詩・アムリエシェルターにて
1章では、私が現実にイラクに滞在して、そこで見たものをお伝えしました。私はジャーナリストではないし、自分が稼ぐことのできる費用では何度も足を運ぶことはできませんが、そこで見て、日本で報道されていたこととあまりにも違うから、これだけは伝えなきゃと思って、90年代は、報告を兼ねて自分の住んでいる地方で毎年催される「平和のための音楽会」にも作品を発表できる場をいただいたり、エッセイや、詩、短歌、俳句と様々な形で発表をしてきました。学校で命についても講演をしたり、ライオンズクラブなどから呼んでいただき、お話をする機会にも恵まれました。1章でお話してきた病院のことなどは、現実的に皆が動きやすい対象でもあり、写真を見ていただくことなどで理解を得られやすい内容だったこともあり、帰国するなり多くの人にお伝えしています。
2章でお話しすることは、そこに訪れたみんなが実際に目で見て、写真に残せるといった具体的な内容でないものが含まれています。私自身が自分の中で出来事が消化できるのにかなり時間のかかる出来事だったこともあります。ようやく、発表できたのが、詩という形に置き換えて、コンサートという消えてしまう媒体でした。
連れて行ってください、私たちを。この暗い穴の中に、ずっと閉じ込められているのです。
焼香の煙の中に眠り続ける多くの女、子供は、自分がすでに死の旅についたことすら知らずにいた・・・・・。
私の肩に重い空気がのしかかる。右腕が痺れるように重い・・・・・・
あの爆撃からすでに3ヶ月・・いまだにこのシェルターの中には、さまよう人々の声がこだまする。
日本式の供養の仕方でごめんなさいね・・・・。
南無妙法蓮華経~・・・南~無妙~法~蓮~華~経~~~・・・・・・・・・・・
読経の声が暗い穴の中にこだまする。
焼香の煙は、空に向かってぱっくりと口を開けた光の中に吸い込まれていく・・・・。
この冷たく重い空気の中での5分間は、いつも暮らしている1時間よりも長い・・
アアアアアァァァ~~
一瞬訪れた静寂を打ち破る悲痛な泣き声・・家族を失った老婆の嘆き・・・・。
いつの間にここにきていたのだろうか・・
彼女のあげた哀しみの声は、彼女一人のものではなくて、同じ哀しみを背負うイラクの人たち・・みんなの声だ。
そう思った瞬間・・その声に自分の体が小刻みに震えるのを感じた・・
・・・・ああ、もう泣かないで!!
・・・・・・ごめんなさい・・なんて自分勝手なことを・・貴女たちをバラバラにしてしまったのは、私たちの物質的な豊かさと、愚かさだったのかもしれないのに・・
こんな私たちに「泣かないで」と貴女にお願いする権利はないですね・・たとえ心の中の声・・でさえも・・・・
私たち日本人は、直接手を下したわけではありません・・・・そんな弁解が、あなた、できますか・・?
貴女の家族を奪った爆弾は、そう、貴女の目の前にいる日本人が、税金という名のもとに政府に差し出したお金によって、落とされたものなのです。
「あんたたちが殺したんだよ!返しておくれ、孫の命を!どの面下げてここに来たんだ!」
ああ、せめてそう言って、私たちに怒りをぶつけてください・・・
お願いです・・そんな優しい眼差しを向けないで・・
どうして、私たちが赦せるの・・?貴方も・・そして貴女も・・・・
お願い・・感謝の眼差しを向けないで・・その眼差しはあまりにも痛い・・
私たちが貴女のお孫さんを供養しているのは、せめてもの罪滅ぼしなのです。何の罪もない人のたくさんの命。たった一度足を運び涙を流したとて、許されるはずのない罪を私たちは背負っているのです。
民家の中にあるシェルター・・隣は学校・・・・。このシェルターのどこが軍事施設だというの・・?
テレビの画面で見た映像は、この建物のちょうど2階くらいの高さのある屋上のぽっかり開いた穴からのもの・・
まるで、周りの風景のない映像・・。テレビで見たときには、この建物がどんな風景の中に溶け込んでいるのかなんて知る由もなかった・・
きっとこれが飛び込んでくる情報の怖さなんだ・・ほんの一部を見ただけでは、錯覚を起こしてしまう・・誤爆であると言い張るためには、周りの風景はあってはいけなかった・・決して・・・。
そのことを知るのには数分もかからなかった・・・
これは、明らかに民間のシェルターと知ったうえで、照準を定め狙い撃ちしたものなんだって・・
私たちは、操られた情報に踊らされた愚かな民族です・・ごめんなさい・・
私の頬を伝う涙はいったい誰のために・・私自身にも明確な答えは出なかった・・
ただ、一つだけ確かなことは、そんな私を信じ、ついて来てくれた女の人が、ひとり、いた・・。
シェルターの分厚い鉄板がめくれ上がり、ねじれた鉄骨が顔を出し、外界からの一条の光が地下に届くことになったこの穴の下。
3本の手にした線香を置いた瞬間、私の右手を握った貴女・・。
平和を願う太鼓を打ち、南無妙法蓮華経の読経を続けながら行進をする僧侶に続いて、私たちもお経を唱えて歩き続けた。その間、ずっとその感触があった・・
行進の途中にあったゴールデンモスクで、すっと私の手を離し立ち去った貴女。
私は、貴女をあの穴から解放することだけはできたのでしょうか・・
私は、これからも迷い、ためらいながら歩いていくでしょう。
でも、貴女はもう、迷うことなく安らかにお眠りください・・
・・・・さようなら、見知らぬ貴女・・・・・・・・・・・。
'91,11,28
ここに書いたのは、あくまでも、詩・・現実にどうだったのかということについては、次回報告します。




