甘く惑わす匂い 弍
石造りの役所は冷たく感じた。中は静かで空気が張り詰め緊迫していた。そんな役所の奥にある牢屋に拘束されて彼はいた。
「ああ…お前か…」
武官は私たちに気づくと視線を軽く上げた。明確には王に反応したのだろう。
「景……」
王は彼を見て安心したのか肩から少し力が抜けていた。そんな王を見て彼は少し笑って告げた。
「心配かけたな……」
「…ああ」
気軽な会話だ。彼とは友人なのかも。だから王は焦っていたのか……
「彼女を殺したのか……?」
王は静かに呟くように問う。私にはその声はまるでそうであってほしくないように願っているようにも聞こえた。
「そうだ……」
彼の答えは短い。だが二人にはそれで充分だった。
「馬鹿者……」
王はこぶしを強く握り肩を震わせていた。怒っている。いや…悲しいのかもしれないな…
「なぜだ?なぜ殺した」
「……」
何も彼は言わない…答えられないのかもしれないな……
殺人をした理由なんて曖昧で答えなどないのかもしれない。
「王、事件現場に行きましょう……彼はきっと話せません」
「だが!」
王は彼の表情を見て納得する。
武官の表情は、先ほど路上で見た男のように魂が抜けているようだ。
____今の彼には説明できない。
「分かった…また来る」
王はただそれだけ言って部屋を後にする。
そうして役人に犯行現場まで案内させた。場所は娼館。派手な見た目で香水の甘い匂いが鼻に残る。そこの一室が現場だ。
「彼女が……」
王はベッドの上で寝るように亡くなっている娼婦をまるで前から知っていたように見つめる。
「知り合いですか?」
「いいや……ただ奴から話は聞いていた」
「彼はなんと?」
「愛する人だと言っていた…」
愛する人……どうも彼はこの娼婦にのめりこんでいたようだな…
「死因は分かってますか?」
「いえ、まだ分かっていません。ただ彼女の胸部に内出血の跡があります」
役人は彼女の胸部分の服をめくり、指さす。たしかにうっすらと内出血の跡があるな。
「それ以外は何かありますか?」
「いいえ、ほかには特にありませんでした」
大きな外傷や犯行の跡は特にないか……
「蓮華、分かるか?」
「……やってみます」
私は彼女の骨を肌の上から触っていく。頭から順に確認していくと問題の胸部で違和感を感じた。
「陥没してる……」
彼女の胸は軽くへこんでいた。この状況は見たことがある。
「それが死因か?」
「いえ、これはあくまで現象として起こったものです。直接の死因は窒息死だと思います」
「どうしてわかった?」
「前にも似たような遺体を見たことがあります」
不思議だ……彼が殺す気だったのなら首を絞めれば確実なのに抱きしめて殺した。それに抵抗の跡はなかった。彼女は望まれて殺されたのか?
甘い香りは死体の匂いと混じって甘く腐った匂いになる。ここは花街。そういう場所だ…
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