夢見る機械
「それじゃ、寝るから」
お風呂と歯磨きを手早く済ませた俺は、居間でくつろぐ両親に声をかけた。
「お、早いな。そんなに楽しみか」
「うん。寝れればいいけど」
「心配ないさ、全身麻酔より効くぞぉ。眠気に抗ってやろうと思った次の瞬間には……」
「ちょっとお父さん。まひるは寝るって言ってるでしょ」
「おっと、すまんすまん」
母から軽く注意が飛ぶが、父も俺を心配してのことだろうし悪い気はしない。
「いや、別にいいよ」
「それじゃ、おやすみ。良い夢見るんだぞ」
「うん、おやすみ」
こうして自室に戻り、親に買ってもらったばっかりのリストバンドを付け、布団に横たわる。
普段ならば寝る時間までゲームでもしている所だが、殊勝なことに早寝を決め込んだ。
と言っても明日が早い訳じゃない。このリストバンド型の装置、ワンダリングドリーマーが楽しい夢の世界に誘ってくれるからだ。
仮想夢幻(Virtual Dreamity)。
フルダイブ型の仮想現実(Virtual Riality)が実現して民間にもちょいちょい降りてきたは良いものの、機器の高価さ故に気軽に手が出せず、安くなったらフルダイブ型ゲームも開発される未来もあるだろうとゲーマーは未来に胸躍らせていたころ。
突如なんとかって名前も聞いた事ない会社が発表した、お手頃な金額で手に入るフルダイブ型ゲーム機、それがワンダリングドリーマー、略称ワンドリだ。
夢のような現実ならぬ、現実のような夢を体験できるという触れ込みで、なんと睡眠をとりながら夢の中で大冒険ができるのだとか。
そう、睡眠を削ってゲームする時代は終わり、ゲームする為に睡眠を増やす時代になったのだ!
正直、本当に安全なのかとは半信半疑だ。睡眠という生きるのに必要な行為を、機械で遊びに充てていいのか。
今では大企業だが、当初は無名の会社が発表した夢を拡張する機械。一介の学生が疑問に思うことなどは当然他の人も思いつくもので、安全性だの健康被害だのが懸念された。けれど、こうしてワンドリが手元にあるということは、結局害がないことが証明されたということらしい。
むしろ、スッと眠れるようになり、途中で起きたりしないので睡眠の質が改善され、QOSが向上したんだとか。
ただ、小さい頃から得体の知れない機械を使って害があるといけないということで、満15歳以上なら使っていいですよと規制付きで発売されたのが3年前。
社会実験の結果、特に問題ない――むしろ生活の質が向上するのでワンドリの使用が推奨された結果、中学生から使っていいよと改定されたのが今年の5/1……つまり今日だ。
どうせならあと1年早く改定してくれれば、中1から楽しい夢を見れたのに、と思ってしまうのはわがままだろうか。
手首を口元に寄せ、リストバンド型のワンドリの匂いを嗅ぐ。新品の機械特有の匂いだ。この匂いが好きすぎて、それのアロマが欲しいと思ったことがあるぐらい好きだ。
機械の匂いが芳しいのは買って数日の間だけ、今のうちに思う存分吸っておこう。
閑話休題、俺がこんなにもワンドリに執心なのは、もちろん理由がある。
それがソムニウム・セフィア。略してソムニアという夢幻世界を舞台にしたフルダイブ型MMORPGだ。ウム・セフィ派もいるらしいが俺は断然ソムニアだね。
コントローラー越しにボタンをポチポチするのではなく、自分の体を動かしてモンスターと戦う姿はゲーマーなら誰でも妄想はしたと思う。
あと2年かー、と遠い話のように思っていた時に、あと1ヶ月で遊べますよと急に聞かされてからの日々は気が気じゃなかった。
テレビから少しでもソムニアと聞こえたらチャンネルを変えたり、クラスの友人が話し始めたら猛ダッシュでその場から離れたり。
楽しみにしているゲームは、できるだけネタバレなしで体験したい派だ。
執拗にネタバレしようとしてきたクラスメイトはローキックで許してやった。
――――その、夢にまで見たソムニウム・セフィアが、今日。
フルダイブに適性があってバッタバッタとモンスターを倒せちゃうんじゃないか? ユニークモンスターハンターなんて呼ばれちゃったりして。やばい興奮で眠れやしないぞこれ。と無用な心配をしつつ、リストバンドのパネルを長押ししてワンダリングドリーマーを起動する。
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NAME:白夜ノクス
Welcome Dream Dive!
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名前はいつもゲームで付けている名前にした。と言ってもオフラインゲームだけど。
さぁ、早く寝るぞ――と目をつぶった次の瞬間には、脳裏に見たことのないパステル調の景色が広がっていたのだった。




