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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第47話 真価を現す光の勇者

『断罪の回廊』にて、アイリスの正体と自らの立ち位置を明かし、魔王へ直接の宣戦布告を行って帰還したアルク。

漆黒の竜鱗、鋭利な二本角、強靭な皮膜の翼を持ちながらも、ノクスの結界によって「人間サイズ」へと高密度圧縮された恐るべき竜王を仲間に引き入れ、勇者一行はいよいよ最終決戦の地――全魔族の総本山たる『魔王城』の正門へと足を踏み入れた。

天を分厚い暗雲が幾重にも覆い尽くし、鉄錆のような血の匂いと、呼吸すら困難になるほど濃密な瘴気が立ち込める魔王城の正門前。

 絶望を象徴するかのようにそびえ立つ、天を突くほど巨大な城門を見上げたまま、白銀の眩い輝きを放つ『本物の伝説の剣』を固く握りしめた勇者が、ふと足を止めた。そして、何かを決意したような真剣な面持ちで振り返り、仲間たちへとゆっくりと口を開いた。

「……みんな、この門をくぐって中へ入る前に、一つだけ俺の我儘を聞いてほしい」

「どうしたのよ、急に改まって。こんなところまで来て、まさか引き返そうなんて言わないわよね?」

 魔術師が不思議そうに首を傾げ、アイリスが無言でその背中を見つめる中、勇者はかつてなく重く、しかしどこまでも透き通った声で告げた。

「これから挑むのは、世界を絶望で塗り潰そうとする最悪の魔王だ。どれだけ準備をしても、何が起こるか分からない。だから……もし、万が一、この戦いで俺が死ぬようなことがあったら、その時はみんな、俺のことは構わずすべてを投げ出して、全力で逃げてくれ」

「なっ……勇者様!? 何を縁起でもないことを!」

「魔術師も、アイリスも、アルクも……お前たちは全員、俺にとってかけがえのない大切な仲間だ。だからこそ、俺の命と引き換えにお前たちを巻き添えにはしたくないんだ」

 勇者はそう言って優しく微笑むと、今度はその一切の淀みがない真っ直ぐな視線を、漆黒の竜鱗に覆われたアルクへと向けた。

「アルク。もし俺が死んだら……俺が身につけているこの『伝説の防具』と、今手にしたこの『伝説の剣』だけは必ず回収して、元あった場所に返しておいてくれないか。俺が魔王討伐に失敗しても、人間がいる限り、いつか必ず次の光の勇者が現れるはずだから……その時のために、希望だけは残しておきたいんだ」

(――っっ!! お前ってやつはぁぁ!! どんだけピュアで自己犠牲精神に溢れた王道主人公なんだよ!! 最終決戦の門を叩く直前のセリフとして、これ以上ないくらい完璧すぎるだろ!! 遺言めいた頼み事でプレイヤーの涙腺を崩壊させにくるスタイル、マジで最高だぜ!!)

 アルクは内心でオタク全開の感動の血涙を流し、勇者のあまりにも眩しすぎる主人公ムーブに対して心の中でスタンディングオベーションを送り続けていた。

 しかし、表面上はあくまで冷徹にして絶対なる竜王の態度を微塵も崩さない。アルクはゆっくりと強靭な腕を組み、地の底から響くような重厚で威厳に満ちた声で言い放った。

「……愚問だな、光の勇者よ。其方が此処で散るなど、万に一つも有り得ぬ」

「アルク……?」

「安心せよ。この世の理を見つめる竜王たる我が、其方の背後に居るのだ。我は其方が玉座の主を討ち果たすその瞬間まで、決してその命を散らせはせぬ。……死など案ずるな。ただ前だけを見て進め、勇者よ」

(――絶対に死なせないからな! 俺が死に物狂いで胃に穴を空けながらプロデュースしてきた最高のエンディングを、途中でバッドエンドにさせてたまるか! お前は絶対無敵の主人公として、魔王をぶっ飛ばすんだよ!!)

