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退学ー3

「じゃあ、ここで。今日は面倒ごとを起こさないように」


「分かっています」


 当然と言えば当然だが、貴族であるクロエは、魔法の高度教育を幼少の頃から受けているため、落第生のベンクトとは頭の出来が違う。つまりベンクトとは教室が別なのだ。ここで別れる必要がある。


 クロエが教室内へと入ったのを見届け、ベンクトも自身の教室へと(かじ)を切った。


 ここは特待クラスと教員課があるA棟。B棟へ行くには一度一階へ降りて、ピロティーを通るしかない。


 けれど、ピロティーを通っている間に、とある感覚が襲ってきた。


「……便所に行くか」


 尿意。今朝のモーニングコーヒーが濾過されたらしい。腎臓は働き者だ。


 人の気配がしないトイレに入り、用を足して、洗面台で手を洗う。


「……」


 手についていた泡は既に流れ落ちている。それでもベンクトは手を洗い続けた。


 ある感情が胸の中でぐつぐつと巡っていたからだ。真っ赤なマグマのように煮えたぎった感情がどうしようもないほど渦巻いている。それに加えて、頭の中ではある単語が飛び交っていた。


 怒りと無能。それらが心中にため込んでいたものの正体だった。


 蛇口から勢いよく流れ出ている水の音が、徐々に遠ざかっていくような感覚に陥った。どうやら限界が近いらしい。


「あのクソ女っ……」


 赤く熱を帯びた感情が口からこぼれた。


 無論、『クソ女』というのはクロエのことではない。昨日の講義で来ていた代理講師のメレンのことだ。


 昨日の件から今まで、行き場を失っていた赤い感情。それは怒りだけじゃない。恥や悔しさまでもがない交ぜになった、どす黒い赤だ。


 それらは今の今までせき止められていた。


 流石に昨日の教室内で発狂するわけにはいかない。かといってその後に解放出来るかと言えば難しいものがある。クロエの使用人として活動している間は愚痴をこぼすわけにはいかないからだ。


「次に会ったらただじゃおかない。ほんっと頭に来るっ……」


 殺意にも近い感情を小声でこぼしていると、後方で扉が開く音がした。

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