雨の雑談
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NAME:白夜ノクス
Welcome Dream Dive!
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布団に入り目を瞑ると、次の瞬間にはベッドで目が覚める、というのは何度繰り返しても慣れないものだ。いつか当たり前のことのように思える日が来るのだろうか。
ふと耳慣れぬ水滴が屋根を叩く音が断続的に聞こえてくる。この世界にも雨が降るんだなぁ。
雨音を聞いているとなんだか眠くなってくる。ログインしたばかりだというのに二度寝したくなる誘惑を押しのけ、上半身を起こす。
ふと扉を見ると、手紙が差し込まれていた。うゆか? しかしチャットツール全盛期の今に文通とは古典的な。
泣く泣く温かい布団とはお別れして立ち上がり、扉から手紙を抜き取る。
しっかし結構強い雨だな。窓から覗く景色は幻想的で、外出する予定のない日の雨って結構好きなんだよな。
椅子に腰掛け手紙の差出人を見てみると、なんと運営からの手紙だった。え、なんかやった? 女の子にベタベタ触ったのがセクハラ判定されたとか?
なんてビビったりもしたが、普通に緊急メンテナンスのお知らせだった。も~、ビビらせんなよ~。
この雨もメンテナンスの一環で、今日はソムニアを含め夢幻世界のコンテンツが大抵営業停止で、ごめんなさいという6文字を水で何倍にも薄めてメッキをかけて立派に見せた小難しい文字の羅列が踊っていた。
後から知ったことだが、ガチのマジ警告系のお手紙は赤や虹色とかの明らかにヤバい色をしているらしい。ひえっ。
しかし緊急メンテナンスか。一体何があったのだろう。
オンラインゲームは何かしら裏技的なことがあるとプレイに不公平感を生む為、即座に修正されると聞く。
まぁ考えても答えが出るわけでもなし、これ以上踏み込めば陰謀論の領域だ。
運営からの手紙をインベントリしまおうと思ったが、せっかくの読み物なのだからと本棚に並べる。枯れ木も山の賑わいというし、本が一つもないよりかはまだ本棚も喜ぶだろう。
しかしソムニアが遊べないとなると暇だなぁ。また寝るしかないのか。先程出たばかりの布団は、いま入り直せばまだ温もりが残っているはずだ。
そういえば2人はどうしてるんだろうか。フレンドメニューを開けば、2人ともオンライン。なんだかんだ俺が一番最後にログインしている。早いな女子2人。
2人はこの雨に閉じ込められて家で何やってるんだろうか。
この雨音を子守唄代わりに二度寝……っておいちょっと待て、外に人影が見えたぞ。数は少ないが外を歩いてる人がいる。そうか、コンテンツが休業しているだけで外はうろつけるのか。
早速扉を開けてみる。雨が石畳を叩き、埃を舞い上がらせた時の独特な匂いが鼻を突く。この匂いのアロマ売ってないかな……。
さておき、外に出られることはわかった。せっかくなんでうゆの家にでも乗り込もう。
結構降ってるが、目と鼻の先だし傘はなくても問題ないだろう。さっと扉から出てタッタッタッと……5歩で着いた。マジお隣さん。
コンコンコンコン。
「うゆー、俺だー」
「ノクスか!?」
「入っていいかー」
「んっ!」
返事を待ってからガチャッと扉に入る。俺はどっかの誰かと違って勝手に入ったりしないのだ。
出迎えたのは、えーと……ツインテのうゆ。キャラチェンですか?
