寝具 SING LAND
「まくら? ありますけど……旅人さんが必要なんですか? 変わってますね、お客さんたち」
フェリシアが住人に聞いて探し当てたまくら屋の店番少女が、笑っていない笑顔で出迎えてくる。
やっぱりプレイヤーが寝具を求めて訪ねてくるのなんて珍しいのだろう。
っていうか本当にあるんだな、まくら屋。まるで住人がこの世界で生活しているような細かさだ。
「寝具店ですけど?」
笑ってない目はそのままに笑みを深くして訂正してきた。枕だけでなく布団も売っているのだろう、ってそりゃ当たり前か。
というか何で初対面でこんな好感度が低いんだ?
「そりゃあカップルがいちゃいちゃしながら枕欲しいって来たらこんなんにもなりますよ。
言っときますけど、Yes/Noな枕はありませんからね。うちは清く正しい寝具店なんですから」
はー、少しは人目を憚ってください、とため息を疲れる。カップルねぇ……見様によってはそう思われてもおかしくないか。
そう思い、未だに腕に引っ付いている元凶を見れば、俺とフェリシアを交互に見比べ、物知り顔で
「はぁ~ん?」
「はぁ~んじゃねぇよ、俺とお前のこと言われてんだよ」
思わず頭を小突いてしまった。
本人は思いもよらなかったようで鳩が豆鉄砲食ったように目を丸くしている。
「ん?」
「うゆ、お前誰にしがみついてると思ってんだ」
「え、あ、なんだ、その……違うんだ、すまん!!!」
己のしていることに今更気付いたのか、サッと腕から離れた。
が、何かを抱えていないと不安定になるうゆのことだ。案の定そわそわが再発し、目が泳ぎ始める。何か代わりに抱きつけるものは、と近くに居たフェリシアに駆け寄り、華奢な腕をぎゅっとホールド。
「悪い、そういうことだ!」
看板娘に見せつけるうゆ、ぽかーんとする看板娘、はわはわするフェリシア、乗り換えされた俺。
さっきまでうゆゼミが止まってた腕がうら寂しいぜ。
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――――
――――――
「娘が失礼したみたいでわりぃな。変な枕はねぇが普通の寝具なら任せろぃ」
きゃ~っ! と騒ぎ始めた勘違い娘の黄色い声を聞きつけて、ガッシリとした肉付きの父親が奥から躍り出てきた。
勘違い娘は父親の後ろで顔をちらっと出しては、うゆとフェリシアを見てはきゃ~っとはしゃいでいる。
別に変な枕の話はしていないが……この親にしてこの子ありとはこの事か。
「しっかし珍しいなぁ、旅人が枕を欲しがるなんてよぉ。
言っとくけど武器にも防具にもできやしねぇぞぉ」
「いや、今日はうゆ……この子用の枕を買いに来たんだ。っていうか枕なんて武器とか防具にならないだろ」
「あぁん? うちの寝具にケチつけようってのかぁ!?」
すげーな、寝具屋って起きてても寝言いい放題なんだな。
オヤジが急にキレるもんだからさっきまできゃーきゃー言ってた娘に殴られてんじゃん。
「わりぃわりぃ。でもよぉ、枕だって素材にこだわれば盾ぐらいにはなるんだぜぇ」
うーん、そうなのか?
たしかに魔力が上がる素材とかと組み合わせればMPが上がる枕とか作れそうだけど……。ファンタジーな世界だから何でもありなのかも知れない。
「ん、親父殿。今日はそういうのはいいんで、普通の枕を所望する。
もふもふで抱き心地の良いやつだ、あるか?」
「もふもふ!」
そう言い放つと看板娘は倉庫に走り去っていった。要望にピッタリと当てはまる商品に心当たりがあったのだろう。
いや、NPCだから検索したのか。……NPCだよな?
あまりに人と話してるのと変わらないから違和感を感じないぜ。
「抱き心地ねぇ。頭に敷くんじゃなくて抱いて使うのかぁ。
やっぱ旅人ってのは変わってんなぁ」
「あれ、おっさん達は抱き枕とか使わないの?」
「抱き枕ぁ? おいなんだそれは、旅人の間で流行ってんのかぁ?」
おっと、知らない寝具の話題に食いついてきた。
寝具屋だけあって、商売チャンスには目敏いのかもしれない。
「ん、抱き枕と言うのはだな!」
どうやらこの世界では抱き枕というのは一般的ではないらしく、枕フェチの疑いがあるうゆが鼻息を荒くして説明する。
横抱きにして寝る用の枕で、大きさは普通の枕でも機能上問題はない。
長い形状のものがあり、1つの枕で抱く、頭を乗せる、足で挟むができる。
動物を模した物も子供に人気で云々……あれ、俺のクラスメイト、抱き村の知識量超えてんなこれ。まぁあいつ抱き枕カバー目当てだしなどうせ。
「竹籠で編んだ筒状の抱き枕は竹夫人と呼ばれている。
足を乗せても潰れることはなく、中空故に熱や湿気が籠りにくく……」
「そいつはいいなぁ。夏は寝苦しいし、悪くねぇ寝具だぁ」
抱き枕談義はますますヒートアップしていく。
寝る時にはこうやって抱いて片足を抱き枕に乗せることで重さが分散され……と立ちながらフェリシアを抱き枕代わりに実演している。
最初ははわはわ言ってたフェリシアも、今は顔を真っ赤にしてされるがままだ。
「寝ている時と言うのは無防備故、枕を抱いていると安心感が……」
「旅人さ~ん! もっふもふの枕ありましっ……!?
きゃーっ!」
倉庫から勢いよく出てきた看板娘が、先程より濃密に絡み合った女子2人を目撃して歓声を上げた。
今回、キミは悪くないよ、うん。




