夢から覚めても覚えていられますように
「ん、もうこんな時間か」
適当に駄弁りながらトントンと藁束を打つこと小一時間、窓から差す光が茜色に染まってきた。
こっちで夕方ってことは、そろそろ起きる時間か。
「そろそろお暇せねばな。世話になった」
「えーっ、もう行っちゃうんですか? 泊まっていけばいいのに……」
1時間もお喋りしていれば、それなりに仲良くなるというものだ。看板娘は女子組にすっかり懐いたようで、別れを惜しんでいる。
「なに、また明日も顔を出すさ。あのもふもふ枕を手に入れるという目標があるからな」
「取り置きしておきますから! 明日絶対来てくださいね!」
絶対ですよ! と顔を綻ばせ、念を押してきた。変な子じゃないけど悪い子ではないんだよな。
しかし、あまりにも寂しそうな顔に、何かできないか。
「そうだ、せっかくだし記念撮影しないか?」
「き、記念撮影、ですか?」
スポーン地点で記念撮影をしていたプレイヤーがいたから、特別なアイテムがなくても写真は撮れるはずだ。
メニューを開き、スクリーンショットを発見する。後はもう勝手知ったる現代っ子、1人称から3人称カメラに切り替えたら準備は完了。
宙に浮いてるように見えるレンズに目を向け、ピース。クラスの女の子はもっと別の色んなポーズをとっているが、俺はピースぐらいしか知らん。
「はいチーズ、と言ったら撮るからな」
「なんでチーズ?」
看板娘が口をすぼませて変な顔で疑問を呈する。そういやなんでチーズなんだろう。
「『ち』が口をニッとさせて笑ってるように見えるからだ。しかし『ズ』まで言ってしまうと、変な顔になる」
「あー」
「あー、じゃないですよっ! なんて顔させてるんですかっ!」
ぽかっと殴られるのを甘んじて受け入れる。あ、ちょっと痛い。ソムニアではノーダメ補正は掛からないようだ。
「じゃあチーズは無しで、他どんな言葉がいい?」
「あ、あの……タラバガニ、はどうでしょうか」
「タラバガニ?」
タラバガニってあの……カニだよな?
フェリシアのワードチョイスが独特すぎる。
「が、学校の友達が使ってるんですけど……か、かにー」
そう言ってはにかんだ顔の前でハサミのサインをとる。あー、丁度ピースサインになるし、ニッと笑えるしで理には叶ってるのか。
「ん、いいんじゃないのか。それでいこう」
「よし、じゃあカメラは向こうな。タイマーは5秒、行くぞー」
「えっ、もうですか!?」
急いで4人集まってポーズをとる。看板娘が真ん中で、俺達が取り囲むような配置だ。
「はい、たらばがにー」
「かに!」
「か、かにー」
「かにーっ!」
パシャリと音が鳴り、スクリーンショットが記録される。アルバムを見れば、いい感じに撮れている。
最近のカメラは自動補正でいい感じにしてくれるので、カメラ初心者にも安心だ。
「どうだ? うまく撮れてるか?」
「バッチリだ。皆にも送るわ」
共有機能からパーティーに写真を送る。無事受け取れたようで、フェリシアも「わー」と言っている。多分喜びの「わー」だろう。
「ん、写真というのは中々悪くないな」
「だな。これからも気軽にどんどん撮っていこう」
「あの。私には見せてくれないんですか?」
あっ。一番重要なことを忘れていた。住人にはスクショ共有ができないようで、プレイヤーのメニューも見えない。
どうやって看板娘に写真を見せたものか。
「あ、あの、コトネちゃんは写真の現像方法とか知りませんか?」
「すみません。あっ、でもお父さんなら知ってるかもしれません!」
せっかく4人で撮ったのに、見れない人がいるのはかわいそうだ。なんとかしてあげたい。
もし方法が実装されてないなら、運営に要望を送るのも辞さない。
「現像の方法探してくるからさ。悪いんだけど、それまで待っててくれ」
「仕方ないですね。現像できたら一番にくださいね!」
「もちろん!」
「ん、ノクス。私にも貰えるんだろうな?」
「しゃ、写真立て屋さんも見つけなきゃ……!」
「あるかなそんなピンポイントな店」
今は流石にないだろうが、時間が経てばプレイヤーメイドの凝った写真立てとかも出回るだろう。
もしくは、自分で作るのも手ではある。作ったことはないから、不格好なものができあがるだろうが。
「じゃあ、コトネ。また明日な」
「はいっ! 明日が無理でも、明後日でもその次でも良いので来てくださいよ?
じゃないと取り置きやめちゃいますからね!」
――
――――
――――――
「じゃ、俺たちもログアウトするか」
「そ、そうですね……」
「ん」
口ではそう言いつつも、誰も解散しようとせず寝具屋の前でぐだぐだする。このまま解散するのはもったいない気がして、もう少しこの雰囲気を味わっていたい気もある。
うゆは寝具屋から出た瞬間、また腕の引っ付き虫になった。屋内なら良いが、外に出るとまだ不安らしい。
「そういや、あれだな。折角のゲームなのに、色々とグダって悪かったな」
「そ、そんなことないです!」
「ん、自省しているところ悪いが、私には大冒険だったぞ」
「そっか、なら良かった。俺もすっげぇ楽しかったよ」
そんな取り留めのないことをぐだぐだ話してると、寝具屋の親父から「解散すんならさっさとしろおぃ!」と野次が飛んてきた。
寝具屋は大通りから外れた住宅区域にあるので住民しかいないようだが、他のプレイヤーも今頃ログアウトし始めていることだろう。
ちなみに親父は写真の現像方法を知らないそうだ。住人はスクショ機能を使えないらしいので、知らなくても無理はないか。
「ふふっ、こういう時間も愛おしいな。じゃあノクス、フェリシア。また明日、だ」
「えっ、明日もご一緒していいんですか?」
「良いに決まってんだろ、イヤじゃなきゃ明日も遊ぼうぜ」
ぶんぶんと頭を上下に振って是を示すフェリシア。頭を振る勢いに当初はビビっていたが、流石に一日付き合っていれば慣れるというものだ。
寝ている間に個性的な友人が2人もできただなんて、昨日じゃ考えられないな。
「…………そうだ。こういう時に、後腐れなく解散する方法って聞いたことある?」
「ん、寡聞にして知らないないな。どんな方法だ?」
あくまで俺の周りで伝わってるやつだけどな、と断っておき、大まかに伝える。
恥ずかしがる人もいるかと思ったが、意外にもフェリシアが乗り気だ。
顔の前に人差し指と中指を立て、忍者のように構える。2人もそれに倣って同じようなポーズを取って、ニンッ。
「じゃ、行くぞ…………散!!」
「「散っ!!」」
これを合図にみな思い思いの方向に走り去る、これが解散の儀式……。
いつまでも解散できない時に便利だな、これ。
「ってなんでうゆはこっち来てんだよ!」
「腕に捕まっているのだから仕方ないだろう!」
それはそう!!
「ともかく、またな!」
「ん! また明日会おう!」
そうしてメニューを開いてログアウトを探して……もたもた……もたもた。
「ノクス、右下だ、右下にあったぞ」
「お、サンキュ」
お互い顔を見合わせ苦笑いし、夢の世界からログアウトしたのだった。




