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【泥濘の回廊と腐食の王】

リバティー・アライアンス北米管区、白堊理研第8基地リトルベース。

その地下1階にある第2医務室から、この世の終わりを嘆くような呻き声が響いていた。


「うぅぅ、お腹いたい。お腹の中でサソリが踊ってるよぉ」


ベッドの上で芋虫のように丸まり、脂汗を流しているのはフレンダ・ディーコン少尉だった。

彼女の顔色は土気色を通り越して少し緑がかって見える。

原因は明白。前回の砂漠任務で現地の商人に騙されて食した「ハニー・スコーピオン(生)」による食あたりである。


「自業自得っす」


ベッドの脇でミカ・フォルクス少尉が冷ややかな視線を送っていた。

彼女の手には消化に良いとされるリンゴの皮を剥くためのナイフがあるが、その手つきは看病というよりはいつでもトドメを刺せるような鋭さを持っていた。


「あれほど言ったじゃないっすか、『変な色は警告色だ』って。全治3日、大人しく点滴でも受けてるっすね」


「ミカちゃぁん。ビーフシチュー食べたい」


「まだ懲りてないっすか?まあいいっす、私はこれで失礼するっすよ。少佐に呼び出されてるんで」


ミカは剥き終わったウサギ型のリンゴを皿に置くと背を向けた。

フレンダが離脱した今、しばらくは休暇がもらえるだろうと踏んでいた。

乾燥した部屋で愛銃のメンテナンスでもしよう。

そう考えていた彼女のささやかな希望は、数分後に粉々に打ち砕かれることになる。


司令室。

モニターの光が薄暗い部屋を照らしている。

基地指揮官であるヴァネッサ・ヘルシング少佐は深刻な表情でデスクの上のホログラム地図を見つめていた。


「……来たか、ミカ少尉」


「はっ。フレンダ少尉は現在、サソリの毒と交戦中っす」


「そうか、あいつの胃袋なら直に治るだろう。だが、問題は『水』だ」


ヴァネッサ少佐が地図の一点を指差した。

リトルベースから南へ5キロ、旧時代の地下下水道処理プラント「セクターD-5」。


「今朝未明、基地の浄水システムにアラートが出た。取水源であるセクターD-5からの水流が止まり代わりに汚染されたヘドロが逆流し始めている」


「……嫌な予感がするっす」


ミカの眉がピクリと動く。


「調査に向かった工兵部隊からの連絡が途絶えた。最後の通信には、悲鳴と『粘液』という言葉が残されている」


ヴァネッサ少佐がミカの方を向き、残酷な命令を口にした。


「ミカ少尉。直ちにセクターD-5へ潜入し詰まりの原因を排除、および生存者の救出を行え」


「了解、クロスレイダーで急行するっす」


「待て、条件がある」


少佐が首を横に振った。


「現場は地下深層のメンテナンス通路だ。配管とケーブルが入り組んでおり、通常のヘキサギアは進入できない。クロスレイダーのような小型機でも、旋回すらままならないだろう」


