彼のこと
「どうだ?気に入った娘はいたか?」
帝が椅子に深く座り髭を撫でながら私に告げる。答えは知っているだろうに…
「いえ、まだそのようなものは……」
いない。
つい最近まではそうだった。しかし、ふと私の頭の中には彼女のことが浮かんだ。やたら骨に詳しいその女は私の正体を知っても何も変わらずにいた。
そんなことはいつぶりだっただろうか……。
「いるのか!?」
帝は興奮して体を前のめりにしてテーブルをはさんで目の前に座っていた私に詰め寄る。
「いえ、いません。ただ…」
「ただ、なんだ?」
私は浅く息を吐き告げる。
「気になっているだけです」
言葉は静かに響き渡る。そう、ただそれだけなのだ。気づけば彼女のを見ていることが多くなった。それだけだ。
「誰なのだ?」
「……気になっているだけです」
「誰だ」
帝はどうしても知りたいのか決して引かない。しかし、言えない。言えば妙な勘繰りをされることは間違いない。
「まさか……下女なのか?」
帝は眉を少し下げ、訝しむように尋ねる。どうも隠しても駄目なようだな……
「違います。特殊清掃員です……」
「!?……誠か?」
「はい……」
帝は瞳孔が大きく開く。そして髭に手をやりながら言う。
「そうか……それも道なのかもしれぬな」
帝は誰にも聞こえぬ小ささで呟く。
「よし……なら試そうではないか」
「試す……ですか?」
「そうだ。お前にふさわしいのか。それを判断する」
「いや、彼女のことは好きでは……」
「そうと決まればこれから準備をする。皆の者任せたぞ」
帝の一言で一斉に部下たち蜘蛛が散ったようには動き出す。
「何を考えているのですか?」
困惑している私を見て、帝はにやりと口元を歪ませて楽しそうに告げる。
「彼女にはお前を裁いてもらう」
「私を?」
「ああ、お前は今から殺人犯だ」
「は?」
愉快、愉快と笑う帝。そんな帝を見て背中にうっすらと冷や汗が流れた。すまない……。私にはただ謝ることしかできないのだった。
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「王が捕まった?」
朝一番に父から聞かされたのは何ともあり得ない話だった。あまりの内容に骨を整理していた手が止まる。
「なぜなの?」
「殺人をしたらしい」
はははは……面白い冗談だ。彼に限ってそれはない。彼ほどその類を嫌うものはいないだろう。今までの事件でも彼はいつも苦しそうだった。そんな男が好んで殺人などありえない。
「誰がそんな嘘を?」
父は黙り込み口を閉ざす。
「父さん」
私が詰め寄ると父は言い淀みながら口を開く。
「帝だ」
その言葉はこの後宮内では重く絶対の意味を持つ人物を指していた。
「……本当に?」
「ああ、確かだ」
私は手を口元にやり目を細める。
(彼は犯人ではない……なら、真犯人を見つけなくてはいかないな)
彼女は決して認める気などなかった。彼を信用しているわけではない。
ただ、知っている。
彼はやっていない。
「事件の話教えてくれる?」
「帝に逆らう気なのか?」
「逆らうんじゃない。教えてあげるの。間違っているってね」
「できるのか?」
「できるかじゃない。できるんだよ」
私ならできる。
「本当に手のかかる人だな……」
間違いを正す。
ただ、それだけだ。
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