心の余裕はお金で買える
「しめて9,660トラオムだぜぇ。ほらよ」
寝具屋の親父が高そうな水晶玉を取り出しこちらに差し出してきた。
しかしボス戦一回で枕4つ分の代金になってしまったが良いのだろうか? いや、結構頑張ったから命の値段としては安いのだろうが。
水晶玉をありがたく受け取ろうと手を伸ばすと、バカやろうと一喝された。解せぬ。
「あのー、皆さんトラオム結晶は持ってないんですか?」
看板娘の言うことには、どうも親父の取り出した水晶玉はトラオムクリスタルと言うもので、水晶玉同士をぶつけることで指定した金額を移すことができる装置らしい。
ちなみにトラオムクリスタル自体はインベントリから取り出すことができた。クリスタルをガンッとぶつけて取引終了。危うく親父の全財産かっぱらう所だった。
「銅貨とか銀貨の出番かと思ったのだがな」
「硬貨とか渡されても困るだろ。はい、一人3,220トラオムな」
硬貨や紙幣なんて今日日お目にかかること自体稀だ。電子決済に似ているこの方法はある意味慣れっこだと言えるだろう。
とりあえず俺が一括で受け取ったので、2人にも分配しようとクリスタルを構える。
「ん、私の分はノクスが管理してくれ。数字に強いみたいだしな」
「お、同じく……」
「俺は別に構わないけど、少しは持ってないと困るかもしんないだろ。持ち金0じゃ心配だからちょっとぐらい持っとけ」
2人はそれなら……といった様子でクリスタルを取り出し、それに向かって3,220トラオムと念じながらガンッとぶつける。慣れればめちゃくちゃ簡単だなこれ。あとぶつける時の感触が気持ちいい。
「纏ったお金が手に入ったな。いい加減初心者の服を卒業しても良い頃合いだろう、防具屋でも探してみるか?」
「ギガコケコ戦で全員レベルMAXになったし、転職もしたいよな。野次馬が戦士がうんたらとか言ってたし、どこかで職につけるんだろ」
「写真を現像する方法も探さないと……この街にあればいいんですが……」
うーん、やることがいっぱいだ。
始めた当初は何をやればいいのかさっぱりだったが、今はもう積み重なったタスクでいっぱいいっぱい。
タスクが積もりに積もると、タスクのどれかではなく全く関係ないどうでもいいことをしたくなるのは悪い癖だ。部屋の掃除とか。
それがもう妙に捗るったらありゃしない。
「それでは、わたしが街の紹介がてら神殿まで道案内してあげましょうか?」
今後について3人で悩んでいると、看板娘から提案が入った。
「ん、願ってもないことだが、良いのか?」
「まだ暗くなるまで時間ありますし、いいですよねお父さん」
「おう、寄り道は程々にしとけよぉ」
「ってことなんで、皆さん行きましょう! 感謝してくださいね!」
るんたったー♪ とスキップしながらお出かけの準備をしだした。やけに上機嫌だなこいつ。
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「ここの通りが武器屋通りで、色んな武器屋さんがありますよ!
ただ、この街にはあまり良い鉱石が回ってこないので、腕の良い鍛冶屋さんは王都や鉱山の近くに引っ越しちゃうんですけど」
「コトネは物知りだな」
「自分の住んでる街のことですからね!」
看板娘の案内で街を散策する俺達3人。街に入った時はすぐに寝具屋を探しにシフトしたし、よく考えればまともに街を見るのは初めてかもしれない。
武器屋通りだけあって冒険者らしい人やプレイヤーが多数武器を物色している。武器のウィンドウショッピング、楽しそうだな。
「こんなに武器屋が並んでるのも変な感じだよな。供給過多になりそうなもんだけど」
「日常的に使うものですから、たくさんあってもいいんじゃないですか? 人によって好みがありますから」
「お、お洋服屋さんがたくさんあるようなもの、なんでしょうか……?」
「あー、なる」
現実世界でも服屋は服屋で纏って並んでいることが多いし、この世界では同じように武器屋の需要が高いのだろう。
まぁモンスターの出る世界だしな。あの店の武器はグリップがーとか、切れ味がーとか、研ぎ直しサービスがーみたいなのがあるのだろう、きっと。
これらの武器屋は、武器を仕入れて販売している訳ではなく、自分で作って店先で販売しているようだ。鍛冶屋兼、武器屋というべきか、店の奥の工房的な場所からは金属を打つ音や木を削る音が聞こえて耳に楽しい。
鉄と埃と汗の混ざった、部室みたいな匂いが堪らんよな。男の子ってこういうのが好きなんでしょ、といったら否定できない。
「ん、樫の棍棒が売ってるぞ」
「本当だ……え、1,850トラオム……!?」
たっけー! いや、今は買える金額だけど、1時間ちょっとのバイト代で3本渡していいやつじゃなさすぎる。
「お父さん、世話焼きなんですよ。全く困っちゃいますよねぇ」
「コトネも人のこと言えないだろう」
「えー、そうですかぁ~?」
自覚がないのかこの親子は。今度差し入れ持っていこ。羽30個上乗せじゃ割りに合わなすぎる。
「次は薬屋さんです! あそこのお店には風邪ひいた時とかはよくお世話になって……」
「あっ、コトネちゃ……!」
意気揚々と飛び出していった看板娘の前に、大柄なプレイヤーが走ってくる!
俺は咄嗟にコトネの手を掴み抱き寄せ、あわや正面衝突を間一髪回避できた。
ニアミスした大柄なプレイヤーはすまぬすまぬと手を上げ走り去っていく。
「大丈夫か? コトネ」
「び、びっくりしました。すみません、周りを見てませんでした」
フルダイブ型のゲームは、他の人に当たってもすり抜けたりしない。初日にうゆが揉みくちゃにされてたのが良い例だ。
こんなに小さい看板娘が図体のでかいプレイヤーとぶつかって怪我しない訳がない。
「怪我がなくて何よりだけど、気をつけてくれよ」
「そうですね、怪我させたらお父さんに何て言われるかわかりませんし」
ん? 怪我させたら?
どうやら看板娘は既にいくつもの職業をマスターしており、今ついている職も相当レベルが高いので、プレイヤーとぶつかったらステータス差で向こうが吹っ飛んでしまうらしい。
「将来の為に色々経験しておけっていうのがお父さんの口癖なんです。
大きくなったら寝具屋さんを継ぐつもりではあるんですけどね」
参考までにステータスを聞いたら、筋力だけで35はあるそうだ。
俺、5しかない……うわ、幼女こわ……。




