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【鉄屑峡谷の暴走列車】

白堊理研第8基地、リトルベース。

そのガバナー待機室には、平和という名の倦怠な空気が漂っていた。


「あーあ、暇だなぁ。お腹すいたなぁ」


ソファにだらしなく寝転がり、天井のシミを数えていたのはフレンダ・ディーコン少尉である。彼女の腹部からは、数分おきに雷のような「グゥ~」という音が鳴り響いている。

昼食に合成栄養ブロックを5個食べたばかりだというのに、彼女の特異体質はすでに次の燃料を求めて悲鳴を上げていた。


「少尉の腹の虫は、基地の警報装置よりも五月蠅いっすよ」


向かいのデスクで端末を操作していたミカ・フォルクス少尉が呆れ顔で言った。

彼女はいつも通りのスーツ姿だが、その手には消毒用のアルコールスプレーが握られており、キーボードを叩くたびにシュッ、シュッと指先を消毒している。


「だってー、最近の任務ってば地味なのばっかりなんだもん。施設の警備とか、物資の運搬とか。私のインパルスは『リロード』されて最強になったのに、これじゃ宝の持ち腐れだよぉ」


フレンダが手足をバタバタさせて駄々をこねる。

先日完了した大規模改修によって彼女の愛機ロード・インパルスは、【Reloadead】の名を冠する新型へと生まれ変わった。


アースクライン・バイオメカニクス社の最新鋭技術を注ぎ込み、フレーム剛性、出力、そして武装のすべてが強化された怪物マシンだ。


「宝の持ち腐れ以前に、前回の改修費の請求書を見て欲しいっす。ゼロが多すぎて、私の端末がバグったかと思ったっす」


ミカが端末の画面をフレンダに向ける。そこには天文学的な数字が並んでいた。

フレンダは視線を逸らし、音が出ていない口笛を吹いた。

その時である。


ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!

基地全体を震わせる緊急出動のサイレンが鳴り響いた。

室内の照明が赤色に切り替わり、スピーカーから無機質なアナウンスが流れる。


『緊急指令。緊急指令。フレンダ・ディーコン少尉、ミカ・フォルクス少尉。直ちに司令官室へ出頭せよ』


フレンダはガバッと起き上がり、ニカっと笑った。


「ほら来た、噂をすればなんとやら!行くよミカちゃん、稼ぎ時だ!」


「はぁ、また面倒な仕事の予感がするっす」


司令官室。

メインモニターの前には、いつものように冷徹な表情のヴァネッサ・ヘルシング少佐が立っていた。

だが、今日の彼女の瞳にはいつにも増して鋭い光が宿っていた。


「来たか、フレンダ、ミカ少尉」


「到着しました!今日の敵はどこのどいつですか?ドラゴン?それとも要塞?」


「今回は『列車』だ」


少佐がモニターに地図と映像を表示する。

映し出されたのは、深い峡谷の底を走る旧時代の複線線路。

そこに黒煙を上げて爆走する巨大な装甲列車が映っていた。


「軍用輸送列車『アイアン・ホース』。数時間前、武装テロリスト集団によってハイジャックされた。奴らは列車の制御システムをハッキングし、リミッターを解除した。現在、時速300キロを超える速度で暴走中だ」


「300キロ……、速いっすね」


ミカが眉をひそめる。


「問題はその進路だ。この線路の先には、我々リバティー・アライアンスが管轄する工業都市『ゼニス』がある。奴らの狙いは都市中心部への自爆特攻だ。列車には大量の液体燃料と、旧式の大型砲弾が積載されている。もし突っ込めば都市の半分が消し飛ぶだろう」


