第6話 勧誘と内通
第6話です。
魔王軍との接触を経て、物語は少しずつ人間側へ向かいます。
外の空気にも、少しだけ慣れてきた。
だが油断はしていない。
なぜなら――来るからだ。
(……また来た)
視界の先。
整った足音。
複数。
さっきまでの“雑な集団”とは違う。動きに統率がある。
ノクスが小さく呟く。
「……軍属系個体」
ルミナが首をかしげる。
「えー?敵なのー?」
(いや、敵っぽいだろ普通に)
だが、すぐには動かない。
様子見。
そして――
岩陰から現れた。
黒い装束。鎧。明らかに戦闘職。
先頭の一体が、ゆっくりと膝をつく。
「……偉大なる存在よ」
(は?)
いきなり礼。
予想外すぎて思考が止まる。
「我らは魔王軍“第七観測隊”」
(魔王軍)
出た。
ついに来た。
だが――
敵意がない。
むしろ、敬意。
「貴方様の瘴気濃度、規格外」
「我々は交戦意思なし」
(……え、勧誘?)
次の言葉で確信する。
「我らと共に来られよ。魔王軍へ」
(やっぱ勧誘かよ)
完全に予想外の展開。
どうする。
ここで“威厳”を出すしかない。
(……よし)
喉(?)に力を込める。
それっぽく。
それっぽくいけ。
「……我は、動かぬ」
低く。
重く。
できるだけ“それっぽく”。
魔王軍の一体が顔を上げる。
「では拒絶か?」
緊張。
ルミナが「わー……」と小声で見ている。
ノクスは無言。
(いや待て、ここで敵対はまずい)
即座に修正。
「……拒絶ではない」
間を置く。
「……観測を許す」
(セーフ)
自分でもギリギリのライン。
魔王軍側がざわつく。
「……許可、だと?」
「この存在、我らを許容」
(うん、そういうことにしとけ)
その瞬間だった。
空気が変わる。
緊張が消える。
「感謝する、偉大なる存在」
(よし、乗った)
⸻
そこからは意外と早かった。
魔王軍側は敵ではなかった。
むしろ“調査班”のようなものらしい。
彼らは情報を持っていた。
「この世界には三勢力が存在する」
魔王軍。
勇者側。
そして――中立地帯。
(ほーん)
聞き役に徹する。
威厳モード維持。
「勇者側は“浄化”を目的とする」
「魔王軍は“均衡維持”」
(え、魔王いいやつじゃね?)
内心ツッコミが止まらない。
ルミナが小声で聞く。
「ねぇねぇ、どっちがいいのー?」
(知らん)
ノクスが静かに補足する。
「情報不足。判断不可」
(助かる)
⸻
話が進むにつれ、分かってきた。
この世界は単純じゃない。
敵と味方がはっきりしているようで、実は曖昧。
そして――
「最近、“異常個体”が増えている」
魔王軍の一体が言う。
「瘴気領域において、制御不能の存在」
(……それ俺じゃね?)
嫌な予感がする。
「その中心に、“動かぬ竜”の観測記録あり」
(あ、やっぱ俺だ)
静かに認める。
ルミナがこっちを見る。
「主様、有名なのー?」
(うるさい)
ノクスは冷静だ。
「情報価値、上昇」
(やめろプレッシャー)
⸻
魔王軍の一体が最後に言う。
「我らは、貴方を“危険ではない存在”と判断した」
「よって、協力関係を提案する」
(協力)
つまり。
敵ではなくなった。
いや――
(利用されてる?)
それもある。
だが同時に。
(こっちも利用できるな)
情報が手に入る。
世界の構造。
勇者側。
魔王軍。
全部。
その時。
ルミナが元気に手を振る。
「仲良くなったのー!」
(いや軽いな)
ノクスは一言。
「……利害一致」
(それな)
⸻
そして、去り際。
魔王軍の一体が振り返る。
「最後に一つ」
低い声。
「貴方の存在は、いずれ“竜王系統”へ至る可能性がある」
(……竜王)
その言葉に、少しだけ反応する。
「それは、“世界の均衡の鍵”だ」
(鍵?)
