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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第43話 生ける死の足枷と、英雄の歪んだ正義

勇者が放った黄金の加護により、死への恐怖を忘れた狂戦士バーサーカーへと変貌した五千の王国騎士団。彼らが十倍の数を超える魔王軍を蹂躙していく中、勇者は拠点の主――魔王の右腕と称される『闇の重騎士』との一騎打ちに臨む。それは英雄譚の皮を被った、アルクたち裏方による必死の「接待劇」であった。

魔王城へと続く『断罪の回廊』。その最深部には、漆黒の巨馬に跨る魔王の右腕、闇の重騎士が君臨していた。

 鎧の隙間からは濃密な瘴気が溢れ出し、周囲の地面を黒く腐食させている。

「……傷を癒やし、恐怖を奪い、死ぬことすら許さず戦わせる。勇者よ、貴様の方がよほど魔族よりも残酷ではないか!」

 重騎士の咆哮と共に放たれた魔剣の一撃が、勇者の剣と激突する。アルクの強化バフにより勇者のステータスは限界突破しているが、魔王の直属相手では決定打に欠け、激しい火花が散り続ける。

(……チートを盛ってもなお拮抗するか。まともにやり合えば、勇者の腕が先に音を上げるな。……だが、余興はここまでだ)

 アルクが指先を動かそうとした、その時。

「ヒャッハァァァァァァッ!! 勇者様をお助けしろォォォッ!!」

 戦場を埋め尽くしていた狂戦士たちが殺到した。数十人の騎士たちが、武器を投げ捨て、素手で巨大な黒馬へと縋り付く。

「なっ……貴様ら、何を! どけ、下等生物どもが!」

 重騎士が魔剣を一閃させ、騎士たちの胴体を両断する。だが、切り離された上半身が地面に転がるよりも早く、切断面から伸びた魔力の触手が瞬時に肉体を再結合させた。

「いってぇなぁ! でも離さねぇぞヒャッハー!」

「この馬、美味そうだなぁ! 逃がさねぇぞ!!」

 兵士たちは満面の笑みで馬の脚に牙を立てる。一人が振り払われれば即座に次が飛びつき、肉の足枷となって重騎士の動きを完全に封殺した。

「お、お前たち……! 俺のために、そこまでボロボロになりながら……っ!」

 その凄惨な光景を見て、勇者の瞳から大粒の涙が溢れ出した。

「なんて健気なんだ……! ありがとう、みんな! 俺は君たちの想いを、決して無駄にはしない!!」

 感動に震え、剣を構える勇者。その隣で、魔術師は幽霊でも見たかのように青ざめ、滝のような冷や汗を流していた。

(…………)

 アルクの脳内には、無機質なノクスの報告が響く。

『報告。彼らの脳内は現在、あの変態魔族が繋いだ「神の瞳」による魔力パスで、幸福物質が過剰分泌されたリミッター解除状態にあります。生存本能より快楽を優先させる非論理的な術式。主、あの変態魔族の管理能力を疑います』

(……すまん、騎士団。いつか最高級の祝杯で返させてくれ!)

 アルクは内心で懺悔し、威厳に満ちた声を響かせた。

「……勇者よ、今だ。彼らの献身に応えよ。其方の魂を、その一撃に込めろ」

「ああ! これで終わりだ! 『ホーリー・バースト・スラッシュ』!!」

 勇者の叫びと共に、剣が振り下ろされる。

 その瞬間、ノクスが勇者の剣筋に合わせて重騎士の右腕周辺の空間を消去して切り取った。魔剣を失い、体勢を崩す魔王の右腕。勝負は決したかに見えた。

 だが。勇者は止まらなかった。陶酔しきった表情で再び剣を構え直したのだ。

「……本当は魔王まで使うつもりはなかった。だが、俺も本気で応えなければならないようだな。……見ろ、これが俺の、真なる魂の咆哮だ!!」

(……は? ちょ、待て。何だその構え。俺はそんなの知らないぞ!?)

 勇者は奇怪で複雑なステップを踏みながら、天高く剣を突き出した。

「究極奥義! 『ギャラクシー・コメット・エクスプロージョン』!!」

(アドリブか!? 完全にその場のノリで必殺技を創りやがったな!?)

