09 「そんな作り話されてもよくわかりません」
「そんな作り話されてもよくわかりません。私、そんなひどいことする女の子じゃないですよ? 小鳥さんはほんとに庭園で見つけたんです!
たしかにハナさんの会社と私のおとうさんの会社はライバルですけど……でもでも、だからって、私を貶めるためにこんなうそつくのはひどくないですか?」
「う、うそじゃない……!」
ハナは涙目で訴えるがユーリーンの演技は堂に入っている。
「こんなうそつくなんて……私、ハナさんとも仲よくしたかったのに……」と彼女が大きな目から涙を零すと、ギャラリーも「なんだ、あの子の作り話か」と呆れたように態度を変える。
私はすかさず口をはさんだ。
「――作り話じゃない証拠があると言ったら?」
私の言葉にユーリーンは目の奥を光らせる。
「そんなににらんできたら怖いです、ロゼリアさま……」
『証拠? あるならだしてみなさいよ』――彼女の目はたしかにそう言っていた。
私はブラッドを振りかえる。彼はうなずくと、大判のタオルでくるんでいたものを床の上に置いた。
紐で結ばれたカゴと木の棒。これは小鳥を捕獲するためにハナが作ったものだ。
タオルのなかからはもうひとつでてきたものがある。
それはハンカチ。
Y.M.と刺繍がされたぼろぼろのハンカチだ。
ハンカチには茶色いしみがある。
「これはハナさんの部屋にありました。ふたつともね」
「…………」
「ユーリーン。このハンカチ、あなたのですわよね?」
ここに入学してすぐ、ユーリーンが私のまえで落としたものだ。見覚えがある。
「そしてこのしみは、あなたの血」
「…………」
「あなた、そういえば小鳥の手当てをしようとしてつつかれたと言って手の甲にけがをしていたことがありましたわよね。そのときこのハンカチで血をぬぐったのでしょう?
――でも妙ね。どうして捕獲道具と一緒にこれが見つかるのかしら?」
ユーリーンは黙りこんでいる。涙は引っこんだようだ。
小鳥をつかまえたあとのことを話してくれ、とブラッドはハナに言う。ハナは「は、はい」とびくつきながらもうなずいた。
「ユーリーンさんは小鳥に反撃されて、右手の甲に傷を負いました。そのけがをハンカチで押さえて……こんなハンカチもういらないってイライラしたように言ったんです。あんた、それと一緒に捨てておいてって。
でも捨てるっていっても、ハンカチはともかくカゴは簡単には捨てられません。特に……これが見つかったら小鳥のけがが事故じゃなかったことがばれてしまいます。下手なところには捨てられない。
とりあえず自分の部屋に隠しておいて……ユーリーンさんにまだ捨ててないの、バカね、こんなもの焼却炉で燃やしちゃえばいいじゃないって言われてそうしようとしました。でも」
ハナはブラッドと私を交互に見る。
「寮から焼却炉までの道には図書館があります。そして……よりにもよって窓辺の席でロゼリアさまとカルセドアさまがお勉強されるようになったんです。私が通ったら、確実に見られてしまう場所で」
カゴは布かなにかでくるんで外からはわからないようにすれば問題はないはずだ。燃やしてしまえさえすれば証拠はなにも残らないのだから。
けれど、後ろぐらいところがあるだけにどうしても通りづらかった。
大回りしていこうにも敷地内は警備員がうろついている。
不審な動きを見とがめられたら。ネガティブな彼女の不安は増大し、弱りきったハナはこのことをユーリーンに相談した。
ユーリーンはハナに命じた。私とブラッドが交際しているという噂を流せ、と。
「そうすればふたりは一緒にいづらくなって図書館からもいなくなる――というのがユーリーンさんの考えでした。でも、おふたりはいなくなるどころかお友達を呼んで。私はますます道具を捨てられなくなってしまって。
……イライラしたユーリーンさんは、罰として私に新たな命令をしたんです」
『ロゼリアに『盗人』の汚名を着せてきなさい。これを使ってね』
そして渡されたのがユーリーンの口紅。
そんなひどいことできないとハナは拒んだが写真をちらつかせられると断れなかった。
翌日、ぶつかったふりで彼女は私の制服のポケットに口紅を忍びこませて――。
「ほんとうにごめんなさい……っ!」
ハナは涙を零しながら私に向けて頭をさげる。
彼女は脅されていただけだ。責める気になんてなれない。
「いいのよ。顔をあげて」と私は彼女の肩に手を置いた。ハナは涙をぬぐいながらうなずく。
そのとき、「……ハナちゃん?」とユーリーンがにこっと笑いかけた。ハナの体がびくりと跳ねる。
「どうしてこんなうそばっかりつくのかなぁ。悪い子だねぇ。そんなにお仕置きされたいのかなぁ?」
「あ……あ……」
「いまのはぜんぶうそだったって言おう? ごめんなさいしよう? そうすれば許してあげるから」
「わ、わたし……でも……」
「ハナちゃん? おとうさんがどうなってもいいの?」
「ひっ――」
怯えなくていいわ、と私はハナにささやいた。「あのことならもう心配いらないから」
「え……?」
「プレイシャスさん」とギャラリーのなかからハナを呼ぶ声がした。
リッカー先生。私とブラッドの勉強会に参加していた先生のひとりだ。
彼女はハナを手招くと封筒を手渡す。不思議そうに封筒の中身を見たハナは、「あ……!」と声を漏らした。
「こ、これ――」
「あなたの部屋ですが、教師権限で入らせていただきましたよ。メルティラインさん」
「……あら先生。いくら生徒の部屋とはいえ、無断で入るのはよろしくないんじゃないかしら?」
「それを言ったら学友を脅すのもいかがなものかと」
「……ふん」
ユーリーンは不服そうに口を閉じる。
ハナは封筒を胸のまえで抱きしめた。ほんとうにありがとうございます、とリッカー先生に頭を下げた。
「私はなにもしていませんよ。勉強熱心な生徒に乞われて動いただけですから」
「……! ロゼリアさま、カルセドアさま。ありがとうございます……!」
ハナからあらかじめ聞いてあったが新聞記事の内容は根も葉もない中傷だそうだ。化粧品に異物が混入している、という。
でも生徒たちは面白がって噂にするだろう。そしてハナを『不祥事を起こした会社の娘』として扱う。
こんな紙切れで脅されて従うしかなかった彼女の心境は察するにあまりある。救いだせてほんとうによかった。
「さて――」
私が切れる手札はこれですべてだ。
ユーリーンの命令で私に泥棒の罪をなすりつけたことと、小鳥を捕獲したことを証言できるハナ。
イニシャル入りのハンカチと小鳥の捕獲道具。
ハナをユーリーンが脅していた証明になる、写真の存在。
たった三枚のカードだけど。
これで、ユーリーンのうそをすべて暴くことができる。




