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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第41話 断罪の回廊と、狂愛の提案

勇者一行と5千の精鋭騎士団という、超大規模な「接待対象」を抱え込んでしまったアルク。これ以上のイレギュラーを防ぐため、彼はこっそりと魔王城への進軍ルートの事前偵察へと向かっていた。

勇者たちが王都近郊で進軍の最終準備を進めている最中。

 アルクはアイリスと眷属たちを連れ、密かに魔王城へと続くルート『断罪の回廊』へと先回りしていた。

 道中、モンスター一匹すら出くわすことはなく、何の危険もない道をただ歩いてきただけで、あっさりと目的地に到着する。

「……これが、回廊の入り口か」

 巨大な洞窟を抜けた先。そこには、禍々しくも荘厳な、絶対に開かないであろう巨大な扉が鎮座していた。

 アルクがそっと扉の細工に触れて魔力を流し込むと、システムの構造が脳内に流れ込んでくる。

(なるほど、勇者が既に身につけている『伝説の防具(胸当て・鎧・兜)』の固有魔力と共鳴して開くロック機構か! 特定の装備が『鍵』になるギミック……くぅ〜っ、王道RPGの激アツ展開じゃん!)

 一人のゲーマーとして感動に打ち震えるアルクだったが、すぐに冷静さを取り戻す。重要なのは、この扉の『先』に何があるかだ。

 アルクは扉の奥の安全を確認するため、アイリスと互いの『神の瞳』をリンクさせ、圧倒的な透視と魔力探知能力で分厚い扉の奥を隅々までスキャンしようとした。

「あぁんっ……! アルク様の深く、濃密な魔力が……私の、奥深くまで……っ♡」

 しかしリンクした瞬間、アイリスはアルクから流れ込む竜王級の魔力の奔流に当てられ、頬を真っ赤に紅潮させて隣でガクガクと嬉しそうに悶絶し始めてしまった。

『……主。使い物にならなくなったデバイス(魔族)の代わりに、私が報告します』

 一人で勝手に限界を迎えているアイリスを冷ややかな目で見下ろしながら、ノクスが無機質な声でスキャン結果を告げる。

『扉の内部にモンスターの気配はゼロ。ただ一つ、勇者の防具と同じ紋章が刻まれた『女神像』だけが中央に配置されています』

(……女神像だけ、だと?)

 その配置を聞いた瞬間、アルクの脳内で過去のゲーム知識がフル回転し、最悪の警鐘を鳴らした。

(待て待て待て。道中にザコ敵が一切いなくて、入り口の扉の先には女神像だけ。このパターンのイベント、俺は死ぬほど知ってるぞ。

 パターンA:女神像の前で精神世界に飛ばされ、対話で真の勇者と認められて伝説の剣を貰える『無害なイベント』。

 パターンB:勇者一人だけが隔離され、突如出現した試練の番人と戦わされる『強制1on1ボス戦』……確率はおよそ2分の1ってところか)

 思考を巡らせたアルクは、滝のような冷や汗を流した。

(もしパターンBだった場合、扉が閉まって俺たちが入れない場所で、勇者単騎で挑ませることになる! 確かにアイツは今や人間最強クラスにまで育ったが……相手は神話レベルの試練だぞ!? 万が一、いや億が一にでも死んでしまったらどうする!! ……ダメだ、アイツを一人で隔離部屋に行かせるなんて心配すぎて絶対に無理だ!!)

 最悪の事態ゲームオーバーを恐れるあまり、すっかり過保護な親と化したアルクは、自身の精神を守るためにあるマッチポンプな『禁じ手』を思いついた。

「……なぁ、お前ら」

 アルクは背後に控えるノクスとルミナを振り返り、極めて悪い、暗黒騎士らしからぬゲスい顔で問いかけた。

「俺の『剣』と『盾』に擬態したまま、他人に装備されてもバレずに動けるか? 最悪の事態に備えておくぞ」

『……はぁ。肯定します。対象の魔力波長への同調、自律機動、および「ただの武器」としての完全偽装……要するに隔離部屋での「ボス討伐業務」ですね。全てこちらで処理しておきますので、主は丸投げで結構です』

『またルミナたちのワンオペなの……? はぁ〜、わかったなの。主様がサボるための裏工作、きっちり手伝ってあげるなの……』

 社長アルクから理不尽な業務を全丸投げされた社畜のように、深いため息をつきながら了承する二人の眷属。

 そんな部下たちの頼もしい(?)返答を聞き、アルクはニヤリと口角を上げる。

(……よし、あの手でいくぞ)

