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後宮特殊清掃員の骨がたり  作者: 水海雫
第一章 後宮の歪み

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7/14

いない子供たち 伍

私は王と別れていったん宿舎に戻っていた。それはもう一度あの骨を見るためだ。


「帰ってきたのか」


父が顔を出す。作業をしていたのか額には大粒の汗が流れており作業着を着ていた。


「父さんあの骨が一人だけ大きな遺体は?」

「ああ、それなら今整理していたところだ」

「手伝うよ」


そう言って私は作業着を羽織り作業室に入る。机にはあの遺体の骨がきれいに並べられていた。私は再度骨を触りその骨の太さと大きさを確認する。


(やっぱり新生児の骨にしては少し大きい…)


「父さん、この骨何か異常はあった?」

「うん?いや、むしろその逆だった」

「逆?」

「そうだ。この骨は健康そのもので骨は丈夫に元気に育っている」


確かに…

骨は丈夫で着実に成長している。


(この子は大切にされていた?)


だが、それは矛盾している事実だし………だけど、ならなんで彼女はこの子を捨てた?

それは優しさとは無縁の行為のはずだ。骨が教えてくれた事は余計に私を混乱させた。


(どういうことなの?)


私は頭蓋骨を手にもって凝視する。やはり改めてみると少し骨が大きい……生まれ持っての大きさなのだろうか?個人差はあるものだから十分あり得る話だとは思うが……


「この子は少し育てられたようだな」

「え?どういうこと?」


父さんは頭蓋骨の口の中を指す。


「少しだが、歯が生えているだろ?」


よく見ると小さいが確かに歯が生えていた。つまり少しの間は育てられていた証だった。


「……大切なら捨てるものじゃない。しっかり埋葬もしてやれないのだからな」


父は静かに告げる。その声は頭の中の雲をはらすように響く。


(そうか……彼女はだからあの布を使ったのか)


私は急いで作業着を脱ぎ部屋を出ていく。


「おい、どこに行くんだ?」

「私もう一度出かけてくる。確認したいことがあるから」


勢いよく宿舎を飛び出す。


「忙しい子だ…」


走って出ていく蓮華の背中を父はずっと見ていた。あの頃の小さな彼女はもうここまで大きくなった。


(彼女も見たかっただろうな…)


______________________


「急に戻ってきてもう一度水蓮のところに行きたいなど、どうしたんだ?」

「分かったのです」

「どれがだ?」

「すべてです」


私は困惑している彼を連れて水蓮様の宮にもう一度来ていた。


「あら、早かったですね」


彼女は微笑む。まるでやっとたどり着いたかという風に。


「水蓮様、先ほどの私の発言に補足を入れていいでしょうか?」

「補足?どういうことだ?」

「足りないものを付け足すという事です」


彼女は深く椅子に座り足を組み無言で頷く。それを確認して私は息を整え彼女に語りだす。


「私は理解不足でした。なぜあなたが赤子を見つけてほしかったのか、それはただ見つけてほしかったからではありません。それにはちゃんと意味がありました」

「意味などあるのか?」

「はい、水蓮様は赤子をわざと自分の子供だと分かるように刻印の入った布を使ったのです」


刻印入りの布の意味などそう多くはない。その最たるものは身分の証明だ。


「それに何の意味がある?」

「王、考えてみてください。もし身分が分かっており高位の者の子供なら無碍な扱いはしない。丁寧に埋葬されるでしょう」


そこで彼も気づく。

彼女の真の意図に。


「あなたはどこまで分かっているのかしら?」


彼女が静かに尋ねる。彼女の双眼は深い青色でまるで水の中に飲まれそうな感覚だった。いや、すでに飲まれているのかもしれない。


「私に予想できたのは骨が教えてくれたことだけです」

「骨ね……何を教えてくれたの?」

「水蓮様は私たちが思う以上に子供を大切にしていたということです」


あの骨は大きく歯が生えていた。つまり、子供を少しの間は捨てずに育てていたのだろう。彼女の状況を考えればすぐ捨てるのが一番最善なはずなのにだ。


____なのに育てた。


それが示すのは彼女の子どもへの愛情だと私は考えた。


「子供を愛していた。だから身分を証明して丁寧に埋葬してほしかった。違いますか?」


彼女は少し間を置き息を吐き告げる。


「………ありがとう」


彼女は一言それだけ言った。


「子供を愛して育てていたなのに捨てた。なぜですか?」

「目が頭から離れなかったの」

「目?」

「そう、あの方と同じ黄色い目が私に思い出させてた。この子は私とあの方の子供だと」

「あの方……子供は帝の子供だったのですか?」

「ええ………望んでなどいなかったのだけどね」


彼女の青い目は深く沈んでいた。まるで海底の底にいるように感じられるほど深く。


「あの子が大きくなるごとに思い知らされた。この子は愛する人との子供ではないと」

「帝を愛してはいなかったのですか?」

「………」


彼女はなにも言わないでいた、沈黙は拒絶なのか肯定なのか。分からない。


「………あの子は私の子供よ」


彼女は静かにつぶやく。その声は微かに震えていたのは気のせいではないと思いたい。


こうして赤子騒動は終焉を迎えたこの件は後宮を大きく揺るがした。水蓮様は後宮から追放されることになった。


そして、これは彼女が追放されてから聞いた話だが、彼女には故郷に婚約者がいた。結婚目前だったそうだ。


その話を聞いて私には一つの仮定が生まれた。


彼女の目的は二つあったのではないだろうか。一つは赤子の埋葬。


____二つ目は後宮からの脱出。


想像にしかならないがもし、彼女がまだ婚約者のことを愛していて、後宮から出る算段をつけていたとしたらどうだ?


(彼女は帰りたかったのかもしれない……)


子供を愛する気持ちがありながら、子供を捨てた。それはどんな気持ちなのだろうか………


(私には分からない‥……だが)


あの骨からは、何かを感じた。

それを愛情と呼んでいいのかどうか、最後まで分からなかった。


























読んでいただき、ありがとうございます。

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