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サンドバッグの達人

「つっても鈍器なんて教えることなんざたかが知れてらぁ。坊主、これで殴ってみろ」


 そう渡されたのは、先程628ダメージを叩き出した黒の鈍器。

 もしかして、この鈍器、伝説級の……!?


 ――――――――

 使い古された横槌

 攻撃力+3

 藁や砧(きぬた)を打つ時に使う大工道具。くたびれてはいるが大事にメンテナンスされている為、性能劣化はしていない。

 ――――――――


 武器じゃねぇし攻撃力もひくっ! え、これであのダメージを……?

 フェリシアも横から性能を覗いたらしく、びっくりして親父の顔と横槌を交互に見ている。達人は武器を選ばないもんだな。


 フェリシアの腕に宿主を変えたうゆが、早くやれと後ろからせっついてくる。全くせっかちさんだ。

 しかしこの横槌、異様に握り心地がいいな。剣と違い妙な自信は湧いてこないが、逆に安心感がある。

 俺はサンドバッグの前に立ち、袈裟斬りと同じモーションで殴りつけた。


 ダムッ、と鈍い音が響き、ダメージは……23?

 えぇ……剣の10倍以上出てるし……。親父さんには敵わないまでも、見違えるほどのダメージだ。思わず横槌を見るが、特別おかしな所はない。


 気持ちよくなり、何度か軌道を変えて殴りつけると、25、27……とやる度にダメージが増えていくのがわかる。

 微調整を繰り返し、体に覚えさせていく。


「ノクス、次は私だ!」

「あいよ、怪我すんなよな」


 俺が一心不乱に槌を打ち込んでいると、うゆがやりたそうに催促してきた。わかるよ、やりたくなるよな。ハサミのように横槌の持ち手を相手に向けて手渡すが、これで合ってるんだろうか。


 パシンと受け取ったうゆは、ふんふんと腕を回しながらサンドバッグに近づき、どんっ、と容赦なくどつく。

 ダメージは18と表示された。勝ったな。


「親父殿、コツはあるのか?」

「力を抜くことだな」

「力を入れるのではなく?」


 親父の説明によると、力を入れるのは武器が相手に当たる瞬間だけで、武器を振っている時は脱力するのが大事なんだそうな。


「ん、やってみよう」


 コツを聞いて何回か繰り返し殴打するうちに、30、33と俺のダメージを上回るようになっていく。ま、負けた……!


「ふぅ。次はフェリシアだな」


 やがて満足いったのか、ふんすと息を吐き後続にバトンタッチだ。

 フェリシアもやりたかったのか、パシンと受け取りグッと胸元で横槌を握りしめる。


「え~い!!」


 サンドバッグの前に立ち、力を込めて鈍器でドンッ!

 さらにドンッ!

 おまけでドンッ!


 ダムダムダムダムとダメージを稼いでいく我らがバーサーカー。

 頼もしいぜ、と思っていると、竹箒を持った親父がフェリシアの前方に移動し、竹箒をゆっくりと振り下ろした。



「あいたっ!」


 ゆっくり攻撃されたにも関わらず、フェリシアはすごく驚いている。

 あれか、攻撃力3の武器で628も出したんだし実はすっげぇ痛いのか?


「嬢ちゃんよぉ、目ぇ瞑んじゃねぇ」

「ふぇ?」


 あぁ、目を閉じてたから攻撃に気付けなかったのか。そういや最初に俺が襲われた時も目を瞑ってたよな。


「やってやろうっつー気概はいい。けどな、相手はサンドバッグみたいに立ち止まっちゃくんねぇぞ。目を見開いて相手を見ろよぉ」


「は、はい……! やってみます……!」


 アドバイスを受け殴打を再開するが、先程のバーサーカーっぷりは鳴りを潜め、一発いっぱつ毎に「ひうっ」という声が聞こえてくる。


「武器を持つと攻撃したくなるのはわかるがよぉ、大事なのは相手の動きをよく見ることだぁ。

 相手の隙を見て殴り、相手の攻撃を見て避ける!

 剣でも棍棒でも他の武器でも変わんねぇ、基本のキだなぁ!」

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