「うわぁ、物騒な話。私たちの任務は?」


「列車に追いつき止めろ、手段は問わない。都市への到達予想時刻まであと40分しかない」


フレンダはあからさまに肩を落とした。


「それだけですか?列車止めるのって、大変だし疲れるしお腹減るんだよねぇ」


彼女のモチベーションは食の楽しさに直結している。

ただでは彼女の野生のエンジンは掛からない。少佐はそれを完全に理解していた。

少佐は手元のタブレットを操作し、映像を切り替えた。

そこに映し出されたのは列車の最後尾車両、VIP専用コンテナの内部リストだった。


「フレンダ。この列車は、都市の前線基地へ向かう慰問品も輸送していた。その中には企業高官専用の特別配給食が含まれている」


「特別、配給食?」


フレンダの耳がピクリと動く。


「東方の島国から取り寄せられた最高級のブランド牛。その中でも特に希少な部位を使用した牛タンが3ケース積まれているそうだ」


「!!!」


フレンダの碧眼がサーチライトのように輝いた。

口の端からツツーっと涎が垂れる。


「ぎゅ、牛タン!?あの、噛めば噛むほど旨味が溢れるっていう、伝説のお肉!?」


「そうだ。もし列車が都市に突っ込めば、その牛タンも全て黒焦げの灰になるだろうな」


「行きまァァァァすッ!!!」


フレンダの絶叫が部屋のガラスを震わせた。

彼女はミカの襟首を掴み、猛獣のような勢いで部屋を飛び出していく。


「待ってろ牛タン、今助けに行くからなァァッ!」

「ちょ、首が締まるっす、離すっす!少佐、こいつ餌付け、あとで絶対経費で落とすっすよ!?」


ミカの悲鳴を聞き流し、少佐は小さく口元を緩めた。


「頼んだぞ、可愛い化け物たち」




第4格納庫。

カタパルト・デッキには既に出撃準備を整えたロード・インパルス【Reloadead】が鎮座していた。

深海の色を映した「アビス・ブルー」の装甲と、月光の「ムーンライト・シルバー」のフレーム。

その巨体は以前のアビスよりも一回りマッシブになり、圧倒的な存在感を放っている。


「準備完了っす、少尉。ふふ、このシートは何度座っても最高っすね」


後部座席に乗り込んだミカは、満足げに4点式ベルトを締めた。

以前のパイプ椅子のような粗悪なシートとは雲泥の差だ。

衝撃吸収ゲルを内蔵した本革シートに、ドリンクホルダーまで付いていた。


「それじゃ行くよ、メイ!牛タン特急、発車オーライ!」


『了解です、フレンダ。ジェネレーター出力、安定。ゾアテックス、スタンバイ。久しぶりの全力疾走です、存分に大暴れしましょう!』


KARMAのメイもまた、好戦的な声を響かせる。


ドォォォォォォンッ!!!

インパルスがカタパルトから射出された。

強化されたスラスターが火を噴き、巨体が宙を舞う。

着地と同時に大地を噛み締め、砂煙を上げて加速していく。

目指すは北の峡谷、「アイアン・キャニオン」だ。




数分後。

インパルスは目的の峡谷へと到達した。

そこは大地が巨大な斧で割られたような、深さ数百メートルの断崖絶壁が続く場所だった。

その谷底を一匹の長い鉄の蛇が這っている。


『視認しました。ターゲット、暴走列車『アイアン・ホース』です!現在の速度、時速320キロ!加速しています!』


メイの報告通り、眼下の列車は狂ったような速度で疾走していた。

連結された貨車の上には急造の銃座やミサイルポッドが無数に設置され、後方へ向けて殺意を撒き散らしている。


「追いつくよ、全速前進ッ!」


フレンダがスロットルを押し込む。

インパルスの背部ブースターが蒼い閃光を放ち、機体は崖の縁から谷底へとダイブした。


ヒュオオオオオオオッ!!

自由落下に近い速度で谷底へ。

だが、地面に激突する寸前、フレンダは操縦桿を引き絞った。


「グラビティ・コントローラー、最大出力!壁を走るよッ!」


『了解!重力制御、対象を壁面に固定!』


ガギィィィンッ!!