「……つまり?」


「『生身』での単独潜入だ、装備は携行火器のみ。フレンダ少尉の援護もなし、頼めるか?」


ミカの顔から血の気が引いた。


下水道。

生身。

単独。

それは彼女にとって、死刑宣告にも等しい単語の羅列だった。


「……拒否権は?」


「ない。このままでは明日の朝には基地の水が全て腐った泥水に変わる。シャワーも浴びられなくなるぞ」


「……ッ!!」


その一言が決定打だった。

シャワーのない生活など、ミカには考えられない。


「……行きます、行くっすよ!行ってその汚い詰まりを根こそぎ掃除してやるっす!」


ミカは半ばヤケクソ気味に敬礼した。

その瞳には任務への使命感ではなく、汚物に対する底知れぬ殺意が宿っていた。


一時間後。

セクターD-5への入り口となる、森の中のマンホール前。

輸送用トラックから降り立ったミカの姿は異様だった。

いつものスナイパースーツの上からオレンジ色の完全密閉型対化学防護服を着用。


背中には酸素ボンベ。

顔にはフルフェイスのガスマスク。

さらに、手足の繋ぎ目は粘着テープで三重に目張りされている。


「……少尉、そこまでしなくても」


送ってくれたガルド班長が呆れたように言う。


「うるさいっす!菌の一匹、ウイルスの一つたりとも私の肌には触れさせないっす!」


ミカの声はマスク越しにくぐもっていた。

彼女は腰のホルスターに対物ライフルではなく、取り回しの良い二丁の大型ハンドガンと、サバイバルナイフを装備している。

狭い通路では長物は邪魔になる。


「……行くっす」


ミカは重いマンホールの蓋を開けた。

ブワッ……

途端に立ち上る、腐った卵と鉄錆、そしてカビの混じった強烈な悪臭。


マスクのフィルター越しでもその気配だけで吐き気がする。


「うぷっ……。最悪っす、帰りたいっす……」


ミカは涙目になりながら暗い穴へと続く梯子に足をかけた。

一段降りるたびに光が遠ざかり、湿度がまとわりついてくる。


地獄へのカウントダウン。

彼女の汚れ仕事が幕を開けた。



地下30メートル。

ミカが降り立ったのは、コンクリートの壁に囲まれた円筒形の通路だった。

足元には踝まで浸かる汚水が流れており、ヘッドライトの光が濁って反射している。


「……」


ミカは言葉を発しなかった。

口を開けば空気中に浮遊する雑菌が入り込む気がしたからだ。

彼女は防護服越しに伝わる水の感触に鳥肌を立てながら、慎重に歩を進めた。


チャプ……チャプ……

静寂。

聞こえるのは自分の足音と、天井から滴り落ちる水滴の音だけ。

だが、ミカの強化された聴覚はそれ以外の「異音」を捉えていた。


ヌチャ……ズズッ……


(……いる)


ミカは暗視ゴーグルを起動した。

緑色の視界の中に配管の影や漂流物が浮かび上がる。

彼女は通路の曲がり角で足を止め、ハンドガンを構えた。


(3時の方向。天井。排水パイプの隙間)


彼女は音もなく狙いを定めた。


パシュッ!

サプレッサー付きの乾いた発砲音。

天井の影が弾けボトボトと何かが汚水の中に落ちた。

ミカがライトで照らす。


そこに浮いていたのは、人間の腕ほどの太さがある巨大なヒルだった。

「スラッジ・リーチ」。

汚染物質を取り込んで変異した化け物の一種だ。


「……気持ち悪いっす」


被弾したヒルの傷口からは強酸性の黄色い体液が流れ出し、コンクリートを溶かして白い煙を上げている。


(あれを浴びたら、防護服なんて数秒で穴が開くっすね)


ミカは戦慄した。

敵の攻撃を受けることは、即ち「汚染」と「死」を意味する。

絶対に触れてはいけない。

一滴のしぶきさえも許されない。


その時、通路の奥から空気が動いた。

生温かい風と共に無数の「這いずる音」が響いてくる。


シャアアアア……

ジュルルルル……


「……一匹じゃないっすか」


ミカがライトを向けると通路の壁、天井、そして汚水の中から、無数のスラッジ・リーチが姿を現した。

彼らは侵入者の体温を感知し、吸盤のような口を蠢かせて迫ってくる。


「寄るなっす!ソーシャルディスタンスを保つっす!」


ミカは二丁拳銃を乱射した。

狭い通路での精密射撃。

彼女の弾丸は決して壁や天井を撃たない。

跳弾や敵の体液が飛び散るのを防ぐためだ。


狙うのは常に空中に飛び出してきた敵の口腔内のみ。


パンッ!パンッ!パパンッ!