「濡れ鼠」
「そこまでじゃないだろ。タオルとかある?」
「ん、待ってろ」
うゆはベッドに近寄ると、シーツを引っ剥がし俺に被せてきた。
「これを使え」
「え、いや、これ……」
なんだかぬくぬくしてるし、甘い匂いが漂ってくる気もする。だってお前ぇ、これぇ……。いくら相手がうゆだからって意識してしまうのも致し方ないだろう。俺は悪くない。
「っていうかその髪どうしたん?」
「ふふん。ノクスの好きな髪型にしてやったぞ」
「別にそこまで好きじゃないけど」
「……ん?」
昨日のは手慰みにしやすい髪型にしただけで、別にツインテ好きという訳ではない。
「まぁでも……髪型一つで印象ってだいぶ変わるもんだな」
「だろう? どうだ、かわいいか?」
「う……うん、かわいいよ」
「そうか!」
むふん、と満足げに髪を揺らすうゆ。褒め言葉を口にするのは照れるわぁ……。わざわざ髪留めとか買ったんかな。
さて、いつまでも突っ立っている訳にも行かず、濡れているシーツを布団の脇に置いて椅子に座る。これ、寝て起きたら勝手に洗われてたりするんかな。ゲームでも洗濯しなきゃとかだったら面倒だな。
「さっそく間違って買った椅子が役に立ったな」
「勝手に俺んちに置こうとしたやつな」
座ったはいいものの特にすることがないので、家具カタログを開いてみる。
ただ、カタログは見れるものの、ほとんどのものがグレーアウトして実際に購入はできないようだ。
「この家具、リアルの実商品とコラボしているそうだ」
「へぇ~、夢で使ってみて気に入ったら現実でもどうぞってやつ?」
「良くできてるよな」
会話が止まると、雨音だけが室内に響き渡る。ふわぁ、なんだか眠くなるな。夢でもあくびって出るんだ。
「人の家に来て眠いとは失礼なやつだな」
「緊張しっぱなしよりはいいだろ」
「そうか、私の家は安心するという訳だな」
「最大限好意的に解釈すれば」
特に買いたいものもないが、カタログをめくる。こんな時の為にテーブルゲームの一つでも買っておけば良かったか。
カタログにテーブルゲームとかないのかな。
「おっ、買えるじゃんテーブルゲーム」
「どれどれ?」
うゆが椅子をぴったり横につけて、カタログを覗き込んできた。
こいつが距離感バグってるのは今に始まったことじゃないとはいえ、眠気が少し飛んだ。
「暇つぶし用の道具ぐらいは買えるみたい。ほら、オセロとかトランプとか」
「オセロはやったことあるな」
「トランプは?」
「んにゃ」
トランプやったことないってマジ? まぁいなくはない、のか?
「麻雀牌セットは売ってるけど、雀卓は売ってないんだ。インテリア扱いなんかな」
「麻雀が好きな人は、夢の中でもずっと麻雀してるイメージがある」
「ありうる。まぁ徹夜で麻雀にならないだけずっと健康的なんじゃない?」
「たしかに」
勝手にページをめくるうゆ。別にいいけど。雨の日に狭い部屋で体を寄せ合って一つの本を読んでいると、アンニュイな午後って雰囲気になる。深夜なんだけどさ。
「将棋も売ってるな」
「もしかして上級者?」
「コマの動かし方はわかる程度だ」
「じゃあ同じか」
花札やウノなどの定番から、テレビで紹介されてたような人気テーブルゲームを順々に見ていく。どれも面白そうで買いたくなっちゃうな。うーん、商売がうまい。
ただお金の問題もあるわけで、ただただ感想を述べ合いながらカタログをめくり続ける。
いつの間にかテーブルゲーム特集は終わり、長靴やレインコートなどの雨具が並ぶコーナーに差し掛かった。
「あ、グレーアウトしてない。雨具は買えるんだな」
「雨の日こそ欲しいものだからな」
「たしかに」
喉元過ぎれば熱さを忘れるというが、困っている時こそ買いたくなるけど、解決したらまぁ次でいっかとなるのは実際ある。
「なぁ、ノクス」
おもむろにカタログから視線を外し、俺を見上げてくる。ちょっ……と、この距離は威力が高いですね?
「どした?」
「散歩にでもいくか」
あぁ、雨具のページを見て思い立ったのか。
雨の日の散歩か。
悪くない。




