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就職のすすめ

 看板娘とはなんとなく流れで手を繋いだまま、引き続き街を散策する俺達。嫌がられるかと思ったが、特に気にされてないしいいか。

 うゆも看板娘と手を繋ぎたいのかちょろちょろちょっかいをかけていたが、すげなく弾き返されて撃沈していた。難しいお年頃だよ全く。

 手を繋ぐのを諦めたうゆは、何を思ったのか俺の空いてる方の手に掴まってきた。小さい子を2人引き連れて、子守りか何かか?



「皆さん、見えてきました! あれが神殿です!」


 看板娘が指をさす先には、クリーム色の建材で作られた円形の建物が見えた。

 年季の入った様子が見て取れるのに、決して古ぼけている訳ではなく、そこはかとない荘厳さを醸し出していた。神さびた、という形容詞はこういう光景に使うのだろう。

 きっと遥か古から地元の住人に親しまれてきたに違いない。


「ぷ、プレイヤーの方もいっぱいいますね……!」

「ジョブが欲しい方が多いのでしょう。皆さんと同じですよ」


 たしかに観光地の神社みたいに人がいっぱいごった返しており、それを目当てにした屋台も神殿の周囲に並び、良い匂いを立ち上らせている。

 これはフェリシアじゃなくても腹が減るな……あ、本人と目があった。頬プクすんな悪かったって。

 というかジョブ? 急に荘厳な建物が職業安定所に見えてきたな。


「本当に何も知らないんですね」

「ん! 教えてくれるか?」

「それなら、中の神官さんが教えてくれます。ほら、行きますよ!」


 はやくはやく! と手を引く看板娘に引きずられ、俺とついでにうゆも引っ張られる。


「待てまて! こっちの宗教? の礼拝の仕方とか知らないんだけど!」

「そんなの、ある程度敬意を持っていれば怒られませんよ」


 どうやらだいぶ緩い宗教らしい。

 しかし、現実でなにかの宗教に入ってる人は、たとえゲームでも神殿に入るのは嫌がるんじゃなかろうか。ゲームはゲーム、で割り切れるならそれに越したことはないけど。


 ――

 ――――

 ――――――


「ようこそ、聖サクラ神殿へ。本日はどのような……あら、コトネさんではないですか」

「こんにちは。今日は旅人の方を案内しにきました! 何にも知らないらしいので教えてあげてください」

「あらあら、それは殊勝な心がけですね。それでは当神殿について掻い摘んでご説明しましょう」


 どうも受付の女性神官は看板娘の顔見知りらしく、目があった瞬間スッと手を解かれてしまった。悲しい。逆にうゆはいつまで手を繋いでるつもりだ。

 そうこうしているうちに、神官の説明が始まる。


「まず、ジョブというのは職業ではありません。可能性だと思ってください」

「か、可能性……?」


職業安定所じゃなかった。


「皆様が何をし、何を見てきたかにより、新しい可能性が開かれます。その可能性が、ジョブという形で顕現するのです」


 プレイヤーがソムニウム・セフィアでどんな行動をとったかによって、就けるジョブが増えていく、ってことかな。いいね、嫌いじゃない。

 世界を深く広く楽しんだものが、より高みへ登れるシステムなのだろう。


「神殿なんて言うから、てっきりジョブは神が授けてくださるもの、なんて言われるのかと思ったな」


 ほら、よくある『10歳の儀式の際に神から授かる天職で剣聖に選ばれた俺は~」みたいなやつ。


「いいえ、人の運命は神様が決めるものではありません。自らの手で切り開いていくもので、神様はただ見守っておられるだけなのです」

「ん、そうであればと願う他ないな」


 なんだか神道に近い世界観だ。上位存在からお前の役目はこれっ! と押し付けられるだけなんて御免だからな。


「可能性は他の可能性を邪魔しません。

 戦士のジョブに就くことで、魔法使いのジョブに就けなくなる、ということはありません。

 むしろ、戦士と魔法使いをマスターすれば、魔法戦士などの新しい可能性が見えてくるでしょう」


 おー、複合職! こういうのって組み合わせが無限大にありすぎて探すのも好きだ。

 戦士を極めて戦士の上位職に進むか、魔法使いとの複合職に進むか。なんなら両方やってもいい。ワクワクするな。



「しかし、将来的に魔法使いの道に進むと決めたのであれば、戦士の経験は無駄ではないか?」

「いいえ、決して無駄にはなりません。たしかに、ジョブのレベルやステータスは、他のジョブには影響しません。

 ですが、各種ジョブのマスター時にはマスターボーナスが得られ、それらは他のジョブにも適用されます。

 参考までに、戦士のマスターボーナスは筋力+2、頑丈+1です」


 なるほど、色んな職業をマスターすることで、能力値の底上げがされていくのか。筋力2、頑丈1ってそんなに大きい気がしないが、塵も積もれば無視できない数値になっていきそうだ。


「また、各種ジョブには初期スキルカードが配置されていますが、ジョブをマスターすることで他のジョブでも使用できるようになります。以上から、当神殿では様々な職を経験することをオススメします」


 オススメされてしまった。なるほど、運営的には色んな職を経験してねって思惑があるのだろう。

 ふと気付けば、たくさんのプレイヤーが周りを囲み、神官の話を傾聴している。観光地のガイドさんみたいでなんだか面白い。



「お好きな神像の前で祈ることで、新しいジョブが降りてきます。今は何もなくとも、様々な経験を積んだ暁には新たな可能性が見えてくるでしょう。

 皆様も是非、定期的に祈りを捧げにきてくださると幸いです」

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