いない子供たち 弍
(なんて場違いな場所だ……)
周りを見渡せば白色と金色の空間だった。
「王、なぜここに?」
今、私は上級妃の住む宮にいるのだ。戸惑っている私に彼は少し迷いながらも告げる。
「……今回、確認したいこと。それは上級妃、水蓮についてだ」
上級妃、水蓮様か……有名な方だ。由緒正しい家柄に、美しい美貌を持ち芸にも秀でているとも聞いたこともある。まるで上級妃になるために生まれてきたような方。
——だが、有名なのは別の理由だ。
彼女はここ最近まで病気にかかっていて、あの帝ですら病気がうつると宮には決して入れなかった。そうして彼女は二年近くは宮に閉じこもっていた。それ故にある噂が立った。
___彼女は不貞を働いているのだと。
きっとそれは他の者たちからの嫉妬もあったのだが、真相は不明。そんな上級妃について確認したいことか……この時点で嫌な予感がする。
「まさか…本当に不貞ですか?」
「……不貞……だけならいいのだがな……」
不吉な言葉。どうも事態はかなり重いのだな。
話しながら歩いていると部屋の前で王が止まる。
彼がノックする。
ドアがゆっくり開くと中には噂の水蓮様とお付きの女官たちがいた。
水蓮様は聞く通りで肌は白くきめ細やかで、髪は流れる水のように綺麗で目元は優しく聖母のような顔。しかし、妙にやつれているような…?
「よくいらっしゃいました」
水蓮の言葉で全員が深く頭を下げた様子はまるで帝が来たみたいな反応だった。
この男……どこまで偉いのだ……
私は恐れおののきながら彼に続いて部屋の中に入る。
「水蓮様、今回私が来た理由は分かりますね?」
「……どのようなご用件でしょうか?」
彼女は極めて冷静を心掛けている。そう見えた。
(何か隠したいことでもあるのか…?)
彼女は静かに椅子へ腰を下ろし、彼にも座るよう手で促す。
彼もそれに従い、静かに腰を下ろした。
「あなたは疑われているのです」
その言葉に、彼女の瞳孔が一瞬大きく開く。私にはそれが彼女の内面が初めて明かされたように感じた。
「何をでしょうか?」
それでも彼女は冷静を徹底している。まさに上級妃らしい立ち振る舞いをする彼女に彼は少し視線を宙に彷徨わせてから告げる。
「あなたは子供を身ごもっていた……違いますか?」
その言葉に彼女は今度こそ大きく反応すると手を強く握り額には冷や汗が光っていた。
「でたらめを言うのではありません!」
強い激昂。
「では身ごもってなかったと?」
「当たり前です!」
「そうですか……ですが、ある場所であなたを見たものがいます」
彼は浅く息を吐き告げる。
「赤子の捨て場……そう言われる場で」
「!?」
彼女は唇を噛んで耐えるように冷静にそして理性的にいようとしているようだった。
「見間違いです。私はそんな場所に行っておりません」
空気は粘着質を持ったように執拗に体にまとわりついてきて呼吸を浅くさせる。それを感じ取ったのか彼は軽く息を吐き椅子から立ち上がる。
「そうですか……分かりました……また来ます」
彼は部屋を出ていく。それに私もついて行くのだが、私の目に映った彼女の最後の表情はひび割れたガラスのように見えた。
扉は静かに、重く締まると私は彼に聞く。
「私の仕事は捨てられた子供の中に彼女の子がいるか…その確認ですよね?」
「……ああ、頼めるか?」
いつもなら「かしこまりました」と言うだけなのだが、王の表情を見て私は少し言葉を変える。
「お任せください」
大げさにそう言って深く頭を下げてみた。それを見て彼の表情は少し柔らかくなった。
「そうか……任せた」
彼は私の頭を撫でる。その触り方は割れ物にでも触れるかのようだったのを今でも覚えている。
「私はもう子供ではありません」
私は彼の手を払う。
「ふ、子供が安心させてくれているかのようだったからな」
彼は意地の悪い笑みをする。そして改めて告げる。
「頼んだ」
その言葉に私は手を合わせていつもの如くいう。
「かしこまりました」
不思議と赤子の鳴き声が聞こえた気がした。
視線は自然とある方向へ向く。
——赤子が集まる場所。
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