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殴ると結構スッキリする

 まくら屋の親父に言われるがまま、裏庭に連れて行かれた俺達。

 看板娘――コトネと言うらしい――は店番だ。うゆより小さいのに本当にしっかりものだ。

 裏庭はそこまで広くはないが、4人がのびのびと運動できるには十分な広さだった。


 庭の一角で親父が何やら作業している、と思ったら、虚空からぼわんと木の人形が現れた。

 インベントリってNPCも使えるんだな。


「っていうか親父さん、稽古つけるって、なんか武術やってるんすか?」

「なんもやってねぇ。素人に毛が生えたようなもんだぁ」


 じゃあその筋肉はなんだよ。見た目だけなら寝具屋ってより鍛冶屋だろ。


「が、ペーペーに戦闘のいろはを教えることはできらぁ。

 おめぇら、武器は何使ってんだぁ?」


 武器かぁ、なんか使いもんにならない片手剣が一振りだけなんだよな。

 インベントリから取り出し、そういえばと性能を見てみる。


――――――――

旅立ちの剣

攻撃力+6

旅立つ者に贈られる餞別の片手剣。

――――――――


 うーん、普通の内容だ。当たり前だがダメージが出なくなる呪いがあったりはしない。

 相変わらず剣を装備すると気が大きくなったような気がするぜ。


「坊主ぅ、お前は剣を使うのかぁ?」

「一応? ポヨヨすら倒せないから使えるって言えないかもだけど」

「ま、見てやる。一先ずサンドバッグを斬ってみろぃ」


 あの木の人形はサンドバッグだったのか。剣で木なんか斬っても大丈夫か? と思いつつ、近寄って袈裟斬りに振るう。えいっ。


 カンッという音が鳴り弾かれる。ポヨヨと違う所は、ポリゴンではなくダメージが2と表示されたことだろう。

 実際の戦闘ではダメージなんか出ないが、このサンドバッグはダメージ表示機能があると言う訳っぽい。

 ダメージ2……2か。うん、どこに出しても恥ずかしいカスヒットだ。

 2回、3回と向きを変え速度を変え剣を振るうも、その都度弾かれてカスヒット。


 頑張れノクスー、と応援してくれている2人には悪いが、好転する気配がない。

 まくら屋の親父の顔を見ると「そんなこったろうと思ったぜ」となんか納得される。



「次はそっちの嬢ちゃんだぁ」

「い、行ってきます……! あの、うゆちゃん……?」

「む……」


 稽古中もセミのように掴まっている訳にはいかない。止まり木を無くしたうゆは俺を見るも、先ほどのせいか掴まってこない。


「気にすんなって。俺は別に構わないぜ」

「ん……そうか。恩に着る」


 フェリシアの代わりに、うゆゼミを腕に装着する。ガッシーン。

 全く、あのマセガキには困ったもんだぜ。


「早く一人でも大丈夫なようになるからな」

「そんなん、なんなくていいだろ」


 うゆの言葉がとても寂しく聞こえた。空いてる手で頭をポンポンと撫でてやる。



「嬢ちゃんの得物は何だぁ?」

「け、剣、です……!」


 さて、今度はフェリシアの番だ。

 剣を選んだのは、やっぱりRPGと言えば剣だからだろうか。

 フェリシアはサンドバッグの前に走り寄ると、両手で握った片手剣を大上段から振り下ろした。


 カンッ、と同じような音でダメージは3。えっ、俺負けてる……!?

 驚きはそれだけじゃない。一撃で終わらせず、何度も何度も剣を振り下ろし、カンッカンッと乾いた音を響かせる。

 おおぅ、さすが我らのバーサーカー……!


「おい、もういい、わかったっ! やめろやめろ!」


 バーサーカーは親父が静止しても殴り続ける。

 最終的に親父が無理矢理剣を奪い取ることで動きを止めた。フェリシアさんマジフェリシア。

 試斬が強制的に終了し、とぼとぼと歩いて帰ってくる。


「す、すみません、つい……」

「いや……あのままだとサンドバッグが壊れるかもしんないしな」

「壊れねぇよあんぐらいじゃなぁ」


 端から見れば思いっきり叩きつけていたように見えたが、サンドバッグはちょっとやそっとの事では壊れたりしないらしい。

 攻撃力の検証や鍛錬の為に、道場的な場所ではどこにでもあるとのことだが、壊れないのはゲーム的配慮だろうか。



「次、ちっこい嬢ちゃん。武器は何だぁ?」


 最後に披露するうゆはインベントリから杖を取り出し、両手に構える。今は誰の腕も掴んでいないが、杖があれば多少は安心するみたいだ。

 せっかくなので杖の性能を覗き見する。


――――――――

旅立ちの杖

攻撃力+3 魔法攻撃力+5

旅立つ者に贈られる餞別の杖。

――――――――


 普通だな。やっぱり杖系は魔法向きのようだ。


「ん、杖を使っている。本当なら魔法を使いたいのだが、如何せん魔法の使い方がわからなくてな」

「そんなのスペルチップをつけりゃあ……つけてねぇのか」

「ん、初耳だな!」


 威張るな威張るな、何も偉くないぞ。


「そんじゃ、しばらく魔法は我慢しとけ。なに、金さえ貯めればすぐにスペルチップぐらい買えらぁ」

「そうか。ではこの杖で……」

「一回だけな。魔法用の杖は柔い。全力で殴ったらすぐ壊れちまう」


 おっと、耐久値的な概念もあるのか。さっきはサンドバッグじゃなくて、フェリシアの剣の方が破損の危険があったな。


 満を持してふんふんと鼻息荒く登場し、やる気まんまんのうゆはサンドバッグの前に立った。

 杖を両手で持ち、高く高く掲げ……後ろに倒れかけてバランスを崩した。一回仕切り直しだ。


 もう一度上段に杖を掲げ、全力で振り下ろし、ぽこんっ!

 可愛らしい一撃だったが、ダメージはなんと5。

 うゆに負けた、だと……!?


「ふふん。見てたか2人とも」


 どやどやどー、と自慢げに帰ってきて、改めて腕にひっつく。

 見上げてくるうゆの髪をぐちゃぐちゃにするのが俺の精一杯の反撃だった。




「よーし、おめぇらのことは大体わかったぁ」


 3人の動きをチェックし終えた親父が厳しい顔で判定を下す。




「あーなんだ、簡単に言うとだな……おめぇらセンスがねぇ!」

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