月軌道ステーション
月軌道上に近づき、にわかに忙しくなった。
システム監視要員として、船長のオフィーリア、操縦士のジョン、副操縦士のレフとともにコックビットに詰めている。
月軌道ステーションと交信が始まる。
「こちら火星探査船、月軌道ステーション。指示を頼む」
『やあ、待ってたよ。火星探査船、新車はピカピカに磨きかけてるぞ。
だが、もうしばらくドッキングはなしだ。まだ、地球とのテレビ中継まで少し時間があるからな』
月軌道ステーションは、月面上空を平均110キロメートルの距離で飛行し、秒速1540メートルで2時間ほどで月面を1周する。
随時、拡張工事中で、今は、人工重力を生み出すため、ステーションの中心から対角線上に構造物を伸ばしている。構造物の先端に居住スペースを設置し、ステーションには、リニアを応用した磁気ベアリングを使い、ステーションと無接触で回転する遠心力で重力を生み出す計画だ。完成すれば、作業員の宇宙滞在期間が伸び、世界中のお金持ちの宿泊施設となる。
月軌道ステーションには、現在は14人の作業員が滞在中で、月観測・調査、月面基地と地球との中継、外宇宙観測など多岐にわたるミッションをこなしている。
ここ5年ほどは、月軌道ステーションの隣に造られた火星探査船の建造を中心だった。
建造最盛期には、月軌道ステーションと月面基地に30名の人々が作業に当たっていた。
火星探査船の7割は、月由来の原料で作成された。
月基地では、原料の採掘、加工を行う。月の採掘は、地上や月面基地での遠隔操作によって、ロボットや専用に作成された採掘機械により行われた。月面基地の作業員は、機械のメンテナンスを行う。
採取された鉱物は、太陽光を集束させた炉の中で不純物を取り除き金属を取り出す、取り出した金属は、細かく砕かれ3Dプリンタを使って、各種部品が成形される。
加工が難しい部分は、地球で作成される。
火星探査船のエンジン部はまさに磨き抜かれ輝いて見えた。
探査船本体には熱核エンジンを中心とした推進区画と居住区画があり、居住区画には、リビングを中心に取り囲むように人数分の個室がある。リビングの中央には水耕栽培プラントがあり、住む人に癒しと僅かながらの酸素と食料を提供する。
居住区画は、半円形の大きなドームの中に作られ、ドームの中は水で満たされている。
ここからみると日本にいる時に見た前方後円墳のようだ。しかし、墓に例えるのは縁起が悪い。
「俺の新車、いい感じじゃないの」
「俺のじゃないだろ。『俺達の』な」
「細かいこと気にするなよ、ゆう」
「まあ、そういいたい気持ちもわかるな」と船長のオフィーリアがジョンに同調した。
不意に後ろのエアロックが開かれた。
作業中のコックピットは、エアロックを閉じるようにしている。
「やっぱり、ここからだと見える! みんな、こっち、こっち!」
興奮した感じでソフィアが、コックピットに入ってくる。
カルヴィンやグレックもソフィアの後ろに見え隠れしていた。
ジョンが「入ってくるなよ、今は作業中だぞ」と、ソフィアに抗議する。
「いいじゃない。待機中なんでしょう?」
「後ろからだとこの船が、邪魔で見えないんだ」
「ゆう、見てあれにドッキングするんだ。凄いね。」
グレックもカルヴィンもコックピットに入ってきて、4人でも狭いコックピットは、定員オーバーで見動きが取れない、テレビで見た日本の通勤ラッシュのようだ。
こんな状況でも、ソフィアと間近にいられることに多少の喜びを感じていたが、ソフィアは、ジョンのそばで、月を背景に浮かんでいる探査船を眺めている。ゆうは、そんなソフィアを見ると、胸に小さな痛みを覚えるのだった。
「出なさい、作業の邪魔でしょう」
エレンが、後ろの方で声を張り上げる。
ステーションから、通信が入る。
『そろそろ、探査船に接近して、ドッキング態勢に入ってくれ』
「了解、これより、探査船に接近し、ドッキング態勢に移行する」
船は、ゆっくりと前進を始め、探査船に近づく。




