雨と夢の免罪符
しとしとと雨が石畳を濡らす深夜。
薄明かりが照らす仄暗い路地をゆっくりと歩く
ガス灯のぼんやりとした光は、ビニール傘越しだと余計ぼやけて幻想的だ。
「ノクス、もっと近づかないと濡れるぞ」
「いや、だってさぁ……」
俺とうゆの雨の夜の散歩。ビニ傘は1本。
だって、2本買うのは勿体ないとか抜かしおるから、狭いビニ傘に2人が収まるよう努力するのは仕方のないことなのだ。だから腕をギュッと掴まれていても問題ない。……そうか?
「傘に雨粒が当たる音も心地よいな」
「わかる。まぁ登下校の時の雨は勘弁してくれって思うけどな」
「たしかに厄介そうだ」
いつもはプレイヤーで賑わっている路地も、時折すれ違う程度で閑散としている。
プレイヤーのホームであろう建物の窓からは光が漏れ出ており、中で何かをしているのだろう。たけど、すりガラスになっていて中は伺うことができない。プライバシー保護というやつだろう。俺も通りがかりの人から中を覗かれるのはそんな好きじゃない。
「次はどっち行く?」
「うーん、まっすぐ」
「ん」
特に目的もなく街路をさまよう。散歩なんてそんなもんだ。
帰る時はファストトラベルで一発だから、帰り道を覚える必要も特にない。
「もっとそっちに傘やらないと、結構濡れてるぞ?」
「そんなこと言われてもなぁ……」
一応カタログで一番大きいサイズのビニ傘買ったんだけどな。傘を持ってる手前、相手を濡らすのは申し訳ない気がして譲ってしまう。
「なぁノクス、こんな川柳を知っているか?」
「どんなだ?」
「相合傘、濡れてる方が惚れている」
「……そっか」
俺とうゆの間に位置していた傘を俺側に移動して、うゆを濡らしてやる。変なこというんじゃないよ全く。
「おいノクス、それはひどいんじゃないか?」
「濡れたけど、惚れた?」
「優しくしてくれる人の方が私は好きだ」
雨に晒されたうゆは傘の半径に収まるように、俺の腕をギュッと掴み身を寄せる。そんなつもりじゃなかったが、余計密着する形になった。
「わ、悪かったって」
「誠意が足りないな」
誠意ってなんだよ。こいつまた頭突きし始めた……いや、頭を擦り付けてるな。あっ、濡れた髪の毛なすりつけてやがる!
「お前なぁ……人の服で乾かそうとすんなよ」
「お前じゃなくてうゆだぞ」
「はいはい、うゆさんうゆさん」
むふー、と言いながら引き続き頭をこすりつける。前世は猫かな?
髪の毛が濡れると、女子は良い匂いがする気がする。シャンプーの匂いだろうか。こんな所まで再現しやがって……ぐぬぬ。
「…………迷惑じゃないか?」
さっきまで勝手気ままに振る舞っていたうゆが、歩みを止めて目線を合わせずに問いかけてきた。
自覚はあったのかよこいつ。
「こういっちゃなんだけどさ……」
「……」
「正直、夢なんじゃないかと思ってる」
「……ん?」
何言ってんだこいつ? という顔でこちらを見上げてくる。
「可愛い女の子と相合傘して散歩してさ。こんな俺得展開、現実だったら絶対に有り得ないじゃん。夢でもないと……いや、夢なんだけど」
「……」
「だからさ、ここは夢なんだから自分のやりたいようにやる、それでいいだろ。俺も嫌だったら言うし、うゆも嫌だったら言ってくれな」
「……これは夢だから、迷惑をかけてもいいのか?」
「こんな嬉しい迷惑ならいくらでも」
「…………ん!」
それで納得はしたのか、俺の腕により強くしがみついてきて、頭をこすりつける動きを再開した。これで迷惑掛けてるつもりなんだからかわいいもんだ。
なんだか急に恥ずかしくなり顔を背ける。
顔を向けた先の家は明かりがついており、こんな時間でもプレイヤーが活動しているのが見て取れる。
……あれ? この家はすりガラスになっていないようで、窓から部屋の中が見えた。
窓の側にはプレイヤーが立っており…… そこには口を開いたフェリシアがこちらを凝視していた……。
へぇ~、フレンドの家はすりガラスになってないんだぁ~、ふ~ん。