インパルスの四肢の爪が垂直に切り立った峡谷の岩壁に突き刺さる。

機体は地面ではなく、壁に着地したのだ。

そのまま重力を90度変換し、壁を地面として走り出す。


「うおおおおおっ!?」


後部座席のミカが悲鳴を上げる。

彼女の視界では地面が右側にあり、空が左側にある。

平衡感覚が狂う世界。そして、ドリンクホルダーに置いていた缶コーヒーが重力の変化に耐えきれず中身をぶちまけた。


「あっ!?私のプレミアム・モカブレンドがァァッ!!シートが、新車の匂いがするシートがコーヒーまみれっすゥゥッ!!」


「ごめんミカちゃん、後で掃除するから!今は舌を噛まないようにして!」


フレンダは謝りつつも速度を緩めない。

インパルスは壁面を時速350キロで駆け抜け、谷底を走る列車へと肉薄していく。

列車の屋根に設置されたセンサーが接近する蒼い機体を捉えた。


『敵影確認!速いぞ、なんだあれは!?壁を走ってやがる!』


テロリストたちの狼狽した声がメイの傍受した回線から漏れる。

直後、列車の屋根に設置された対空機関砲が一斉に火を噴いた。


ババババババババッ!!

無数の曳光弾が壁面を走るインパルスへと殺到する。

岩盤が弾け飛び、破片が散弾のように降り注ぐ。


「当たってたまるかぁッ!」


フレンダの野生の勘が覚醒する。

彼女は弾道予測ラインを視るのではなく感じる。

インパルスは壁面をジグザグに跳ね回り、砲弾の雨を紙一重で回避していく。


「メイ、左舷グレネードランチャー用意!」


『照準固定。偏差射撃、行きます!』


インパルスの頭部左側面で、大型の弾倉を持つランチャーが唸る。


ボォン!ボォン!ボォン!

放たれた3発の榴弾が美しい放物線を描いて落下していく。

それは計算通り、列車の対空砲台の直上で炸裂した。


ズドォォォォンッ!!

爆炎と共に銃座がひしゃげて吹き飛ぶ。

テロリストたちが悲鳴を上げて吹き飛ばされるのが見えた。


「命中!さあ、どんどん裸にしてあげるからね!」


フレンダは舌なめずりをした。

彼女の脳内では、爆発する砲台が牛タンを焼く炭火に見えているのかもしれない。


「少尉、楽しそうなところ悪いっすけど。私のスーツがコーヒーでベタベタなんすけど、この怒りはどこにぶつければいいんすか?」


インカム越しに地獄の底から響くようなミカの声が聞こえた。

フレンダは背筋に冷たいものを感じながら、明るく答えた。


「も、もちろん敵だよ!ほら見てミカちゃん、列車の屋根がガラ空きになったよ!そろそろ乗り込む準備をしてね!」


「了解っす、あの薄汚い泥棒列車の中を徹底的に消毒してやるっす」


ミカがポーンA1のヘルメットを装着する。バイザーの奥で青い瞳が冷徹な殺意に染まった。

手にはアサルトライフル、腰には大型ナイフ。

そして心には、こぼれたコーヒーへの深い恨み。


「メイ、接近するよ!ミカちゃん、振り落とされないようにね!」


インパルスがさらに加速する。

壁面を蹴り谷底の列車へ向かって、蒼い流星が飛び掛かった。


ズドォォォォンッ!!