飛びかかってくるヒルが空中で次々と破裂し、汚水へと還っていく。


ミカは汚れた水面を踏まないよう、壁面の配管の上に飛び乗った。

平均台のような細いパイプの上を猫のようなバランス感覚で走り抜ける。


「汚い、臭い、近寄るな!」


ミカの悲鳴混じりの射撃。

だが、その腕は恐怖に反比例して冴え渡っていた。

潔癖症ゆえの「拒絶反応」が彼女の反射速度を極限まで高めているのだ。


「……ハァ、ハァ……!」


数十匹のヒルを処理し終えた頃、ミカの呼吸は荒くなっていた。

酸素ボンベの残量計を見る。

激しい運動と過呼吸気味の呼吸で予想以上に消費が早い。


「……急ぐっす、こんな不衛生な場所で野垂れ死ぬなんて絶対に御免っす」


ミカはパイプの上から降りることなく、さらに奥へと進んだ。

工兵部隊の反応はこの先の貯水槽エリアから発信されている。


通路は次第に広くなり、巨大な地下貯水槽へと繋がっていた。

かつては上水を溜めていたであろうその場所は今はヘドロの海と化していた。

そして、その中央にある管理用プラットホームに、数人の人影が見えた。


「生存者っす!」


先行した工兵部隊だ。

彼らは部屋の隅に固まり、震えながら何かを警戒していた。

彼らの周囲には溶けかかった防護服や武器が散乱している。


「無事っすか!?」


ミカが声をかけると、隊員の一人が顔を上げ絶望的な顔で叫んだ。


「来るな、水に近づくな!」


ボコォッ……!!

警告と同時だった。

静かだったヘドロの海が突然沸騰したように盛り上がった。

水面からせり上がってきたのは、不定形の巨大な肉塊。

無数のスラッジ・リーチが融合し、一つの巨大なゼリー状の生命体となった怪物。


アシッド・ブロブ。


「何っすか、あれ?」


ミカが呆然と見上げる中、ブロブはその半透明な体を震わせた。

体内に取り込んだ消化中の犠牲者、おそらく行方不明の隊員たちが透けて見えている。


ジュワアアアアッ!!

ブロブの体表から、酸の霧が噴き出した。

コンクリートの壁が音を立てて腐食していく。


「冗談じゃないっす、あんなの近づくだけで溶かされるっすよ」


ミカはハンドガンを構えたが、すぐに下ろした。

通常の弾丸ではあの流動体には効果が薄い

撃ち込んでも、傷口はすぐに塞がってしまうだろう。

おまけに、下手に刺激すれば体液を撒き散らされる。


(どうするっすか、距離を取って狙撃?いや、ライフルは持ってきていない。爆破?この閉鎖空間で爆発物を使えば、有毒ガスが充満して終わりっす)


絶体絶命の状況。

だが、ミカの視線は冷静に周囲をスキャンしていた。

彼女が探しているのは「武器」ではない。

この不衛生な怪物を「掃除」するための道具だ。


ミカの目が天井付近を通る太いパイプに留まった。

そこには【高温・高圧蒸気】の表示。

そして、その隣には【業務用洗浄剤・強アルカリ性】のタンク。


「……ふん、汚れ物は熱湯と洗剤で洗うのが一番っす」


ミカの口元が、マスクの下で歪んだ。

それは恐怖の笑みではなく、清掃業者が頑固な汚れを見つけた時の冷徹な笑みだった。


「待っているっすよ、汚物まみれの王様。今すぐピカピカに消毒してやるっす」


ミカはパイプの上を走り出した。

目指すのは天井付近のバルブ操作盤。

泥濘の回廊で、最後の大掃除が始まろうとしていた。




シュゴオオオオッ……!

天井付近のキャットウォーク。

ミカは平均台のような細い配管の上を疾走していた。

眼下にはヘドロの海と化した貯水槽。

そしてそこから触手のように体を伸ばし、執拗に追いかけてくるアシッド・ブロブ。


ジュワッ!!

酸の粘液弾がミカの足元の配管を直撃する。

鉄パイプが飴のように溶け、白い煙を上げる。


「しつこいっす!ストーカーは嫌われるっすよ!」


ミカはパイプからパイプへと飛び移り、バルブ操作盤を目指す。


あと少し。

あと数メートルで、あの汚物を浄化する「蛇口」に手が届く。

だが、敵も本能で察知したのか攻撃の密度を上げた。

ブロブが体積を膨張させ、部屋全体を覆うような酸の霧を噴射したのだ。


ピーッ!ピーッ!ピーッ!


