彼のことを
「聞いた?」
「あの人が……」
「本当にかしら?」
朝の後宮は少し騒がしい。
いつもなら掃除をしている下女たちでさえひそひそと話している。
本当に捕まっているらしいな…
「父さん、現場は?」
「離れの離宮だ」
確かそこは病気で弱っている人間が集まっている場所だ。
「患者が死んだの?」
「いや、薬師がやられたらしい」
「薬師……彼と何の関係が?」
「分からない……ただ帝は事件をお聞きになり即座に彼を捕まえたそうだ」
不自然だな…いつもなら王が調査して慎重に犯人を捕まえるはずだ。なのに今回は即拘束した。迷いがない。まるで決められていたかのように。
「とにかく私、行ってくる!」
「あ、おい!蓮華!」
父の言葉を振り切って私は離宮に向かう。
後宮から隔離されるようにそれは池に囲まれた場所にあった。離宮前には役人が立っている。私が構わず入ろうとすると手で制される。
「今はここから先は立ち入り禁止だ!戻れ」
「特殊清掃員です」
「清掃員……お前が」
役人は少し目を細めて告げた。
「だめだ、通せない」
「なぜですか!いつもなら……」
「通してやれ」
いつもなら入れるのにそう言いかけた時後ろから声が聞こえた。聞きなれた低い声だ。
「……元気そうですね?」
「……ああ、まあな」
そこには拘束された状態の彼が役人を連れて立っていた。そんな彼の状態を気にせず。いつもの会話をし始める。
「王ではありませんよね?」
「……お前にはどう見える?」
「あなたはやっていない……そうですよね?」
「………」
彼は肯定も否定もしないが答えは分かっている。
「で、なぜここに?」
「帝より言われたのだ。疑いを晴らしたければ自分で証拠を探して来いとな」
「…合理的ですね」
「……はあ、そうだな」
彼は深く息を吐きうなだれる。
「とにかく中に入ってもいいですか?」
「あ、ああ」
役人は扉をゆっくりと開ける。中は匂いが籠っており薬の匂いなどで満たされている。奥に進んでいくと一室が封鎖されていた。
「ここみたいですね」
「そうらしいな」
中に入ると頭から血が出て倒れている女性がいた。私は役人に目配せするとしゃがみ込む。誰も止めない。いつものことだからだ。バックからメスを取り出し、彼女の頭を少し切り頭蓋骨の状態を確認する。出血量自体はあまりないようだがこれは……
……頭蓋が粉々だ。
彼女の近くには落ちている底が厚い花瓶があった。
「これが凶器のようですね」
「ああ、血がついてるな」
「ええ、どうも厚い底を使って殴ったようですね」
他の箇所なら割れていた可能性があるだろうからな。
この時点で彼が犯人でないことは確認できた。しかしこれだけでは弱い。やはり真犯人を捕まえる必要がある。
「できるか?」
「やります……この答えでいいですか?」
「ああ、満点だ」
そんな二人の会話を静かに後ろで真犯人は聞いていた。
(そんなことはさせない)
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