 内心の必死すぎるプロデューサー魂を、竜王の圧倒的な覇気と威厳で完璧にコーティングした激励。

 その力強い言葉を受け、勇者は一瞬驚いたように目を丸くした後、パァッと顔を輝かせて力強く頷いた。

「ああ……! ありがとうアルク! よし、行くぞ!!」

 勇者が伝説の剣を天高く掲げると、白銀の刀身から迸る圧倒的な聖なる波動が城門にまとわりつく禍々しい瘴気を瞬時に浄化し、重々しい鋼の扉が地鳴りのような音を立ててゆっくりと開け放たれた。

───

 魔王城の内部は、外観の威容に違わず、まるで蟻の巣のような巨大な迷宮として複雑に入り組んでいた。至る所に死角があり、幻惑の魔法がかけられた無限回廊や、騙し絵のような通路が続いている。

 しかし、一行は一切の迷いを見せることなく、最も安全で最短のルートを選び出し、玉座への道を真っ直ぐに進んでいく。

「それにしても、なんでアルクはこの複雑怪奇な魔王城の構造が完全にわかってるのよ? まるで自分の庭でも歩くみたいに迷わず進んでるじゃない」

 周囲の闇を警戒しながら歩を進めていた魔術師が、訝しげに尋ねる。アルクは鼻で軽く笑い、威厳たっぷりに答えた。

「造作もない。先程、アイリスと共に魔王へ挨拶に赴いた際、ノクスに城の構造を隅々まで把握させておいたまでよ」

 それは紛れもない事実であった。先程の謁見の間での対峙中、アルクが内心で魔王の放つプレッシャーに冷や汗を流してガタガタ震え上がり、「絶対に戦闘は回避する」と祈っていたその裏で、有能極まるノクスが空間把握能力をフル稼働させ、たった数分間で魔王城の完全な3Dマッピングを完了させていたのである。

「なるほどね……相変わらず底知れないわ」

 魔術師が恐れ入ったというように感嘆の息を漏らした、その直後だった。

 ズガンッ!!

 通路の天井が突如として大音響と共に爆発し、大量の瓦礫の雨と共に、四本の腕を持つ巨大な上級悪魔が奇襲を仕掛けてきたのだ。

 明らかに魔王の側近クラスであろう、ドロドロとした強大な魔力。それが一切の殺気を消し、完全に虚を突くタイミングで一行の頭上から音もなく襲いかかってきたのである。

「しまっ……! 不意打ち!?」

 魔術師が咄嗟に迎撃の魔法を展開しようと杖を構えるが、悪魔の落下速度の方が圧倒的に速く、明らかにタイミングが間に合わない。

(いかん! まずいぞノクス、ルミナ! すぐに勇者の防御と迎撃のサポートを――)

 アルクが脳内で緊急の接待プレイ(光と闇の過剰エフェクト付与による強制勝利)を命じようとした、次の瞬間。

「そこだッ!!」

 誰よりも早く反応したのは、他ならぬ勇者だった。

 彼は踏み込みの姿勢を低く沈めると、これまで力任せに鉄の棒のように剣を振り回していただけの粗削りな動きとは全く違う、洗練された極限の身のこなしで石畳を蹴った。

 流れるような抜刀。それと同時に、伝説の剣から迸る圧倒的な聖気が、まるで勇者自身の意志を持っているかのように、一点の淀みもない完璧な剣閃へと収束していく。

「これで終わりだ! 『ホーリー・バースト・スラッシュ』!!」

 閃光。

 勇者が放った一撃は、一切の無駄がない完璧な軌道を描き、空中にいた四腕の上級悪魔の分厚い装甲ごと、その巨体を文字通り「一刀両断」に切り裂いた。

 悪魔が悲鳴を上げる間もなく、遅れて発生した莫大な光の奔流が空間を埋め尽くし、上級悪魔の残骸を塵一つ残さず浄化し尽くしてしまった。

 ノクスが展開する見えない絶対障壁のサポートも、ルミナが追加する過剰な光のCG演出も一切ない。

 勇者自身の極められた技術と、本物の伝説の剣が完全に共鳴して生み出された、純度百パーセントの『本物の必殺技』であった。

「うそ……っ!? 今の上級悪魔を、たったの一撃で……!?」

 魔術師が信じられないものを見たように目を丸くし、杖を持ったまま呆然と呟く。

「すごい……以前の勇者の強さとは、段違いだわ……」

 驚愕していたのは魔術師だけではない。誰よりも一番驚いていたのは、他ならぬアルク本人であった。

(ええええええっ!? マジで!? なんで今、あいつ一人で完璧な必殺技を撃てたの!?)

