抱き枕の中身は意外と安い
結論から言えば、鬼を4回チェンジした辺りで疲れて座り直した。
「はぁ、はぁ……お前って意外と体力あるんだな」
「んふふ、実はそうなのかもな」
運動が得意な方ではないが夢の中なら少しは、と願っていたがそうでもないらしい。
うゆの腰まである髪がひるがえる度に、微かにくゆる匂いで呼吸が乱された訳ではないはずだ。
……女の子の髪って、近くを通るだけでいい匂いするよな。
「どうせ遊ぶならソムニアで、だな。そろそろ出掛けるとするか」
「異論はねーけど……ウム・セフィじゃなくていいのか?」
「初めての友人殿に合わせてやってるんだ、泣いて感謝してもいいぞ?」
別にコダワリはないしな、とクツクツ笑い立ち上がる。別に俺だってそこまでこだわりはない方だが?
「それはそれとして、枕は置いてけよ。冒険には必要ないだろ」
「む、そんなことはないぞ。何かを抱きしめていると、すごく安心するんだ。心の安寧はすべてに優先すると思わないか?」
そんなもんかねぇ。抱き枕は空気の通り道を作って蒸れにくくなるから安眠に寄与する! とクラスで演説していた木村は8種類の抱き枕カバーをその日の気分で使用しているのだとか。その日からそいつのあだ名は抱き村になった。
半信半疑だったが、睡眠の質が上がるなら1個ぐらい……と思いつつ、ワンドリを手に入れてしまったので別にいいかと思っている今日この頃。
「それに、な。外に出たいという気持ちはあれど、外に出るのが不安という背反した気持ちがあるのも事実なんだ。
ノクスには滑稽に感じるかもしれないが……」
「いや、その気持ちすげーわかる。正直俺もビビった」
あの緑の推定オークを見てビビらんやつはいないだろう。悲しいかな、ビビり仲間がいたんだと安心する。
「だから、ノクスに話しかけられた時は心の底から安心したよ。今なら枕がなくても外に出られるかもな」
「……いや、いいんじゃないか? 枕持ってっても」
俺だって椅子を抱えて街に繰り出すところだったしな。枕を抱えているだけで安心するなら安いもんだろ。
「それに、ここは夢の世界だし、枕を持ってる奴が居てもファッションとして受け入れられるかもしれないだろ?」
「そいつは言えてるな。ついでにナイトキャップでも被ってみるか?」
「ボンボンついてるやつな。似合うんじゃね?」
軽口を真剣に考慮し始めたうゆの横を素通りし、外に繋がる扉を開く。
うん、もうあのオークはいないな。
「さぁ、行こう。心の安寧を脅かす魔物は寝ている時間らしい」
「ははっ、そりゃあ言い得て妙だな。
魔物を倒せる実力をつけるまでは、騎士様に守って貰うとしよう」




