退学ー1
ベンクト・ゲーレルスは負けず嫌いだ。
人生において何かとケチをつけられることが多く、特に他者に劣っている部分についてはよくつつかれた。
そのため、努力は惜しまない質だった。
戦闘訓練のために毎日道場に通って拳を鍛え、試験のためなら早朝に机に向かい、知識を貯え続けた。
そんなベンクトが昨日の講義中に代理で来ていた講師と口論になり、しかもボロクソにやられたという噂は早々に院内へと広がった。
元々あまり良くない意味で名前が通っていたベンクトは、院内での立場をさらに追われることになる。
防衛院の門をくぐって通りを進んでいる間に、あらゆる方向から「無能」という言葉が飛び出していた。これは例の講義でのことを言っているのだろう。今更噂なんて特段気にすることはないのだが、「無能」と言われて気分が良いわけがない。
幸い、少し目線を送れば鳴りを潜めてくれるので、表面上は問題ない。
問題なのは、
「私は気にしていないわ」
と、笑顔で言いながら隣を共に歩いてくれている少女の方だ。
187センチという比較的長身のベンクトと比べ、その身長は150センチ台の小柄体系。さらりと伸びた艶やかな黒髪は、日光を反射してキラキラと健康的に光っている。
彼女の名前はクロエ・シャルロワ。年齢はベンクトと同じ17歳。ここロハ王国の近郊を治めている下級貴族の娘。好きなことは天体観測と花を愛でることで、好きなものは恋愛小説。休日にはお芝居を見に行ったりしている。つまりは立派なお嬢様だ。
ベンクトはクロエの屋敷へ奉公に出ている。つまりは立派な使用人だ。
「お嬢様は、この件に一切関与されていないのですから、気にしなくて当然です」
我ながら心にも無い事を言う。ベンクトが院内での印象を悪くすれば、雇っているシャルロワ家の株が少なからず下がる。そんなことが分からないほどクロエはバカじゃない。気にするに決まっているのだ。
本来ならもっと距離を置いて歩きたいのだが、ベンクトはクロエの使用人に加えて護衛でもある。むやみに離れることは出来ない。
「そんなことないわ。うちの可愛い使用人が悪く言われているもの」
「気にしてないのでは?」
ものの数秒で矛盾を起こさないでほしい。
「ベックが無能なのは気にしてないってことよ」
「それは手厳しいですね」
事実なのだが、一応の身内にまで言われるとそれなりに効く。内心結構凹んだことは言わないでおこう。
「よお、ベンクト。俺らをかばってケチが付いちまったみたいだな」
ベンクトとクロエの前に立ちふさがる形でデカい人影が現れた。