 以前までの勇者は、必殺技の名を叫んで適当に剣を振り回し、その裏でノクスとルミナが必死に敵の攻撃を相殺しながら光と闇のエフェクトを限界まで盛るという『過剰な接待プレイ』がなければ、あの技を成立させることなど到底できなかったはずだ。

 だが、今のは違う。剣を振り抜く軌道、魔力の練り上げ方、そして放たれる威力のすべてが、かつてアルクたちが裏で汗水流して作り上げていた『理想の必殺技の演出』と完全に一致していたのだ。

(まさか……あいつ、俺たちが裏でやってた接待プレイの魔力制御や剣の理想的な軌道を、自分の体で受けながら完全に学習して、無意識のうちに自分のものにしちまったってのか!? 本物の伝説の剣を手に入れたことで、その眠っていた才能が完全に開花したってことかよ!? ……っ、勇者スゲー!! 天才すぎるだろ!! これぞ俺が見込んだ最強の主人公だ!!)

 アルクが内心で激しい興奮と歓喜の舞を踊っていると、脳内に、冷徹で事務的なノクスの念話が響いた。

『……状況を分析。対象(勇者)の剣術スキルおよび魔力制御が、我々が過去に再現していた理想値に到達。自力での完全な奥義の発動を確認しました』

 ノクスの声には、いつもの氷のような冷たさの中に、どこか深い安堵のような、憑き物が落ちたような響きが混じっていた。

『これより、対象に対する過剰な演出サポート、および必殺技の完全再現係の任務を解除します。……ようやく、あの不毛で胃の痛くなる裏方作業から降りられます』

『主様ぁ! ルミナももう、敵の装甲を叩く勇者の剣に合わせて光をピカピカさせるお仕事しなくていいなの!? やったぁなのー!』

 脳内で、冷徹なノクスと元気なルミナが、揃って「はぁ〜……」と深々と肩を落とし、長年の激務から解放されたような盛大な安堵の溜息を吐き出していた。アルクの接待プレイの裏で、彼女たちがどれほどの苦労と精神的疲労を抱えていたかが窺い知れる瞬間であった。

「……フッ。見事な一太刀であったぞ、勇者よ」

 アルクは内心の興奮とノクスたちの和やかなやり取りを隠し、竜王の威厳たっぷりに腕を組んで勇者を称賛した。

「へへっ、ありがとう! なんだか、この剣を握ってから、体がすごく軽く感じるんだ。今なら、どんな敵が来ても絶対に負ける気はしないぜ!」

 無邪気に笑う勇者の瞳には、一点の曇りもない。

 己の力で真の必殺技を完成させた光の勇者と、それを導き見守る黒き竜王。かつてないほど強固に結びついた彼らの前に立ち塞がる者など、もう魔王城には存在しなかった。

魔王城の正門前で「俺が死んだら防具と剣を返してくれ」と遺言めいた熱い頼み事をする勇者。プロデューサーたるアルクがそんなバッドエンドを許すはずもなく、竜王の威厳たっぷりに「死なせはしない」と鼓舞します。

そして魔王城内部での奇襲! なんと勇者は、これまでアルクたちが接待で無理やり再現していた必殺技『ホーリー・バースト・スラッシュ』を、自らの才能で完全に習得し、自力で放ってみせました!

「勇者スゲー!」と内心で大興奮のアルクの裏で、長らく続いた「過剰演出・エフェクト係」の激務からついに解放され、安堵に肩を落とすノクスとルミナのコンビがシュールです(笑)。

真の力を解放した勇者一行は、ついに魔王の待つ玉座へと迫ります!

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