時速300キロで疾走する列車の屋根に、蒼い稲妻が落ちた。


ロード・インパルス【Reloadead】が壁面からの大ジャンプで着地したのだ。

四肢の爪が鋼鉄の屋根を突き破り、風圧に耐えるアンカーとなる。


「着いたよミカちゃん、終点だよ!」


「はぁ、最悪だったっす」


ミカはタンデムシートのロックを解除しゆっくりと立ち上がった。

彼女のポーンA1アーマーはこぼれたコーヒーでベタついていたが、その殺意は研ぎ澄まされていた。


「先頭車両の機関室を制圧すればいいんすね?」


「そう!私はこのまま屋根の上を掃除するから、ミカちゃんは中からよろしく!」


「了解っす、行ってくるっす」


ミカは躊躇なく足元のメンテナンスハッチを蹴り破った。

轟音と共に鉄板がひしゃげ、暗い車内への入口が開く。

彼女はそのまま奈落へ飛び込むように車内へと姿を消した。



列車内部。

そこは、薄暗い照明と機械油の臭いが充満する、狭苦しい通路だった。

侵入者警報を聞きつけたテロリストたちが、通路の奥から殺到してくる。

その中には通常の兵士だけでなく、身体能力を強化された獣人兵士・ゾアントロプス・フリークスの姿もあった。


「女が一人で飛び込んできやがった!」

「殺せ!切り刻んでやれ!」


ゾアントロプス・フリークスの一人が鋭い爪を振り上げて飛びかかってくる。

狭い通路では銃よりもナイフや爪の方が脅威だ。

だが、ミカは動じない。

彼女にとって、この狭さは檻ではなく狩り場だった。


「狭いっす、邪魔っす、どくっす」


ミカが踏み込む。

ゾアントロプス・フリークスの爪が鼻先を掠めるのと同時に、彼女の右腕が敵の首を捉えた。


ガゴッ!!

ポーンA1の人工筋肉と彼女自身の強化された筋力が、敵の頸椎を強引にへし折る。

そのまま敵の身体を盾にして回転し、後続の敵兵士からの銃撃を受け止める。


「なっ、なんだコイツ!?速すぎるぞ!」


「次、消毒が必要っすね」


ミカは盾にした敵を放り捨てるとアサルトライフルを構えた。

だが、撃つのではない。

銃身で敵の顎をカチ上げ、怯んだ隙に大型ナイフを心臓へ突き立てる。

CQCによる無駄のない殺戮舞踏だ。

コーヒーで汚れたアーマーへの怒りを込めて、ミカは邪魔なゴミを次々と排除していく。

彼女が通った後には、沈黙した骸と消毒液の残り香だけが漂っていた。



数分後。

ミカは先頭車両の機関室を制圧していた。

操縦席に座っていたリーダー格の男は、既に窓から放り出されて峡谷の底へ消えている。


「こちらミカ、機関室制圧完了っす。これより緊急停止シーケンスを実行するっす」


ミカはコンソールを操作し、ブレーキレバーを引いた。

だが、レバーは手応えなくスカスカと動くだけだった。


『警告。ブレーキシステム、応答なし。回路が物理的に切断されています』


「チッ。奴ら、最初から止まる気なんてなかったみたいっすね」


ミカは舌打ちをして通信を開いた。


「少尉、ブレーキが死んでるっす!このままだとあと5分で都市に突っ込むっす!」


『えっ、嘘でしょ!?』


フレンダの悲鳴が聞こえる。

都市に突っ込めば多数の民間人に犠牲が出る。


「どうするんすか!?私が動力炉を爆破してもいいっすけど、それだと列車ごとも消し炭っすよ!」


『ダメダメダメ、牛タンは死守だよ!私が力技で止める!』


「力技、まさか……」


『やるしかないでしょ!ミカちゃんはしっかり捕まってて!メイ、ブレーキ役になるよ!』


フレンダはインパルスを操作し、列車の最後尾車両へと移動させた。

そして、機体を反転させ進行方向とは逆向きに着地させる。


「トリック・ブレード、射出!」


シュパッ!!

インパルスの尾が車両の連結器の隙間に深く突き刺さり、アンカーとして機能する。

機体と列車が完全に固定された。


「行くよッ!全スラスター、最大逆噴射!パイルバンカー、展開ッ!!」


ガギィィィィィィンッ!!!

インパルスの四肢の爪と脚部に内蔵されたパイルバンカーが、線路の枕木と地面に深々と突き立てられた。

時速300キロの慣性がたった一機のヘキサギアにのしかかる。


ギギギギギギギギギギッ!!!

凄まじい摩擦音と火花が散る。

新型フレームがきしみ、フレームから白煙が噴き上がる。


「うおおおおおおおおおッ!!止まれぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


フレンダは操縦桿を引き絞り、絶叫した。

牛タンへの執念と新型フレームのふざけた出力が、数千トンの鉄塊をねじ伏せようとしていた。




ギギギギギギギギギギギッ!!!

