退学ー2
にやにやと下衆な笑みを浮かべてはいるが、その顔立ちは崩れないイケメン。身長はベンクトよりも少し上。体格に関しても、ベンクトを小枝とするのなら目の前の学生は巨木だ。
彼の名前はマーティン・ウィルソン。中級貴族であるウィルソン家を弱冠十五歳で継承した秀才だ。
しかしながら、普段から何かと絡んでくる面倒な男でもある。
「どけよ」
無駄にデカい体は通りの通行を妨げる。純粋に邪魔だ。
「おいおいシャルロワ。使用人の言葉遣いには金を注いでないのか?」
ウィルソン家の位がシャルロワ家よりも上とはいえ、家名を呼び捨てにするのはご法度だ。特に今回の場合はあからさまに挑発の為に言っている。
「あら、中級のお貴族様は言葉遣いも中級に教育なされているのですか?」
クロエは顔も目も笑っているが、声は一切笑っていない。言葉の端々に冷気が立ち込めている。
「いいねぇ。ベンクトもこれくらい面白い返しが出来るようになってくれれば虐め甲斐があるんだが」
クロエを先導しながらマーティンの脇をすり抜ける。
「俺を名前で呼ぶくらいならお嬢様に敬意を払えよ、気色悪い。俺は女が好きなんだ」
お望みのようなので、お返しの言葉を言っておく。
「使用人が言ってくれるじゃねぇの」
マーティンはまだ何か言ってきそうな雰囲気だったが、これ以上取り合っていると本気でシャルロワ家の株が下がりそうな気がしたので、その場は離れることにした。
「あまり邪険にしてはいけないわよ」
ある程度歩いてからクロエが唐突にそう言ってきた。
「え?」
「彼のことよ。マーティン・ウィルソン卿」
「ふむ」
貴族の内情についてはそうそう耳に入ってこないが、ウィルソン家のことに関してはそれなりに聞いたことがある。確か――
「二年前のウィルソン家継承の際はそれなりに苦労したらしいわ。現在までもそれはそれはご苦労をなされている様子だし」
クロエの話を聞くと同時に、そのことを思い出した。
「当時は暗殺なんかの謀略が、親類内で横行していたみたいですね」
「そ、シャルロワ家とはまた違った気苦労があるのよ、分かってあげて」
「まぁ、彼の小言をひらりと躱すくらいはわけないですが。ただ、それは私個人に対する言の場合に限ります。お嬢様、ひいてはシャルロワ家の侮辱となるならそれなりの対応をしますからね」
「ええ、構わないわよ。彼だってそれくらいの反撃があったほうが面白いでしょうし」
場合によっては殴ってもよし、という恐ろしい許可まで貰ったのは一応聞かなかったことにして、ふたりで院内へと向かった。




