それを売るだなんてとんでもない
家具カタログを矯めつ眇めつ見ながら、あーでもないこーでもないと話し合っていた所、フェリシアからの「今日は遊ばないんですか?」というメッセージを2人同時に受け取り、急いでソムニアにログインした。
なんだかんだ1時間は駄弁ってたな。
2回目のログインはメニューのファストトラベルから一発だ。街をのんべんだらりと歩くのも悪くはないが、また誰かに襲撃されでもしたら余計時間を食ってしまう。
――
――――
――――――
「わり、遅くなった」
ソムニアにログインして寝具屋を覗くと、奥でフェリシアと看板娘が座って内職していた。
「いえ、大丈夫ですけど……ノクスくんのお家に居たんですか?」
「ん! 新しい服も買ったんでな、見せびらかしに行っていたぞ」
今度フェリシアにも見せてやろう、とノリノリだ。どんだけ自慢したいんだこいつ。
「コトネも昨日振りだな。息災だったか?」
「昨日の今日で何も変わりませんよ」
看板娘は相変わらずつっけんどんだが、口の端がムニムニしている。まったく可愛い奴め。
2人の隣に腰を降ろすと、すかさずうゆも隣に座ってくる。
「それで、フェリシアはなに作ってるんだ?」
「えっと、昨日うゆちゃんが言ってた、竹の抱き枕なんですけど……」
「おお! これをフェリシアが作ったのか!?」
竹夫人、だったか。抱き枕のような長さではないものの、竹籠の上部分も閉じたような形状で、しっかりと中が空洞になっている。
「えへへ、コトネちゃんと一緒にです」
「何言ってるんですか、わたしはちょっとだけ口出しただけですよ!」
「手も出してくれましたよね?」
「それは、そのぉ……」
何やら知らぬ間に距離が縮まったらしい。うんうん、仲良き事は美しきかな。
俺がログインした時には既にソムニアにインしてたし、相当時間をかけていそうだ。
「じゃ、この竹枕は2人の合作って訳か。フェリシアって手先が器用なんだな」
「そんなこと……以前体験学習で、竹細工をさせて貰ったことがあるんです」
一言断って手に取ってみると、竹籠のように適度な固さであることがわかる。全体重をかけると流石に潰れるだろうが、半身を預けるだけなら十分な強度はありそうだ。
うゆが隣から手を伸ばしてきたのでパス。ぐいぐい押したり抱いたり忙しそうだ。まぁ発案者だし気になるよな。
「あ、あの、ノクスくん……」
「どした?」
「その……褒めて貰えると、嬉しいです……!」
な、なんだ? 今日はやけにぐいぐい来るぞ?
『私は褒められると嬉しいぞ!』
…………思い起こされるのは、昨日のうゆ。もしかしてもしかすると、変な影響受けたか?
恐る恐るフェリシアの頭に手を乗せて、撫でてみる。
「こんな立派な竹枕作れてフェリシアはすごいな」
「えへ、えへへ……♪」
どうやら正解だったようで、ホッと胸を撫で下ろす。
まぁ、変な影響とは言いつつも、自分の意見をはっきり言うのって大事な事だしな。
怖い顔でこっちを見てくるだけの看板娘は、一体何考えてるのかさっぱりだしな。
「それではコトネは私が褒めてやろう。フェリシアを手伝ってくれてありがとうな」
「そ、そんな当然のことですっ! 褒められるような事じゃ……」
口では反論するものの、大人しく撫でられている看板娘。子供が子供を褒めているような微笑ましい光景だ。
まったく、子供は謙遜なんてしないで素直に褒められていた方が可愛げがあるというものだ。
「ところでこの抱き枕ってどうするんだ?」
うゆの膝上にある竹で編まれた抱き枕を指して尋ねる。このままだとうゆに奪われるぞ。
「か、考えてませんでした……。
お店の竹を使わせて貰ったので、お店のものなんじゃないでしょうか……?」
レベルも2上がりましたし……と申し訳なさそうに上奏する。
「やるなフェリシア! モノづくりでレベル上げだなんて偉いぞーっ!!」
「ひゃぁ~!」
フェリシアの下げた頭をわしゃわしゃ~っと撫でくり回す。
自分だけレベル上げして申し訳ないとでも思ってんのか? 仲間の成長が嬉しくない訳ないだろうが!
褒めろって言われたら褒め倒すぞ俺は! 覚悟しとけ!
「あのー、竹枕なんですけど、うちで買い取るっていうのはいかがでしょうか?」
フェリシアをよしよしと褒め殺していると、看板娘がおずおずと提案してきた。
「制作費から素材費を引く形になっても良いなら、ですけど……それでも、3000トラオムぐらいは出せると思いますよ!」
細かい所はお父さんに聞いてみないとですけど、と尻すぼみになっていく。
「買い取りかー。フェリシアはどうしたい?」
「え!? ええと……」
買い取り提案自体は嬉しそうだが、買い取って貰えるなんて、でも……と、いまいち踏ん切りがつかない様子。
看板娘は気が気じゃないようで、300、いえ500トラオム上乗せしても……とごにょごにょ言っている。
「なぁ、買い取りっつーことは、商品として並べるんだよな? 寝具屋のお眼鏡にかなっ……」
「そんなことはしませんっ!」
おっと、食い気味に否定されたぞ。
素人の手芸品だから並べることはできない、という訳じゃ無さそうだ。
「…………決めました」
しばらく考えていたフェリシアだが、看板娘をしっかりと見て答えを出した。
「売るのは、止めときます……でも!」
涙目になりかけた看板娘だが、続きの言葉があると察し大人しく待つ。
「代わりにこれ、コトネちゃんにプレゼント、します……!」
丹念込めて2人で作った竹枕をうゆの膝からサッと取り、看板娘に差し出した。
思わず腕を伸ばしたうゆをペシンとはたいて嗜める。今度もふもふの枕買ってあげるから我慢しなさい。
「え……ええーっ!? わ、悪いですよ、そんな!」
「コトネちゃんが欲しいのかなって思ったんですけど……も、もしかして、要らなかったですか?」
「そんな事ありません!
……本当に貰っていいんですか? 返せって言われても返しませんよ?」
「言いません!
でも……後で使った感想を教えてくれたら嬉しいです」
「そんなの当たり前じゃないですかぁ!」
やったー! と竹枕を抱きしめ、くるくると踊る看板娘。フェリシアも喜んで貰えたようで嬉しそうだ。
しばらく回り続けたあと、俺とうゆの生暖かい目線に気付き「よ、用事を思い出しました!」と走り去っていった。
ありゃあ、寝室に竹枕を置きにいったんだろうな。