峡谷に鼓膜を引き裂くような金属の悲鳴が響き渡り続けている。

ロード・インパルス【Reloadead】は全身の関節から火花を散らしながら、暴走列車という巨大な質量を引き留めていた。


『速度低下。時速150キロ、100キロ!』


メイのカウントダウンが焦燥を煽る。

前方には都市が迫っていた。

この暴走列車が突っ込めば、間違いなく犠牲が出る。


「耐えて!耐えてよ、新しい身体ッ!!」


フレンダはスロットルを限界まで引き絞る。

以前のアビスならば、とっくにフレームが破断してバラバラになっていただろう。

だが、新型フレームはこの理不尽な負荷にきしみ音を上げながらも、決して折れることはなかった。


『時速50キロ、30キロ!フレンダ、都市入口まで残り500メートル!』


「うおおおおおおおッ!!止まれぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


フレンダが咆哮し、インパルスが最後の踏ん張りを見せる。

パイルバンカーが地面を抉り岩盤を砕く。


ズザザザザザザッ……!!

列車が大きく傾き、そして――。


ガクンッ。

静寂が訪れた。

列車の先頭車両。そこは都市の入口寸前で止まっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


フレンダはコクピットで荒い息を吐きながら全身の力を抜いた。

インパルスの排熱ダクトからは、白い蒸気がもうもうと立ち上っている。


『停止確認。各部関節およびアクチュエーター、損傷軽微。フレームの剛性、問題ありません。素晴らしい頑丈さです!』


メイが誇らしげに報告する。

フレンダはモニター越しに煙を上げる愛機の脚部を撫でた。


「ありがとう、メイ。整備班長の言った通り最高の身体だね」


フレンダはミカと合流して、最後尾の車両に駆け寄る。


「うひょーーっ!見て見てミカちゃん、輝いてるよ!」


フレンダはVIP車両から回収したコンテナをこじ開け歓声を上げていた。

中には『厚切り牛タン』が並んでいた。


「信じられないっす」


一方、合流したミカは疲労困憊の様子だったが、即座に持参していた業務用の消毒スプレーを全身に噴射し始めた。


シュッシュッシュッ!!


「この中地獄だったんすよ?汗と油と獣臭、そして飛び散る体液。私の精神衛生は限界突破してるっす」


ミカは涙目になりながら、スーツの袖やポーンA1の隙間を入念に消毒していく。

こぼれたコーヒーのシミも彼女にとっては許しがたい汚点だった。


「まあまあ、終わり良ければすべて良し!ほら、消毒もいいけど食べよう?」


フレンダは機体の排熱ダクト付近で焼いた分厚い牛タンを一枚掴むと、ミカの口元へ差し出した。


「ほら、あーん!」


「子供扱いしないで欲しいっす、それにこんな汚れた手で食事なんて……」


「いいから、栄養補給も任務のうちだよ!」


フレンダに強引に押し込まれ、ミカは渋々その肉を口に含んだ。


「んぐッ」


噛み締めた瞬間。

サクッとした心地よい歯ごたえと共に、濃厚な旨味が口いっぱいに広がった。

戦場の硝煙や消毒液の臭いを忘れさせる圧倒的な肉の暴力が、ミカの脳内を駆け巡る。


「!」


ミカの瞳が少しだけ見開かれた。


「どう、美味しい?」


「悔しいっすけど、悪くないっす」


ミカは口元を拭い、小さく呟いた。

フレンダは満面の笑みを浮かべ自分の分の肉をかきこみ始めた。


「ん~~っ、最高!やっぱり働いた後のお肉が一番だね!」


「全くだらしない同僚っす」


ミカは隣に座り、相変わらず消毒スプレーを手に取っていた。

頭上には突き抜けるような青空。暴走列車の屋根の上という、とんでもない場所でのランチタイムだった。


だが、二人の横には傷だらけになりながらも誇らしげに佇む蒼い狼・ロード・インパルス【Reloadead】がいた。

その巨体が作る影は、二人を強い日差しから守るパラソルのようだった。


「さて、食べ終わったら帰ろうか!整備班長にお土産話もしなきゃだし!」


「そうっすね、帰ったらまずはクリーニング屋に直行っす」


二人の笑い声が響く。

新生インパルスの初陣は、牛タンんのつまみ食いによる大赤字の請求書と、最高の満腹感と共に幕を閉じた。

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