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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第37話 竜王の影

激闘の末、真のボスを(眷属たちの完全介護で)打ち倒した勇者一行。戦利品として安置されていた「伝説の兜」を手に入れた勇者が歓喜に沸く中、アルクの身には「黒竜」を超える上位概念への予兆が訪れようとしていた。

消滅したボスの残滓が舞う谷の最深部で、勇者は自らの剣を握りしめ、かつてない達成感に震えていた。人間基準で見れば間違いなく大陸最強クラスの域に達した彼の攻撃は、彼自身の目には「神がかった奥義」として映っている。

 だが、その勇者の足元の影からは、力尽きた眷属の消え入るような声が響いた。

「ルミナもう……指一本動かせないなの……。おやすみなのー……」

 影の中に沈み、完全に気配を絶ったルミナ。

 アルクが内心で感謝の涙を流していると、勇者が谷の奥に鎮座していた石造りの台座へと駆け寄った。

「見てくれアルク! これが……古の伝承に語り継がれる伝説の『聖兜』だ!」

 台座に置かれていた純白の兜を勇者が被った瞬間、聖なる魔力が彼の全身を包み込み、人間としての限界値をさらに引き上げた。

「凄い……力が溢れてくる! アルク、これでお前の背中にまた一歩近づけた気がするよ!」

(ああ、間違いなくお前は強いよ。人間としてはな。……ん?)

 アルクは勇者に向けた鷹揚な頷きの裏で、自身の体内に生じた強烈な違和感に気づいた。

 勇者が伝説の兜を手に入れたことが「鍵」となったのか。あるいは、アイリスと繋いだ魔力パスの残滓か。アルクの体内で、これまで「黒竜」という枠に収まっていた魔力が、猛烈な勢いで沸騰し始めていたのだ。

『……警告。主、至急ご報告します』

 スリープモードに入る直前だったノクスから、かつてないほど切羽詰まった念話が飛んできた。

『条件達成を確認しました。勇者の聖なる魔力との共鳴をトリガーとし、貴方の魔力容器に致命的な変質が発生しています。――上位概念【竜王】への進化プロセスが強制始動しました』

(学習しろよ俺ぇぇ!!)

 アルクは薄れゆく意識の中で、以前にも勇者の前で不意の気絶を経験したことを、自虐的に思い出していた。あの時も、アイツの真っ直ぐで心配そうな顔を、呆然と眺める羽目になったっけ。

(なんで俺は……こうも重要な局面で、勇者の前で気絶する癖があるんだ! またあの気まずい時間を繰り返すのか!? 学習しろよ俺……! しかも、またしても進化の予兆これかよ! バレたらアイツを心配させるどころか、俺の正体が魔族側だとバレちまう……! 勇者と共に魔王を倒す、その時までは絶対に!!)

 脳裏を掠める「またか」という諦めと、強い決意。だが、現実は非情にも、背後からヌルリと這い出し始めた『黒い巨大な竜の影』の実体化という、深刻な状況でアルクを押しつぶそうとする。

 完全体ではない、中間形態としての歪な影。それが完全に顕現すれば、勇者に正体がバレるどころか、谷ごと消し飛んでしまう。

『現在、肉体の再構成と魔力の肥大化が進行中。……主の意識では抑えきれません。このままでは数秒後にブラックアウト(気絶)します』

(気絶!? おいノクス、なんとかお前の影で抑え込んで……!)

『……申し訳ありません、主。私の魔力は既にゼロ……これより強制スリープに……どうか、すみやかに避難を……っ』

 忠臣からの必死の注意喚起を最後に、ノクスの気配が完全に途絶えた。

 (ダメだ、意識が持たない……! このままだと影が暴走する!)

「アルク……? お前の背後から、凄まじい闘気が……竜の形に……!?」

 勇者が背後の影に気づきかけたその瞬間、アルクは限界ギリギリの意識を振り絞り、隣にいたアイリスに威厳を保った小声で命じた。

「……アイリス、事態は急を要する! 貴様の転移魔法で、直ちに余と共にこの場から跳べ!」

「えっ? ア、アルク様……? で、ですが私の転移魔法は『一人専用』ですわよ……? あっ、そうだわ! お父様から過保護に持たされていた、お城への直通アイテムが……はいっ!」

(魔王城直通!? いや待て、俺は一度城へ挨拶に行ったきりで、今は『勇者側の身内』として動いてるんだぞ! もし今、魔王様が在宅だったら一体どんな顔して言い訳すればいいんだ!?)

 受け取れば助かる。だが、その先には最悪の義父(魔王)との気まずすぎる対面が待っているかもしれない。アルクの脳内で絶望的なシミュレーションが駆け巡る。

(だが、ここで影が暴走して勇者に正体がバレるよりはマシだ……! ええい、クソッ! もうなるようになれ!!)

 アルクはアイリスから慌てて手渡された黒い結晶――魔王城直通の『転移の石』を震える手で受け取り、彼女の腕を強引に掴んだ。

「……勇者よ! 余は一足先に、この転移石にて次のエリアの空間座標を偵察してくる! 貴様はそこで兜の力に馴染んでおけ!」

 アルクが石を握り潰した瞬間、黒い光が彼ら二人を包み込んだ。

 視界が反転し、行き着いた先は、静寂に包まれた魔王城の玉座の間。運が良いのか悪いのか、過保護な魔王は偶然にも不在であった。

 石畳の上に転がり出た瞬間、アルクの意識は限界を迎え、プツリと暗転した。

 倒れ伏したアルクの肉体は、彼自身も想定していなかった『未知の領域』への変質を深めていた。それは、王に至るために避けては通れない、深き眠りを伴う強制進化。

「……あら? アルク様?」

 転移の衝撃から立ち上がったアイリスは、ピクリとも動かなくなったアルクを見下ろした。

 そして、周囲に魔王の気配すら一切ないことを悟ると、彼女の表情から「怯える迷子」の演技がスッと抜け落ちる。代わりに、獲物を見つけた肉食獣のような、妖しくも甘い微笑みが浮かび上がった。

「うふふ……お父様も偶然ご不在。誠に幸運ですわ。そしてアルク様は完全に気を失っていらっしゃいますわね。それに、この溢れ出す濃厚な魔力……たまりませんわ」

 城の主である魔王は不在。護衛の眷属たちは過労でスリープ中。そして、完全に無防備な状態で深い眠りに落ちたアルク。

「……玉座の冷たい床ではお風邪を引いてしまいますわ。ええ、私が責任を持って……私の『寝室のベッド』で、隅々まで看病して差し上げませんと……♡」

 アイリスは頬を紅潮させ、蕩けた熱い吐息を漏らしながら、気絶したアルクの身体を軽々と抱き起こす。

 オタクの胃痛と過労の果てに、アルクは最も警戒すべき「変態な魔王の娘の寝室」という名の甘い牢獄へと、文字通りお持ち帰りされてしまうのだった。

ついに始まった竜王への進化プロセス。巨大な影の暴走と気絶をノクスから警告されたアルクは、アイリスから受け取った『転移の石』で魔王城へと緊急避難します。勇者側の身内として動いている今、魔王と鉢合わせたらどう言い訳しようかとビビりつつも「なるようになれ!」とヤケクソで転移を敢行しました。

運悪く(アイリスにとっては幸運にも)魔王は不在。アイリスの独壇場となった魔王城で、アルクの貞操は守られるのでしょうか……!?

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