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【完結】真実の愛は見つかりまして?~婚約者さま、あなたの愛しのヒロインの嘘はすべて暴かせていただきます~  作者:


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04 「みんな娯楽に飢えてるからね」



 ブラッドが帰ってきてから、私たちは放課後の時間を図書館で過ごすようになった。


 お気に入りは窓際の席。窓からの眺めはせいぜい焼却炉とか物置小屋につづく道しかなくてしょっぱい……失敬、とても慎みぶかいのだけれど、本棚がいい具合に周りからの視線をさえぎってくれて秘密の場所という感じがするのが好きだ。


 私たちはそこで暗くなるまでの時間をともにする。

 本を読んだり、勉強をブラッドに教わったり、小声で話をしたり――。


「最初に見たときはずいぶん大人になったと思ったけど、こうして話してるとロゼは変わらないな」


 ブラッドがそう言ってくれたことが嬉しくもありすこしだけほろ苦くもあった。

 彼は私の憧れだから。もちろん、それ以上でも以下でもないけれど……。


 でもこの関係は他人には理解しがたいものらしい。

「あなたたち、噂になってるわよ」とクラリッサに寮で言われた私は「はい?」と問いかえした。


「ブラッドさまとあなたよ。ここのところ毎日図書館で話してるんでしょ? それで、男女の仲なんじゃないかって噂されてるの」

「そんな。だれが」

「みんなよ。……もっともブラッドさまはカルセドア……フォニスさまの従兄だし、あなたと親しくしててもなにもおかしなことはないんだけど。

 でも、フォニスさまはフォニスさまであの調子じゃない」


 フォニスとユーリーンの仲はこのところますます深まっているようだった。

 かれらはクラスの垣根を越えて昼休みも放課後も一緒にいる。休日は外でデート。ケガが治った小鳥を空に返す際には手を取りあって涙をこぼしたとか。


「……まあ、そうね」

「だからあてつけであなたがブラッドさまを誘惑してるんじゃないかって」

「誘惑!? するわけないじゃない!」

「やだ、わかってるわよ。あなたとブラッドさまは兄弟みたいなものでしょう? だからそんなことするわけないって私は言ったんだけど、みんな娯楽に飢えてるからねー」


 真実なんてどうでもいいのだ。重要なのは楽しいかどうか。


 婚約者を平民に取られかけている女が、仕返しに婚約者の従兄を誘惑する。安全で退屈な学院生活では舌なめずりしたいほど魅力的なゴシップにちがいない。


 私ひとりなら平気だ。噂なんてみんなそのうち飽きる。好き勝手言えばいい。

 でもブラッドを巻きこみたくなかった。


「……ブラッドおにいさまと距離を置こうかしら」

「なに言ってるの。あなたらしくないわよ、ロゼ。むしろほんとに誘惑しちゃうくらいの気持ちで――」

「ちょっと!」

「冗談冗談。でも、噂になったからって距離を置くのもなんだか癪じゃない?」

「それは……そうだけど……」

「私にいい案があるわ。どうせだから……」




 次の日、図書館にいつもどおりやってきたブラッドは目を丸くした。


「なんだか多くないか?」


 六人掛けのテーブルは一脚を除いてすべて埋まっている。「みんなブラッドさまとお話したいのですよ」と私はにっこり笑って答えた。


 席を埋めているのはクラリッサとダンテをはじめとしたクラスメイトたち。女は私をふくめて三人、男性はダンテを入れてふたりだ。

 そしてテーブルには山と積まれた参考書。これを見て不順異性交遊していると思う人間はどこにもいないにちがいない。


 ブラッドはなにか察したらしく苦笑しながら椅子に座った。


「今年の新入生はずいぶん勉強が好きなんだな」

「教えてくださいまして?」

「……ああ。俺は年下に頼られると気分がよくなるから、たくさん頼ってくれ」


 周りの迷惑にならないよう気をつけながら私たちは勉強会をはじめる。

 

 ブラッドの教え方は上手で、さらにハイレベルな知識を備えている。苦手分野はないようでなんの教科について尋ねても即座に答えが返ってくるのがおそろしい。


 それは私とブラッドの色っぽい噂をあっという間に駆逐し、いつの間にか厳しいことで有名な数学教師、リッカー先生まで勉強会に参加するほどになっていた――。



 +++



「……あんた、ちゃんと噂は流したの?」

「は、はい……」

「ロゼリアとブラッドさまはつきあってる――って言ったのよね?」

「はい……」

「じゃあ、なんで()()()()わけ?」

「わ、わかりません……ごめんなさい……」

「謝るくらいならちゃんとやりなさいよ! この無能!」


 寮の一室にて。


 ユーリーンは小柄な少女に罵声を浴びせると床に突きとばす。

 少女はずれた眼鏡も直さずに「ごめんなさいっ」と頭を下げた。ユーリーンはふんと鼻を鳴らす。


「わかってるの? 今度失敗したら、あの記事を新聞社に送るからね」

「や、やめてください! そんなことしたらおとうさんが……!」

「いやならちゃんとやりなさいよ。このグズ。間抜け。あんたとあんたの家をつぶすなんて簡単なんだからね」

「……は、はい……。がんばるから……許してください……」


 もういいわ、とユーリーンはドレッサーの引きだしから一本の口紅を取りだした。

 自身のイニシャルが刻印されたそれを少女のまえに突きつける。


「ちゃんとできなかった罰よ。ロゼリアに『盗人』の汚名を着せてきなさい。これを使ってね」


 少女はごくりと唾を飲みこむ。

「そんなひどいこと……」と弱々しく言いかえしたが、ユーリーンににらまれ、震える手でその口紅を受けとった。

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