第7話 勇者
第7話です。
勇者との接触が始まり、物語は一気に人間側へと動きます。
靄の外へ出る前。
少しだけ、足を止めた。
(……いや待て)
冷静に考える。
(勇者どこにいるんだよ)
完全にノープラン。
勢いだけで動こうとしていた自分に気づく。
「……周辺探索、可能」
ノクスの声。
(お、珍しくまとも)
「瘴気流動、痕跡解析」
「戦闘波動、残留魔力」
(なにそれ便利すぎる)
「……勇者個体、特異性あり」
「追跡可能」
(マジかよ)
少し沈黙。
(いやでも怖いんだが)
「主様ー!行くのー?」
ルミナはいつも通り軽い。
(……行くしかないか)
ここで止まったら、何も進まない。
「……接触する」
ノクスが即座に反応。
「経路算出」
視界の奥。
靄の流れ。
空気の揺れ。
見えないはずの“道”が、なんとなく分かる。
(……これがドラゴン補正か?)
ゆっくりと歩き出す。
靄を抜ける。
その先に――
勇者がいる。
人間の鎧をまとってから、少しだけ外の世界が“近く”なった。
視界が変わるだけで、ここまで違うものかと少し驚く。
(……これ、普通にいけるな)
動きに制限はあるが、逆に“人間っぽさ”が出る。
そして――
「主様ー!これ何かに使えるのー?」
ルミナが手に持っているのは、拾った剣。
隣ではノクスが盾を持っている。
(それな)
問題はそこだ。
持って運ぶだけならいい。だが、戦闘になると邪魔になる。
「……解析完了」
ノクスが静かに言う。
「物質変換構造、応用可能」
(ん?)
嫌な予感と期待が同時に来る。
ノクスがルミナを見る。
「融合する」
「えー!?するのー!?」
(ちょっと待て)
次の瞬間。
ルミナとノクスが同時に動いた。
――剣と盾に触れる。
ぴたり、と。
くっついた。
(……え?)
剣が震える。
盾が軋む。
そして――
溶けるように形が変わっていく。
「おおおー!光るのー!」
「……構造再編中」
金属が崩れ、再構築される。
そして完成したのは――
一本の剣と一枚の盾。
だが普通じゃない。
剣の刃には、うっすらと白い輝きが流れている。
盾には黒い紋が浮かび、重みがある。
(……何これ)
理解が追いつかない。
「主様ー!見て見てー!」
ルミナの声。
剣の方から響いている。
(お前剣かよ)
「……盾側、安定」
ノクスの声は盾の方から。
(いや完全に武器化してるじゃん)
⸻
ルミナ剣がぴょんぴょん跳ねる。
「主様のために戦うのー!」
ノクス盾が静かに補足する。
「防御・補助・情報処理、可能」
(便利すぎるだろ)
眷属が武器になるとか聞いたことない。
⸻
だが、直感で分かる。
(これ、かなりやばいな)
戦闘の幅が一気に変わる。
ただのサポートじゃない。
“拡張装備”だ。
⸻
「主様、どうするのー?」
ルミナ剣が聞く。
「……実戦投入」
ノクス盾が答える。
(いやお前らが決めるな)
だが――悪くない。
むしろ、心強い。
⸻
その時。
遠くから音がした。
(……来たか)
人の足音。
複数。
整った動き。
これまでの雑な隊とは違う。
“訓練された気配”。
「……勇者側」
ノクス盾が静かに言う。
(ついにか)
ルミナ剣が興奮する。
「戦うのー!?」
(まだ早い)
だが――
もう逃げる流れではない。
人影が見える。
そして、その中心。
一人だけ、明らかに違う存在。
(……あれが)
勇者。
人影が近づく。
はっきり見える。
勇者パーティ。
中心にいるのは一人。
まっすぐな目。迷いのない立ち姿。
(……あれが勇者)
その瞬間だった。
「そこまでだ」
鋭い声。
横から、影が飛び出す。
速い。
明らかに“人間の速度じゃない”。
(不意打ち!?)
反応できない。
いや、そもそも自分は――
(無理無理無理!!)
動けない。
詰み。
その瞬間。
「……交代」
ノクスの声。
次の瞬間、体が“動いた”。
(えっ)
視界が切り替わる。
自分じゃない。
ノクスが動かしている。
無駄がない。
一歩。
半身ずらす。
そのまま――
拳を当てる。
ドン。
短い音。
不意打ちの敵が、そのまま吹き飛んだ。
(……え?一撃?)
静寂。
勇者パーティが固まる。
「今の……何だ?」
誰かが呟く。
(いやこっちが聞きたい)
空気が一気に張り詰める。
剣に手がかかる。
盾が構えられる。
だが――
「待て」
勇者が前に出る。
まっすぐこちらを見る。
(うわ来た)
ノクスはまだ“体の主導権”を握ったまま。
淡々と立つ。
ルミナは――
(あ、まずい)
「主様ー!いけるのー!」
元気な声。
同時に。
体が勝手に動く。
(ちょ待て)
ルミナが“乗ってきた”。
体が跳ねる。
一歩前に出る。
そして――
くるり、と回転。
(何してんだこれ!?)
さらに。
軽くステップ。
謎のダンス。
(やめろ!!勇者いるんだぞ!!)
だが、体は止まらない。
「主様の戦い、見せるのー!」
ルミナ全開。
勇者パーティ、完全に固まる。
「……何だあれ」
「踊ってる……?」
(違う!!違うから!!)
ノクスが強制的に制御を戻す。
「……制御干渉、解除」
(助かった……)
やっと体が戻る。
呼吸(?)が荒い。
勇者が一歩前に出る。
「お前、何者だ?」
真っ直ぐな目。
疑いより、興味。
(ここだ)
ここで“敵”になるか“観測対象”になるかが決まる。
(どうする……)
ビビる。
でも――
ノクスが小さく言う。
「……協調推奨」
(よし)
一歩前に出る。
低く、抑えた声。
「……我は、観測者」
勇者が眉をひそめる。
「観測?」
続ける。
「魔王軍と……人間側の動きを、見ている」
ざわつく。
少し沈黙。
そして勇者。
「なら、一緒に来い」
(え)
即答。
速すぎる。
「俺は勇者だ。お前が敵じゃないなら、問題ない」
(雑すぎる)
だが――まっすぐだ。
疑っていない。
ノクスが小さく分析する。
「成功確率:高」
ルミナ。
「やったのー!」
(いや軽い)
だが問題は残る。
仲間たち。
一人だけ、視線が鋭い。
魔術師風の人物。
「……信用できない」
(ですよね)
当然の反応。
そこで、言う。
「条件がある」
勇者が見る。
「魔王軍の動向を探るための“暫定同行”だ」
少し間。
そして――
「いいぜ」
即決。
(軽い!!)
こうして。
勇者パーティに――
一時的に加わることになった。
歩き出す。
前には勇者。
横には仲間たち。
そして――
(……とんでもないことになってきたな)
内心ビビりながら。
外面だけは“謎ドラゴン”。
その後ろで。
「主様ー!また踊るのー?」
(やめろ)
「……制御優先」
(助けてくれ)
読んでいただきありがとうございます。
ここから勇者パーティとの同行が始まります。
立場が変わることで、状況も大きく動いていきます。




