知らない人と即席で協力できるとテンションぶち上がる
「…………」
「…………」
隣の男性と目を合わせあうことしばし。
どちらともなく頷くと、お互い膝立ちになり両肩を組みあう。
男子同士だとアイコンタクトでなんとなく伝わるものだ。
せーの、の掛け声で膝を立て――――お互いの膝小僧がゴンッとぶつかりバランスを崩して転がる。
「右足からな」
「おけおけ」
目線だけだと細かい所は伝わらない、コミュニケーションは言葉を尽くすのが大切だ(一敗)。
もう一度膝立ちになり肩を組み、掛け声で今度はぶつからずに膝を立て、体重を預け合いながらゆっくりと立ち上がる。
ぷるぷると震えながら、4つの足で大地を踏みしめる俺達。
2本の足で立とうっていうのが土台無理な話で、時代は4本足だろ。
慣れていくにつれ徐々に手を離し2本足に移行していく。さらば4本足の時代。
立ってしまえば後はどっちが先に歩けるかの勝負だ。右、左と足を動かせば歩くことができるのだろうが、すわマラソン大会の翌日かと思うぐらい足が重く、まるで水の中を歩いているように緩慢な動きになってしまう。夢の中って走ろうとするとうまく動けないよな。まさにあんな感じだ。
足を無理に上げようとせず、ペンギンみたいにちょまちょまと小刻みに動かす。
その動きを繰り返して、やがて普通に歩けるようになり、軽くジャンプしたりステップしたりと動き方を習得していく。
その頃には肩を貸しあった男性も満足に動けるようになったらしく、目が合うと不敵な笑みを浮かべて片手を挙げた。
俺も片手をあげて応え、そのまま掌をぶつけ合い――
パァン!
思ったより大きな音が出てしまった。
周りからの視線が突き刺さるが、すぐに興味をなくしたようで視線が外し、各々がリハビリに戻る。
恥ずかしさはあるが、それより清々しさの方が心地良い。
「へへっ、またな」
「おう」
またな、なんて言ってるけど、また会うことはあるんだろうか。
お互い苦笑しながら、名も知らぬ男性とコンビを解消した。
破裂音はGMにも聞こえていたようで、人の間をすいすい~と縫って近づいてきた。
「おめでとうございます~、もう立てるようになったんですね! この組ではお二人が一番ですよ~」
競ってたつもりは……結構あったけれど、一番!
思わず嬉しくなり小さくガッツポーズが出た。
「それだけ動けるならもう夢の世界に旅立っても恥ずかしくありませんね」
と、GMがおもむろに何もない空間を指差すと、少し離れた場所に紫色に光る扉が現れた。
「あの扉を潜ればチュートリアル完了、夢幻世界へ出発です!
ルールを守って楽しい夢を見てくださいね~!」
あれをくぐればソムニウム・セフィアに……!
先程の協力者は小走りで扉に駆け寄り扉を潜り抜ける直前、振り返ると俺と目が合った。
「いい夢みろよ!」
「あぁ! お先に!」
親指を立てサムズアップを送り合い、気の良いあんちゃんは旅立っていった。
どこからともなく拍手が聞こえ、祝福の音が広がっていく。
周りの人達も我も続けとやる気を出したようで、トレーニングに一層励んでいるようだ。
俺達に一足遅れて歩けるようになった人もいたようで、一目散に扉に入っては拍手の音が響く。
俺も一刻も早くソムニアを遊びたい……!
……が。
隣でころんころん転がっていた女の子が気になっちゃうんだよな。
なぜって……今にも夢から覚めてしまいそうなぐらい、現実に打ちひしがれた目をしていたから。
おいおい、もう転がるのはおしまいかい?
別に知り合いでもないし、ただ初期配置でたまたま隣だっただけの人間だが……。
せっかく隣のあんちゃんとも協力できたんだ。こっちの子を手伝ってもバチは当たらないだろう。
昔っから困ってる人を見過ごせない性分なんだよな、俺。
別に良い人間でいたいとか徳を積みたいとかではなく、ここで見なかった振りをして後でやっぱり手伝っておけばよかったかなと後悔するのがただただ嫌なだけ。
なんて利己的な性格なんだろうと我ながら呆れつつ、女の子に声をかける。
「手伝うよ、掴まってくれ」
「は……? い、いいのか?
私としてはありがたいが、別に構わんでも……」
「いいのいいの。せっかく隣になった縁だ、早く歩けるように頑張ろうぜ」
「…………そう、だな。せっかくだ、ここは厚意に甘えさせて貰うとしよう。
期待に添えるかは確約できないが……おわっ!」
言うが早いが、立ち上がろうとし前向きに倒れるところを受け止める。
「おいおい、最初はゆっくりでいいんだぜ。何度転んだっていい、慎重にいこう」
「生憎あまり転んだことのない人生だったものでね。
わかった、ゆっくりだな。ゆっくり、ゆっくり……」




