特別な訓練を積んでいます
「えっ?」
気がついた時には仰向けで寝っ転がっており、薄紫色の夜空にはお遊戯会のような星、星、星。ときどきロケット。
「ここが……? なっ、体が動かない……金縛り!?」
「あれ、もう喋れる人がいるんですか? ……でも体は動かないみたいですね、そりゃそうだ! 無理に動かすとヘンに覚えちゃいますから、ゆっくりコントロールを取り戻してくださいね!」
突如聞こえた謎の声に戸惑いながら、体を動かそうと意識してみる。
通説だが、金縛りは意識は覚醒しているのに体はまだ寝ている、という時に発生するらしい。もしここが夢の世界なら、それに近いのではないだろうか。
ゆっくり深呼吸し――深呼吸できるのなら顔は動かせるんじゃ? そういえばさっき喋れたしな、と思い直す。首ならなんとか動きそうだと横に振ってみれば、同じように倒れている人、それも複数人いるらしい。
こいつらも金縛りにあってるのだろうか。
「明晰夢をご存知ですか? 夢の中で夢を自覚し、体を思い通りに動かすってコツがいるんです。チュートリアルの今のうちに慣れちゃいましょう!」
どうも進行役が言うには、皆こんな感じらしい。よかった、自分だけ動かせない訳じゃなくて。
昔はこうして一堂に集まらず、ゲーム起動時にトレーニングAIとマンツーマンで練習していたのだとか。
周りに醜態を晒さず個別に訓練できるなら俺もそっちで……とは思ったがその方式だと動き方の定着率が非常に低いことが判明した為、同じ時間帯にニューゲームを開始した人が合同で行う今の形式になったそうな。
しばらくすると、あーだの、うーだの言う声が聞こえてきた。だんだん喋れるようになったのだろう。そう思うと、自分は夢に適合するのが早い方なのだろう、進行役にも褒めて貰ったし。
「俺達をこんな所に連れてきてどうする気だ!」
「デスゲーム会場じゃありませんよー」
突如放り込まれたネタに辺りがクツクツと笑いがこぼれてしまう。俺も何かしらぶっこみたくなったが、得てして二番煎じは白けさせるものだと知っている。なんならいま知った。顔も知らない男の人に感謝。
「むお、む、ぐぬぬー」
ちょっと気合を入れすぎな女の子の声が聞こえる。
女子校では異性の目がないからと野生溢れる女子が増えると従姉妹が語っていたが、あまり幻想を壊さないで欲しいものだ。女子校はイチゴと桃の匂いだと信じている。
「力を入れても慣れないうちは動きませんよー。そうそう、現実とは大きく離れたアバターをお使いの方は、慣れるまですこーし苦労すると思いますよ!」
そう、これはアバター作成時にも注意されることだ。夢幻現実は、身長、性別、年齢すべて自由に変更できる。俺はベースとして自分の体をスキャンしたあと、目はもう少しツリ目に、鼻も高く、といじっていたらギリ人間と言えなくもない宇宙人みたいなのができあがったので、速攻ですべて元に戻した。俺に3Dの美的センスはなかったらしい。
身長だけは5センチほど伸ばしたが、まぁ成長期だしすぐに追いつくだろう。
そんなこんなを考えながら悪戦苦闘しつつ、ちょっとずつ体を動かせるようになった。と言っても時間にすれば1分ちょっとだろう。その頃には大抵の人が辿々しくも動かせるようになったようだ。ちなみに体を起こすのは他人に先を越された。ちょっと悔しい。
ほら憧れるじゃん、普通の人は初めてのフルダイブシステムで立つのもやっとな所、異様に早く適合して現実以上に動けるっていうあれ。
SNSではちらほら見かけたからもしかしたら自分も、って思ってたけど悲しいかな現実は非情なものだ。
落ち着いて辺りを見渡してみると、この空間にはざっと40人ほど集められているらしい。男性から女性、子供から大人、髪色も青や緑、ピンクと非現実的な光景が広がっていた。
中には高齢者アバターも居た。すげー強いジジイ、ロマンあるよな。弱いジジイ時代は考えたくない。
服は一様に村人Aとでも言おうか。別にダサくはないが没個性な初期装備だ。
「えー皆さんが起き上がるまでに1分25秒かかりました! 平均的でーす」
そんな中、一人だけ海な方のセーラー服でおめかししているのが進行役の彼女だ。非常に可愛らしいが、この場では逆に浮いている。
「あ、いいでしょこの服! 皆さんも夢幻世界で生活していけば、色んな衣装がゲットできちゃいますよ~!
改めて、はじめまして! GMにょこでーす! 夢の水先案内人ってことで、みんなが夢を迷わないように先導してあげちゃいます!」