 勇者に気づかれず、絶対に死なせずに試練を突破させる。過保護すぎる暗黒騎士の『最悪の接待プラン』が、ここに完成した。

───

 扉のギミックと隔離イベントへの対策を終え、勇者たちと合流するために帰路につくアルクたち。

 しかし、その途中でノクスが無機質な声で警告を発した。

『主。回廊に至る絶対の経路上に、魔王軍の強固な防衛拠点が構築されています。敵兵力――約5万』

「は!?」

 アルクは思わず素っ頓狂な声を上げた。

 対する人間側の軍勢は5千。文字通り、10倍の戦力差だ。

(5万!? ふざけんな、こっちは潜入中だから表立って竜王の魔力で無双できないんだぞ! 勇者を守るだけなら俺と眷属でどうにでもなるが、流石に人間側の軍勢5千まで全員無傷で守り切るのは不可能だ!)

 いっそ竜王としての規格外の魔力を全解放して、軍が到着する前に拠点を更地にしてしまおうか。

 だが、そんな天災レベルの破壊痕を残せば、魔王側にも人間側にも確実に異常事態として察知され、アルクの潜入任務(平穏な老後計画)が完全に破綻してしまう。

(……いや、待てよ? 逆に考えるんだ。もしここで……『勇者と5千の兵で、5万の魔王軍を無傷で打ち破る』なんて奇跡の大勝を成し遂げたらどうなる?)

 アルクの脳内コンピューターが、別の計算を弾き出す。

(そんな神話みたいな偉業を達成すれば、勇者は人間たちから完全に『生き神様』として祭り上げられる! 権力も名声もカンストして、俺が裏でコソコソしなくても世界が勝手に勇者をトップに据える最高の状況エンディングが完成するじゃないか!!)

 絶対に無傷で勝たせたい。だが、手段がない。

 アルクが頭を抱えていると、ノクスの解析が一条の光をもたらした。

『報告。勇者の伝説の防具には、周囲の味方を強化するバフ魔法の術式がリンクしています。しかし、勇者の現在の魔力出力では、効果範囲が半径数メートルに留まります』

(惜しい! システムは最高なのに、出力が足りない!!)

 アルクが絶望しかけたその時、隣を歩いていたアイリスが、スッと彼の袖を引いた。

 彼女は甘く、けれど魔王の娘としての底知れぬ冷徹な笑みを浮かべて、とんでもない提案を口にした。

「アルク様。もしノクスが、その防具の術式を『書き換え』られるなら……私の神の瞳を使って、私が5千人全員の魂に直接、そのバフを付与インストールして差し上げますわ」

「……は?」

「ルミナの回復魔法も術式に乗せましょう。そうすれば、人間の軍勢5千人全員を『絶対に死なず、無限に戦い続ける狂戦士』に作り変えることができますの」

 アルクは驚愕で息を呑んだ。

 それは、神の瞳と膨大な魔力を持つ彼女にしか不可能な、世界の理すらねじ曲げる規格外の大規模魔力操作チートだった。そんなことをすれば、5万の軍勢などただの紙切れ同然になる。

「勘違いしないでくださいませ。私は、人間の命や勇者になど微塵も興味はありませんわ」

 アイリスはアルクの胸にすり寄り、愛に蕩けた、重すぎる瞳で彼を見上げてくる。

「ただ……アルク様の悩みが解決したら、私をたくさん褒めて、愛してくださいますわよね……?」

(コイツ……)

 アルクのためなら、5千の軍隊も5万の魔族も、ただの盤上の駒として完璧に操り、狂戦士へと変える。

 そのあまりにも重すぎる愛情と、世界を揺るがす圧倒的な有能さを見せつけられ、アルクは戦慄した。

(これほどの狂気と有能さを突きつけられて、今さら突き放すことなどできるはずもない。俺はもう、この女のいない盤面など想像すらできなくなっている……。彼女はもはや、俺の運命と一蓮托生となる最凶の『共犯者』だ)

 過保護な暗黒騎士と、愛が重すぎる魔王の娘。

 二人の異常なコンビネーションによる、人間界と魔界を巻き込んだ史上最大の「勇者接待チートプレイ」の幕が、今切って落とされようとしていた。

オタク特有の「万が一を恐れる過保護」を発動したアルクは、勇者の強制イベントに向けてゲスいリスクヘッジを完了させます。

そして立ちはだかる5万の魔王軍。勇者を「生き神様」に祭り上げるため無傷での勝利を目論むアルクでしたが、それを可能にしたのはアイリスの「主様に褒められたい」という重すぎる愛が引き起こした、軍勢5千人の狂戦士化チートバフでした。

いよいよ始まる5万vs5千の激突。絶対に死なない軍隊と全自動接待兵器を前に、魔王軍の運命やいかに!?

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