 勇者は特訓中、一度としてこの動きを成功させたことはなかった。ただの無駄な踊りでしかなかったはずだ。しかし今、彼は「実戦なら出来てしまう俺」に完全に酔いしれている。

(ノクス、ルミナ! 何でもいい、あのバカが満足しそうなド派手なエフェクトを盛れ! RPGオタクとしての俺の知識を脳内に直接転送する。完全アドリブだ、合わせろ!!)

 アルクの脳内に、氷点下の冷たさを帯びたノクスの声が響いた。

『主。対象の行動は論理的に無意味です。リソースの無駄ですが……了解しました。命令に従い、高負荷レンダリングによる演出処理を実行します。……アイリス、貴様の稚拙なバフが余計な万能感を煽った結果です。迷惑極まりないですね、変態魔族』

『もー! アイツ、絶対バカなの! 練習で一回もできてなかったのに、なんで今やるの!? 主様、後でルミナもアイツを思いっきり殴っていい!? アイリスもニヤニヤしてないで手伝いなさいよこの変態!』

『あら、ひがみかしら? アルク様のお役に立っているのは私ですもの。精々必死に働きなさいな、お掃除道具さんたち♪』

(いいからやれ! 失敗したらプロデュースが台無しになるんだよ!!)

 眷属たちが脳内で火花を散らしながらも、即座に動き出す。アルクは勇者のデタラメな動きに合わせ、周囲の空間を「編集」し始めた。

 勇者の剣に合わせ、無数の光剣を虚空から顕現させる。ルミナがそれらに過剰な聖光を注入して一斉射出! さらにノクスが着弾地点で局所的な空間爆発を連続発生させる!

 ドドドドドドドドンッ!!

 銀河が爆発したかのような閃光が戦場を支配した。光が収まった時、魔王の右腕は塵一つ残さず消滅していた。

 勇者は満足げにキメ顔を維持し、ゆっくりとアルクを振り返った。

「見たか、アルク。これが俺の、とっておきの切り札なんだ。……特訓中は何も起こらなかったけど……やっぱり実戦だと出来ちゃうんだよな。……ふっ、やっぱり俺が『勇者』だから、か」

(……お前ぇぇぇぇぇ!!)

 アルクは顔面蒼白で滝のような汗を流しながら、内心で絶叫した。

(お前が『勇者』だからじゃない! 俺たちが死ぬ気で『全力接待アドリブ』をしたからだ! そんな自己陶酔に浸るな! 今後の演出コストが跳ね上がるだろうが!!)

『……主。次にあの者がカタログ外の行動をとった場合、私は迷わず彼を処理対象として認識します。……非効率極まりない仕事でした。……アイリス、主の腕を触るなと言っているでしょう。消去しますよ』

『ルミナももう限界なのー! 足がぷるぷるして一歩も動けないのに、これからアイツの装備になるなんて最悪なの! 主様のバカ!』

 ノクスの冷淡な声と、半泣きで主に当たり散らすルミナ。

 しかし、アルクは「最後の仕上げ」を完遂しなければならない。彼は指先をそっと弾いた。見えない糸が、勇者の剣に超高負荷をかける。

 パキンッ!!

「あ……愛剣が……!? 今の奥義の威力に、耐えられなかったのか……!?」

 呆然とする勇者に、アルクは威厳に満ちた表情で歩み寄る。

「……其方の魂の輝きが、既にその剣の器を超えていたのだ。これを使え。我が家系に伝わりし、真の聖遺物である」

 差し出されたのは、剣と盾に擬態したルミナとノクス。勇者は涙を拭い、その「全自動接待セット」を恭しく手に取った。

「アルク……。君の厚意。俺は生涯忘れないよ!」

(……よし。眷属の不満は後で魔力で宥めるとして、問題はこのヒャッハー軍団だ。どう見ても正義の軍勢には見えないんだよなぁ……)

 背景では、拠点ボスを倒してもなお「次の肉を連れてこォォォ!」と暴れ回る騎士たちが勝鬨を上げている。

 アルクは胃痛の深淵へとまた一歩、足を踏み出すのだった

勇者のアドリブにキレ散らかす冷徹なノクス。

アイリスを「変態魔族」と切り捨てつつ、淡々と仕事をこなすその姿はまさに最強の裏方……。

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