意味深な言葉。
だが、深くは聞けない。
彼らは去っていく。
⸻
静寂。
残るのは三人。
「主様ー、なんかすごいのー!」
ルミナ。
「……情報増加」
ノクス。
(……竜王、か)
まだ遠い話だと思っていた。
だが――
(もう巻き込まれてるなこれ)
少しだけ、ため息。
でも。
(まあいいか)
悪くはない。
むしろ。
(面白くなってきた)
そう思えた。
魔王軍の一団が去ったあと。
静けさが戻るはずだった。
だが――違った。
「主様ー!なんか来るのー!」
ルミナの声。
(またかよ)
もう嫌な予感しかしない。
ノクスがすぐに反応する。
「……複数接近。人間型」
(人間)
一瞬、空気が変わる。
魔物じゃない。
“人間”。
足音。
整った動き。
訓練された集団。
「……捜索隊」
ノクスが断言する。
(やばいの来た)
ルミナが小声になる。
「主様ー、これどうするのー?」
(どうするって言われてもな)
逃げる?無理。
隠れる?ここ自体が俺の巣みたいなもんだし無理。
(詰みじゃね?)
その時。
岩陰から現れた。
鎧。
剣。
盾。
完全に“人間の兵士”。
そして――
隊長らしき男が前に出る。
「……そこにいるのは何だ」
緊張が走る。
(やばい、話しかけられた)
どうする。
どうする。
どうする。
(ドラゴンとして喋るしかないだろ)
喉(?)に力を入れる。
低く、重く。
「……我は、此処に在る者」
(よし、それっぽい)
兵士が一瞬固まる。
「……ドラゴン、だと?」
空気がピリつく。
ルミナが後ろで「すごいのー!」って小声で言ってる。
(黙れ今それ)
ノクスは無言で待機。
完全に見守りモード。
その時だった。
兵士の一人が一歩踏み出す。
「討伐対象確認――」
(あ、これ戦闘入るやつ)
終わった。
動けない。
逃げられない。
(……やばい)
緊張が一気に跳ね上がる。
心臓(あるのか知らんけど)が暴れる。
(やばいやばいやばい)
そして――
限界突破。
(うっ……)
内部がぐらつく。
何かが“漏れる”。
(あ、これダメなやつ)
次の瞬間。
ふっ、と。
出た。
「……っ!!?」
兵士たちが一斉に後退する。
「何だ今の……!」
「毒霧!?いや違う!」
混乱。
一瞬で広がる。
(え、なにこれ)
自分でも分からない。
だが――
結果だけは分かる。
全員倒れている。
(……またやった?)
静寂。
風が吹く。
(いや待て)
(俺、今なにした?)
恐る恐る見る。
兵士、全滅。
(……またかよ)
毎回これだ。
そして――
流れ込む。
魂。
情報。
記憶の断片。
(うわ、また来るやつ)
慣れてきている自分が怖い。
⸻
だが今回は違った。
(……ん?)
記憶の中に“技術”がある。
鎧。
装備。
軍隊構造。
(……これ)
視界を向ける。
倒れている兵士たち。
(……使えるな)
⸻
少し後。
「主様ー、これ着るのー?」
ルミナが鎧を持っている。
「……装備確認」
ノクスが冷静に分析。
(いや、これ普通にやばいだろ)
だが――
着るしかない。
(バレたら終わるし)
鎧を“適当に”組み合わせる。
サイズは合わない。
だが雰囲気は出る。
(……いけるか?)
「……擬態、成立可能性:高」
ノクスの評価。
(よし)
ルミナがくるくる回る。
「主様、かっこいいのー!」
(うるさい)
だが――
見た目だけなら“人間の兵士”。
(これで外出れるな)
⸻
そして気づく。
(……これ、勇者会いに行けるな)
魔王軍とも接触した。
人間側の情報も得た。
そして今。
(人間側に混ざれる)
すべて繋がった。
⸻
「主様ー、次どこ行くのー?」
ルミナ。
「……勇者側」
ノクス。
(……だな)
もう決まっている。
これは偶然じゃない。
流れだ。
(巻き込まれてるな完全に)
でも――
(悪くない)
そう思った。
読んでいただきありがとうございます。
次はいよいよ、人間側との接触になります。
物語が少しずつ動いていきますので、引き続きよろしくお願いします。




