敵を知り、己を知らざれば
「なんだこのニワトぎゃーっ!」
哀れニワトリの近くにいたプレイヤーは執拗に嘴に啄まれ、ポリゴンになって消えていった。プレイヤーも死ぬときはポリゴンになるんだな。
うゆとフェリシアの肩に手を置き、標的になりにくいよう姿勢を低くする。
どうみても雑魚モンスターじゃないんだが。フィールドボスか何かか?
「えぐっ……死んだらどこにいくんだろ」
「急に哲学的な話か?」
「いや、リスポーン地点の話」
「い、今はそんなコト考えてる場合じゃないですよ!」
巨大ニワトリは周囲のプレイヤーを無差別にポリゴンへと還している。俺達の方に来るのも時間の問題だろう。
「どうする? 逃げるなら今のうちだ」
妥当な提案だ。この距離ならうまくすれば逃げ切れるかもしれない。
夢とはいえ死ぬのは夢見が悪い、ここは命をだいじに……。
「の、ノクスくん、うゆちゃん……や、やりませんか……?」
おいおいマジか。うちのバーサーカーさんはやる気みたいだ。
思わずうゆと顔を見合わせる。
「倒したら鶏肉がドロップするかもって理由じゃないよな?」
「むぅ……ノクスくんになんて思われてるんですか……?」
「食いしんぼ」
もぉ……と不服そうな表情で、肩に頭をこてんと置かれた。えっ、急にモテ期きた!?
…………あっ、もしかしてうゆの真似で頭突きのつもりっすか?
「ん、いちゃつくのは後でしてもらうとして、なぜ倒す気になった?」
「いちゃっ!?」
そそそそんなつもりじゃ! と高速首振りで否定する。
全く、こっちは健全な中学生なのだから、思わせぶりな態度はやめてほしい。勘違いしちゃうだろ。嬉しいのでありがたく頂戴しておくけど。
「あ、あの、理由、って程じゃないんですけど…………その、夢、なので……!」
「夢? 巨大なニワトリと戦うのが?」
いてっ、今度はねこパンチされた。どうやら違ったらしい。
「めっ、ですよ……?」
「ごめんなさい、続きどうぞ」
うゆのヤツ、声を殺してるけどケラケラ笑いやがって。後で覚えとけよ。
「こ、この世界は夢、なので……その……どうせなら楽しそうな方、選んでみませんか……?」
フェリシアの提案にハッとする。楽しそうな方、か。
敵に見つからないようこそこそと逃げ回るのと、仲間を信じて強大な敵に立ち向かうの。
「敵に立ち向かったほうが絶対楽しいに決まってるよな……!」
「はい……!」
「いつのまにか安心、安全、安定な考えに染まってたぜ。
俺はソムニウム・セフィアで冒険がしたかったんだ。初見の強敵にビビって逃げてちゃ世話ないな」
「そ、そうです! 勝てるかじゃなくて、挑戦することが大事なんです!」
なんか、フェリシアの原動力がわかった気がする。できる、できないを考えるより先に、まず挑戦してみるというタイプなんだろう。
「血の気の多い2人だ、嫌いじゃないぞ。
夢だから死んでもリスポーンするだけだし、今ならデスペナもそう重いものではあるまい。当たって砕けろ精神だな」
「わりぃな、付き合ってもらって」
「ん、これで除け者にされてたら泣いていた所だ」
およよ、と下手な泣き真似で冗談を垂れる程度には乗り気らしい。
「当たって砕けろ、とは言っても、最初から負けるつもりで挑むつもりはない。
まずは観察だ。2人とも、デカピヨを見て気付いたことは何でも共有してくれ」
栄養にならないだろうに、プレイヤーを執拗に狙う巨大ニワトリを見る。他のプレイヤーには悪いが、観察の糧にさせてもらおう。
「クチバシを上から下に振り下ろしてつつく攻撃がメインか……?」
「ん、なら横や後ろには攻撃が届かなさそうだ。一先ず前方90度が攻撃範囲と見做そう」
「3、4回突かれたら死んじゃうみたいです……!」
「ん、つまり即死じゃない。攻撃が直撃しても即退避すれば助かる可能性がある」
姿勢を低くしつつ戦いっぷりを観察していると、近くのプレイヤーを蹴散らしたらしく次なる標的を探して首をクイクイ動かし……体を俺達の方に向け小走りで駆け寄ってきた。
「……どうやら私達が標的にされたらしいな」
「全然観察足りてないけど!?」
「ん、まずは様子見だ。正三角形の頂点のように120°ずつ散開して、ターゲットされてる者は回避に専念。攻撃に意識は割かなくていい。
横や後ろを取った者は、軽く攻撃しつつどこが攻撃が通りやすいのかを確認」
「狙われてる時は避けるだけ……!」
「全力での攻撃はまだストップだ。誰か1人でも倒れたら恐らく詰む。
タゲが移ってもすぐに回避行動に移れるよう余裕を持って攻撃するんだぞ」
「あいよ。なんか気付いたら都度大声で共有ってことで」
おっと、巨大ニワトリさんがもう目と鼻の先だ。作戦会議中なんですけど、もちっと待ってくれませんかね?
ダメ?
「散開! ノクスは左、フェリシアは右だ!」
「よっしゃあ! やってやるぜ! 寝具屋の親父の名にかけて!!」
「ね、眠りに誘ってあげます……!」




