オーソドックスが初心者向けとは限らない
センスが無い。
その親父の総評に俺は強いショックを……
「親父殿、それは当たり前だろう。武器を持ったのだって今日が初めてだ。少なくとも私はな」
うゆの言葉にフェリシアも頭を上下に振り同意する。俺もだ。
まぁつまりそういうことなんだよ。
触ったこともない武器をいきなり使えると考えるのはおこがましいというもので、ショックもそれほどない。
本音を言えば、最初から眠っていた天性のセンスを発揮して「し、神童じゃあ!」とか言われたかった気持ちもあったが、それは別の分野に期待しよう。
「わかってらぁ。ポヨヨすら倒せねぇペーペーがいきなり剣とか使えるわけねぇだろぉよ」
「ん。だから親父殿が剣の師になってくれるという訳だな」
おっ、なるほどなるほど、そう来るのか!
この親父、実はただの寝具屋と思わせて、隠居した剣聖だとか……!?
「バカヤロー、俺だって剣なんか使えねぇよ」
「使えないんかいっ!」
ただの寝具屋だったらしい。
「剣はよぉ、技術がねぇと斬れねぇんだわ。まっすぐ振り下ろすのも、刃を相手に食い込ませるのもな。
少しは練習しねぇと使いもんになんねぇのはわかるかぁ?」
ふーん、つまりカンッという乾いた音は、斬れずに弾かれてる音ってわけか。ゲームだしある程度は補正が働いても良さそうなものだけど、その分ただしく使えた時はダメージが伸びるということだろうか。
「あ、あの……包丁も、ちゃんと使わないと切れませんし……。
それを剣でやらなきゃいけないなら、大変だと思い、ます……」
「おっ、そっちの嬢ちゃんはわかってるじゃねぇか。っつー訳で、いっぱしに剣が使いたいなら道場なりで修行するんだなぁ」
そっかぁ。残念ではあるが、練習次第で俺も剣が使えるようになるっぽいな。
もしかしてリアルで剣道とか弓道を習ってる人なら、最初から戦えるのだろうか。
逆に言えば、ソムニアで剣の練習をすれば、現実でも剣道がめっちゃうまくなってるかもな!
……えーっと?
それはいいとして、親父は俺達に何を教えるつもりなんだろう。
「ま、剣が使えねぇ、弓が使えねぇ、どんな武器も練習したことねぇ。
そんなやつでも使える武器っつーのがこれだぁ。見たことあるだろ?」
そういって親父が取り出したのは、頼りなさそうな黒く使い古された鈍器だった。
「こ、棍棒?」
「おうよ! 棍棒は思いっきり振り下ろすだけだぁ、うちの娘だって使えらぁ。
コツが無い訳じゃねぇがなぁ」
手慣れた様子で棍棒をパシンパシンと掌に叩きつける親父。だいぶ様になっている。
剣聖じゃなくて棍棒聖だったか。もしくは山賊。
しかし棍棒、棍棒かぁ……カッコよくないなぁ。バーサーカーの武器じゃねぇか?
ちらりとフェリシアを見るが、ニコッと笑って小首を傾げられた。
うん、女の子に棍棒がお似合いとか言える訳ないだろ……やっぱりフェリシアには斧だよな。
「お前ら、棍棒つって見くびってんだろ。将来剣を使うにせよ、サブの攻撃手段はいくつ合っても損はねぇぞぉ
それに、斬撃が効きにくい相手に打撃は有効な事が多いからなぁ」
おー、武器相性。火、水とかの魔法属性の他に、残突欧の物理属性とかがあるんだろうか。
戦闘中に武器を変えられるなら、いくつか武器を修練しても悪くないような気がしてきたな。
「ま、手本って訳じゃけぇけど、どんなもんか見とけー」
そう嘯きながら親父はサンドバッグに棍棒を振りかぶる。
「らぁっ!!」
どんっ! と鈍い音を響かせ、サンドバッグが大きくしなり鳴動する。
表示されたダメージは……628。俺の314倍だ。
628って……え?
正直基準を知らないので、親父の実力がどれくらいかは推し量れない。ただ、俺と親父がタイマンしたら、一撃で消し飛ばされるのは明白だろう。
あまりの攻撃の迫力にフェリシアは口を抑えてすくみあがっており、うゆは目を瞬かせ親父に走り寄る。
「師匠!!」
あっ、抜け駆けしやがったこいつ!
うゆに負けじと俺も親父に頭を下げる。
「ずるいぞ! 俺も! 俺にも教えてください!」
「私が先にお願いしたんだぞ!」
「早いもの勝ちなんて誰も言ってないだろ!」
ぐぬぬー、と肩で押し合い一番弟子の座を奪い合う俺達。
「お、落ち着け、順番に見てやるからよぉ!」
後でフェリシアに聞いた話では、落ち着けとか言っておきながら親父はめちゃくちゃ嬉しそうに顔をニヤけさせていたらしい。