「うわっ!?」


ミカのヘルメット内で、警告アラームが鳴り響く。


『警告。スーツ表面腐食率、30%突破。気密性低下。右足ブーツ、溶解中。皮膚への接触まで、あと10秒』


「嘘っすよね!?私の防護服に穴が開く!?」


焦りが、ミカの冷静さを奪った。

彼女は足を速めた。

だが、酸の霧によって結露したパイプは恐ろしいほど滑りやすくなっていた。


ツルッ。


「あ」


踏み込んだ右足が、何もない空間を滑った。

世界がスローモーションになる。

伸ばした手が、虚しく空を切る。


「嘘。いや、嫌っす!落ちる?落ちたくないッ!!」


ミカの悲鳴は、ヘドロの海へと吸い込まれていった。


バシャァァァァァァン!!!!!

最悪の音が響いた。

ミカの体は腐敗した汚水と、無数のヒルの死骸、そして高濃度のバクテリアが培養された「毒の沼」へと頭から突っ込んだ。


静寂。

ブクブクと泡が浮かび上がる。


数秒後。

ヘドロの海から泥人形のような姿がゆらりと立ち上がった。


ミカだった。

オレンジ色だった防護服は、黒いヘドロで塗り潰されている。

ガスマスクのバイザーも泥で覆われ、視界などないはずだ。

スーツの警告音が、狂ったように鳴り響いている。


『警告。汚染物質、スーツ内部へ浸透。左腕、背中、首筋、洗浄が必要です。洗浄が必要です』


「あ、あぁ」


ミカの手が震えた。


感覚がある。

首筋に、生温かい、ぬめりとした液体の感触。

それは彼女がこの世で最も憎悪し、恐れ、拒絶してきた「不潔」そのもの。


「入って、きた」


彼女の聖域が犯された。

頭上のブロブが獲物が落ちたことを好機と見て、覆いかぶさろうと迫ってくる。


ボゴォォォ……!

巨大な肉塊がミカを飲み込もうとする。

だがミカは逃げなかった。

彼女はゆっくりと顔を上げ、泥まみれのバイザー越しに怪物を見据えた。


「……よくも」


声のトーンが変わった。

恐怖による震えではない。

絶対零度の殺意。


「よくも私の肌を汚してくれたっすねェェェッ!!!」


ジャキッ!!

ミカは腰のサバイバルナイフを抜いた。

そして、自分の防護服の袖を切り裂いた。

もう守る必要はない。既に汚れているのだから。

ならば、あとは「洗う」だけだ。


「消毒だ。徹底的に、根こそぎ、分子レベルまで分解してやるっす!!」


ダダダダダダッ!!

ミカが走った。

ヘドロの海をまるで平地のように疾走する。

ブロブが触手を伸ばすが、ミカはその上を駆け上がり敵の体表を足場にして跳躍した。


「汚物は!消毒ッ!!」


ドォォォン!!

ミカは空中でハンドガンを連射した。


狙うのはブロブではない。

天井に張り巡らされた、パイプの接合部だ。


シューーーッ!!!

撃ち抜かれたパイプから高圧の蒸気が噴き出す。

摂氏100度を超える工業用スチーム。

それがブロブの体に直撃する。


『ギィィィィィッ!?』


ブロブが身をよじる。

熱湯消毒。

だが、これだけでは足りない。

汚れを落とすにはアレが必要だ。

ミカは壁を蹴り、タンクの上へと飛び乗った。


【業務用洗浄剤・強アルカリ性】


彼女は躊躇なく、タンクの底にある排出バルブをナイフで叩き切った。


「洗剤投入ッ!!」


ドバァァァァァァッ!!!

