第42話 偽りの奇跡と、誕生せし五千の狂戦士
魔王城へと続く『断罪の回廊』の前に、5万もの魔王軍が強固な防衛拠点を築いていることを知ったアルクたち。人間側の軍勢はわずか5千。10倍の戦力差を前に、アルクは勇者を「生き神様」にするための、とんでもない裏工作を実行に移す。
魔王城へと続く『断罪の回廊』の手前に広がる荒野。
そこでは今まさに、進軍を阻むように陣を構える『5万』の魔王軍と、それに真っ向から対峙する『5千』の人間軍が、開戦の時を迎えようと睨み合っていた。
「敵の数は5万か……。だが、数は関係ない! 正義は我らにあり! 全軍突撃だ!!」
勇者は一点の曇りもない爽やかな笑顔で、天高く剣を掲げた。
その清々しいほどの猪突猛進っぷりに、アルクは内心で深く頷く。
(……相変わらずの熱血バカっぷりだな。軍略もクソもなく真正面から突っ込んだら、普通は5千の兵がすり潰されて終わる。だが……それでいい! お前は余計なことを考えず、前だけを向いて最高に輝く『勇者』を演じていればいいんだよ!)
アルクはコホンと一つ咳払いをして、歴戦の英雄のような重厚な態度で勇者に歩み寄った。
「選ばれし勇者よ。其方が身に纏うその伝説の防具に、大いなる『軍勢強化の秘儀』が眠っていることを知るか?」
「えっ!? 俺の防具にそんな凄い力が!?」
「左様。天高く右腕を掲げ、天上なる星々の光をその手に集めよ。そして『我、光の導き手なり!』と高らかに宣りながら、大地に己が拳を打ち据えるのだ。さすれば、奇跡は顕現しよう」
中二病全開の指示を出しながら、アルクは勇者が目を閉じた瞬間に、眷属たちへ「現場監督」としての指示を飛ばす。
「……星辰の巡りは満ちた。ノクス、理を書き換えよ。ルミナ、命の灯火を編み込め。……アイリス。其方の瞳で魂を繋げ。勇者の『一撃』に全てを合わせろ。一分の狂いも許さぬぞ」
土煙が上がり、魔王軍5万が怒涛の地鳴りを立てて押し寄せてくる中、勇者がカッと目を見開いた。
「うおおおおっ! 我、光の導き手なり!! 大地に眠る光よ、我らに力を!!」
勇者が渾身の力で右拳を地面に叩きつける。
ドンッ!!という轟音と共に、黄金の光が津波のように広がり、5千人の軍勢を包み込んだ。
その瞬間、勇者一行のクールな魔術師は、持っていた杖を地面に落とし、震える声で独白した。
「……ありえない。魔法式の構築速度が……観測不能。5千人同時、それも魂の深層に直接リンクを構築するなんて、人類が知りうる魔法体系の限界を、数世代分は飛び越えているわ……」
彼女の冷徹な瞳には、驚愕と、底知れぬ恐怖が混じり合っていた。
「あれはもう『魔術』じゃない……ただの権能、神の領域よ。……勇者。あなたは一体、どこまで遠くへ行ってしまったの……?」
彼女が絶望的なまでの実力差に震える中、黄金の光を浴びた王国の精鋭騎士団5千人に、劇的な『変化』が訪れた。
飛んできた魔王軍の矢が脳天に突き刺さっても、一瞬で傷が塞がり、痛みすら消える。
「……お? ……おおおおっ!? なんだこれ!? 全く痛くねぇ! 傷が一瞬で治るぞ!!」
「勇者様の加護だ! 俺たちは絶対に死なない神の軍隊になったんだ!!」
死への恐怖というストッパーが完全に破壊された騎士たちは、白目を剥き、よだれを垂らしながら、世紀末の野盗のような雄叫びを上げた。
「ヒャッハァァァァァァッ!! 勇者様万歳!! 魔族どもを根絶やしにしろォォォ!!」
「肉だ肉! 魔族の肉をミンチにして勇者様に捧げるぜェェェ!!」
「痛くねぇ! 全然痛くねぇぞヒャッハァ!!」
死を忘れて「ヒャッハー!」と突っ込んでくる5千の狂戦士に、圧倒的な数で蹂躙するはずだった5万の魔王軍はドン引きし、戦線は文字通り崩壊した。
(絵面が完全に邪悪な陣営のそれなんだけど!?)
アルクが頭を抱える中、勇者の目には「勇敢に戦う立派な兵士」にしか見えていない。
「みんなの道は俺が切り開く! いくぞ!!」
地獄のカオス空間を置き去りにし、勇者は勢いそのまま、拠点ボスが待つ本陣へと単騎で突進していくのだった。
勇者に箔をつけるための「中二病儀式」と、裏方の必死な「チート同期作業」。
その結果、精鋭騎士団は死を恐れぬ狂戦士へと変貌しました。逃げ惑う魔王軍を尻目に、一切の疑問を持たず突撃する勇者。未曾有のカオスの中、拠点ボスとの戦いが始まります!




