、じゃあ、明日は3人で魔法を覚えにいきますか……?」

「3人で、かぁ」

「何か引っかかるか?」

「いや、魔法使い3人パーティーっていうのもバランス悪いなって」


 バランス的には、戦士、僧侶、魔法使いが王道だろうか。ただ序盤のMPが少ない回復役はお地蔵さんになりがちだから、前衛2の後衛1でも良い気がする。


「言わんとしてることはわかるが、すると1人で魔法の練習か」

「不安?」

「ん、少し」


 そりゃあ1人より3人の方が心強いだろう。だけど、1人だと動けないというのも芳しくない。


「今後のために、1人でなんかしてみるって経験積んだ方が良さげかなぁ……」

「な、何事も経験……ですよね。ちょっと不安ですけど……」

「うゆも枕あるし、あれ抱いてればソロいけたりしない?」

「善処はする」


 勇ましいこと言ってるが、ちまちま指を組み替えたりしている所を見るにあまり自信はないのだろう。


「なに、別にバラバラに冒険しようってんじゃない。うゆは魔法の使い方。俺は……そうだな、剣の使い方でも習ってくる。フェリシアも何かの初心者講習を受けてきてくれ。それで、ある程度使えるようになったら3人で冒険しよう」

「ん、わかった。魔法をマスターした暁には、2人にレクチャーしてやるぞ」

「良いな、それ。そんじゃあ下手な所は見せられないな」

「お、教えられるぐらい上手にできるかな……」



 ひとまずいい感じで今後の目標は決まったので、後は適当に駄弁ったり、トランプを買ってババ抜きをしたりして解散した。帰りはファストトラベルで一発なのでこの雨を気にすることもない。

 なんか宿泊学習の夜みたいで楽しかったな。


 傘はフェリシアの家に忘れた。後で取りにいかなきゃ。

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