タンクから青白い液体が滝のように降り注ぐ。

強アルカリ洗浄液が高圧蒸気と混ざり合い、化学反応を起こす。

そして、その混合液が直下にいるブロブへと降り注ぐ。


ジュワワワワワワワワッ!!!!!

凄まじい音が響いた。

酸性の化け物に対し、強アルカリの中和反応。

さらに高温によるタンパク質の変性。


『ア、アガガガガガッ……!!!』


ブロブの体組織が泡を吹いて崩壊していく。

ゼリー状の体はドロドロに溶け、ただの汚水へと還元されていく。

断末魔すら上げられない。

それは戦闘ではなく、一方的な「化学洗浄」だった。


「落ちろ落ちろ!シミ一つ残さず消え失せるっす!!」


ミカはタンクの上に立ち、眼下の光景を見下ろしていた。

その姿は地獄の釜の蓋を開けた悪魔か、あるいは狂気の清掃員か。


数分後。

そこには怪物の姿はなかった。

あるのは綺麗に洗い流されたコンクリートの床と、排水口へ吸い込まれていく泡だけだった。


「はぁ、はぁ」


すべてが終わった後。

工兵部隊の生存者たちが恐る恐る顔を出した。

彼らが見たのは、タンクの下に立ち尽くすミカの姿だった。

防護服はボロボロに溶け素肌が露出している。

全身は黒いヘドロと、青い洗剤と、返り血でマーブル模様に染まっている。


「あ、あの。助けてくれて、ありがとう」


隊員の一人が声をかけ、肩に触れようとした瞬間。


ガシャッ!

ミカが超反応で銃口を向けた。

その目は虚ろで焦点が合っていない。


「触るなっす」


「ひっ!?」


「今の私はバイオハザードっす。半径2メートル以内に近づいたら、消毒するっすよ?」


その凄まじい殺気に、隊員たちは直立不動で敬礼し道を譲った。

ミカは亡霊のようにゆらりと歩き出し、地上への梯子を登っていった。

背中からは、「ブツブツ、帰ったらハイター。いや、塩酸風呂」という呪詛が聞こえていた。


翌日。

リトルベースの第2医務室。

フレンダは点滴を終え、ようやく顔色が戻っていた。


「ふぅー、生き返ったぁ。やっぱりサソリは焼いて食べるべきだったね」


「反省の色が見えないっすね」


カーテンの奥から、ミカの声がした。

フレンダがカーテンを開けると、そこには全身を包帯で巻かれたミカが座っていた。


「うわっ!?ミカちゃんミイラ!?」


「全身の皮膚をタワシで擦りすぎた結果っす。全治一週間の擦過傷っす」


ミカは不機嫌そうに包帯だらけの手でタブレットを操作していた。

画面には大量の洗剤とスキンケア用品の注文履歴が表示されている。


「任務はどうだったの?なんかすごい臭いして帰ってきたって聞いたけど」


「記憶にございません」


ミカは真顔で答えた。


「ただ一つ言えるのは、私は生まれ変わったということっす。もう二度とあんな場所には行かない。次にああいう任務が来たら、リトルベースごと爆破して消毒するっす」


「こわっ!」


フレンダは苦笑いしつつ、枕元にあったリンゴを齧った。


「まあ、お疲れ様。ミカちゃんが頑張ってくれたおかげでシャワーの水も復活したしね!」


「そうっすね。あ、言い忘れてたっすけど」


ミカがふと思い出したように言った。


「そのリンゴ、私が帰ってきた直後の手で剥いたやつっすよ」


「ぶっ!!?」


フレンダが盛大に吹き出した。

ミカは包帯の下で、少しだけ意地悪く笑った。

もちろん嘘だ。彼女は帰還後、3時間かけて体を洗浄してからここに来たのだから。

だが、このくらいの仕返しは許されるだろう。


「嘘っすよ、早く治して稼ぎに行くっすよ。洗剤代で今月の給料が消えたっすから」


清潔なシーツの匂いと二人の軽口。

地獄の汚れ仕事を終えた掃除屋は、ようやく安らかな休息を手に入れたのだった。

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