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【白堊の休息と狼の進化】

【白堊の休息と狼の進化】


「……うぅ……、お腹の中で……魚が泳いでる気がする……」


白堊理研第八基地・リトルベース第1医務室。


真っ白なベッドの上でフレンダ・ディーコン少尉は青ざめた顔で唸っていた。

点滴チューブが腕に繋がり、傍らには「胃洗浄完了」のカルテが置かれている。


「自業自得っすよ。未知の生物、しかも重金属汚染された深海魚を生焼けで食うなんて、自殺志願者としか思えないっす」


隣のベッドで、ミカ・フォルクス少尉が呆れ果てた声を上げた。

彼女もまた、全身を特殊な冷却ジェルシートで覆われ包帯ぐるみの姿だ。

マグマへのダイブによる中度の熱傷。

強化人間といえど、数千度の熱波は皮膚を焼き体力を奪っていた。


「でもぉ……美味しかったんだよぉ……。脂が乗ってて……」


「懲りてないっすね、この野生動物」


二人のやり取りを腕を組んだヴァネッサ・ヘルシング少佐が仁王立ちで見下ろしていた。


「……報告書を読ませてもらった。アビス最深部への到達。リヴァイアサン型ヘキサギアの撃破。そして希少資源の回収。戦果としてはSランクだ。文句のつけようがない」


少佐はため息をつき、フレンダの額をデコピンした。


「痛っ!?」


「だが、現地での拾い食いは厳禁だと何度言えば分かる!メイのログには『制止を振り切り満面の笑みで捕食』と記録されているぞ」


「うぐぅ……。でも、勿体ないじゃないですかぁ……」


「はぁ……。まあいい。お前たちが持ち帰った『土産』のおかげで整備班はお祭り騒ぎだ。とっとと治してハンガーに行け。ガルドが待っている」


少佐は呆れつつもその表情はどこか誇らしげだった。

部下たちが生きて帰ってきたこと、そして想像以上の成果を上げたことへの安堵が見て取れた。


翌日。

体調が回復した、回復力も人間離れしている二人は第2整備ハンガーを訪れた。

そこには解体されたロード・インパルスと、その周囲で目を血走らせて作業するガルド班長たちの姿があった。


「おぉ!来たか、馬鹿野郎ども!」


ガルド班長が、巨大な銀色のインゴットを叩きながら出迎えた。

それはリヴァイアサンの装甲から精製された耐熱合金だ。


「これだよ、これ!お前らが命懸けで持ち帰ったこの金属はとんでもねぇ代物だぞ!」


ガルドは興奮気味に、ホログラム図面を展開した。


「アビスの超高圧とマグマの高熱で鍛え上げられた天然の複合装甲材だ。硬度は第3世代の装甲の倍以上。耐熱性に至ってはプラズマカノンすら数発なら耐えられるレベルだ。しかも軽い」


「へぇー。じゃあ、売れば高いっすね」


ミカが興味なさそうに言うが、ガルドはニヤリと笑った。


「売る?馬鹿言え。こいつを使ってこのボロボロのインパルスを『生まれ変わらせる』んだよ」


ガルドの指示の下、改修作業は最終段階に入っていた。

クレーンに吊り上げられたのはリヴァイアサン合金を加工して作られた新しい装甲板だ。

それは鈍い銀色に輝き、見るからに強靭な質感を放っていた。


「フレンダ、お前はずっとインパルスの『防御力不足』に悩まされていただろ?スピードを殺さずに装甲を厚くするのは不可能だった。だが、この素材ならそれができる」


ガルドが指差す。

インパルスの胸部、脚部、そして急所であるコクピット周りに流線型の追加装甲が装着されていく。


「名付けて、『ロード・インパルス・アビス(Abyss)』だ」


さらに、武装も強化されていた。

インパルスの顎門と爪には、リヴァイアサンの「回転鋸の歯(ダイヤモンド粒子含有)」がコーティングされている。


「こいつの牙はあらゆる装甲を紙のように噛み砕く。まさに地上最強の捕食者仕様だ」


『……システムチェック、オールグリーン。装甲強度、従来比250%向上。耐熱限界、3000度まで対応可能。機体重量増加はわずか5%。アクチュエーターの出力調整により、機動力の低下はありません』


生まれ変わったインパルスのコンソールから、メイの声が響く。


『素晴らしいです、フレンダ。これなら貴女の無茶な操縦にも私の演算にも、フレームが耐えられます。もう、「機体がついてこれない」とは言わせません』


メイの声は、心なしか弾んでいるように聞こえた。

彼女にとっても、自身の器が強化されることは喜びなのだ。


「すごい、すごいよ班長!強そうだし、何よりカッコいい!」


フレンダは新しくなった装甲に頬ずりした。

ひんやりとした金属の感触。

だが、その奥にはマグマのような熱い魂が宿っている気がした。


「これなら……あいつらとも戦える。ボルトレックスだって、ジャッカルだって、もうなにも怖くない!」


その様子を、少し離れた場所からミカが見ていた。


「……よかったっすね。これで次は私のバイクを餌にしなくて済みそうっす」


「あはは、ごめんってば!今度何か奢るからさ!」


「結構っす。少尉のオススメなんて、どうせゲテモノ料理でしょうから」


ミカは肩をすくめたが、その目は新星インパルスを冷静に分析していた。


(装甲の隙間が減った。関節の防御も完璧。以前のような「脆さ」という弱点が消えた。今のこいつは……私でも、殺るのに骨が折れそうっすね)


それは、最強の「掃除屋」からの、最大級の賛辞だった。

そこへ館内放送が響く。


『フレンダ少尉、ミカ少尉。至急出撃用意へ。ヴァリアントフォースの輸送部隊に動きあり』


少佐からの呼び出しだ。

休息の時間は終わりを告げた。


「行こう、ミカちゃん!新しい体の試運転だよ!」


「……へいへい。人使いが荒いっすね、この基地は」


フレンダは軽やかに、新生ロード・インパルスのコクピットへと飛び乗った。

ミカもまた、修理を終えたクロスレイダーに跨る。

銀色の狼と、青き処刑人。

アビスの地獄を生き延びた二つの凶星が、今、地上へと解き放たれる。


目指すは、ヴァリアントフォースが輸送する「新型結晶炉」。

そして、それを護衛する最強のライバル機。エンジンが咆哮を上げた。

狩りの時間だ。

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