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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第35話 嘆きの谷とフル再現

アイリスの暴走によって「経験値ゼロの死体置き場」と化した嘆きの谷。そこへ合流した勇者は、あろうことか前回の戦闘で勘違いした「遅効性奥義」の特訓に燃えていた。この谷の「真のボス」に挑むための経験値を稼がせるため、アルクと眷属たちによる前代未聞の「手動エフェクト付きダンジョン完全再現(接待プレイ)」が幕を開ける!

「喰らえ! 僕の魂の刃! 『ホーリー・バースト・スラッシュ(仮)』!! ……よし、遅効性の発動タイミングを完璧に掴むぞ!」

 嘆きの谷の入り口。

 合流したばかりの勇者は、前回の戦闘で偶然(という名の眷属の八つ当たりで)発現した『時間差で敵を完全消滅させる遅効性奥義』を、目を輝かせながら何度も素振りしていた。

 その無駄に元気な姿を足元の影から見つめながら、ノクスとルミナは深く、深く絶望的なため息を吐いた。

「……主。あれはまさか、道中に存在するすべての敵対生物に対して、あの『遅効性奥義』を放つつもりですか。つまり我々は、敵の幻影を作り出した上で、勇者の攻撃から数秒遅れて『時間差の消滅エフェクト』を手動で完全再現し続けなければならないと……?」

「主様のブラック企業なのー! ルミナたち、ボスに着く前に過労死が確定したなのー!」

(お前ら察しが良すぎるだろ! ごめん! 本当にごめん! でもあいつめっちゃやる気になっちゃってるから! 勇者のテンションと経験値を下げないための超重要ミッションなんだよ!)

 アルクは内心で土下座しながら、黒竜としての鋭い双眸を細めて広大な谷底を見下ろした。

 勇者がその奥義の腕試しをするはずだった精鋭たちは、すでにアイリスの『影の死神』によって綺麗に刈り取られ、谷は完全な更地(死体置き場)と化している。

「……凄まじい静寂だ。魔物の気配が一切しない。気をつけろアルク、奴ら……完全に息を潜めて俺たちを待ち構えているぞ!」

(違う、全員お前が来る前に死んでるだけだ! 真のボスに辿り着くための獲物はもう一匹も残ってねぇんだよ!)

 緊迫した顔で剣を構える勇者に、アルクは血の涙を流しながらツッコミを入れた。

 すると、隣からわざとらしい、か細い声が聞こえてきた。

「ひぐっ……ああん、アルク様ぁ……なんだか薄暗くて、迷子になっちゃいそうですぅ……」

(お前らのせいで障害物が一つもない更地だろうが! 視界良好なこの谷でどうやったら迷子になれるんだよ!)

「私、怖くて足がすくんで……っ。手、手を繋いで導いてくださらないと、不安で倒れてしまいそうですわ……っ♡」

 アイリスは恐怖で震える『か弱い迷子』を完璧に演じながら、アルクの右手に自分の手をねっとりと絡ませてきた。頬を赤く染め、口元が歓喜でだらしなく緩んでいるのが丸わかりだ。

(絶対わざとだろ! 俺が勇者の前で『お前は迷子の村の子供として振る舞え』って命令した設定を、完全に悪用してハァハァ言ってやがる! ……でも、ここで突き放したら『親切に保護してやってる暗黒騎士』のキャラがブレるし、機嫌損ねたらまたアイツ(ノワール)が飛び出してきて今度こそダンジョンが終わる……っ!)

 アルクはオタク特有の諦めモードに入り、冷や汗を流しながらアイリスと恋人繋ぎをする羽目になった。

「……離れるなよ」

「はいっ……♡ 旦那様の大きな手、あったかくて……私、もうどこへも行きませんわ……っ♡♡」

(ああもう、コイツは手繋いだだけで満足してハァハァ言ってるから放っておこう。問題は勇者のレベリングだ。ノクス、ルミナ! 頼む、接待してやってくれ!)

 かくして、アルクの必死の懇願により、眷属たちによる涙ぐましい『ダンジョン・シミュレーター(手動遅効性エフェクト付き)』が稼働した。

「出たな魔物め! 喰らえ! 『ホーリー・バースト・スラッシュ(仮)』!!」

 勇者が剣を振り下ろすと、ノクスが精密に操作する『影のオーク(幻影)』が絶妙なタイミングで武器を落として隙を晒す。剣が通過しても、オークの幻影はまだ倒れない。

「……ふっ。僕の刃は、すでに貴様の命を断っている」

 勇者が剣を鞘に納め、キメ顔で背を向けた、きっちり3秒後。

 ノクスが影の魔力を一気に解放し、対象を内側から食い破るような『漆黒の闇の奔流』を吹き出させた。同時にルミナが全力のドロップキックを叩き込み、オークの幻影を物理的に粉砕する。

「……ドカーン、なの。あーあ、めんどくさいなの……」

「……遅延発動型の消滅エフェクト、および対象の撃破判定を確認。主、勇者はあの漆黒の闇を『聖なる力が収束した結果の暗黒物質』と脳内補完した模様です。……ポジティブすぎて吐き気がします」

(完璧だ! ノクスの精密な闇の制御と、ルミナの体当たりによるフル再現! これで勇者も道中の敵を倒した気になって、モチベーションも経験値も爆上がりだ!)

 アルクが威厳ある表情の裏でガッツポーズを決めている横で、アイリスはアルクの腕に胸を押し当て、熱い吐息を漏らし続けている。

「はぁっ……アルク様とのお散歩、最高ですわ……♡ 勇者様が一人で素振りして遊んでくれているおかげで、完全に二人きりのデートですわね……っ」

(素振りじゃねぇよ! 俺の眷属が裏で血の滲むような遅効性エフェクトの手動再現してくれてんだよ!)

 そんな奇妙な一行が谷の最深部に到達した時――空間が突如として歪み、次元の狭間から凄まじい威圧感が溢れ出した。

『ギシィィィィィィッ!!』

 現れたのは、この谷の真のボス、巨大な禍々しい姿をした『次元潜りの凶蜘蛛ハイド・タランチュラ』。

 しかしその巨大な足の関節には、アルクが事前の『神の瞳』リンク中に施した『見えない糸によるアーマーブレイク』の亀裂が、確実に刻み込まれていた。

「……出たな、この谷の主! ちょうどいい、道中の雑魚で温まっていたところだ!」

 完璧な接待プレイで自信と経験値を満たした勇者が、熱く燃え上がる瞳で剣を構える。

(よし! ヘイト管理もレベル調整も完璧だ! 行け勇者、俺が徹夜で組んだ攻略チャートの集大成を見せてくれ!)

 アルクはアイリスに手を握られながら、低く響く威厳ある声で勇者の背中を押した。

「行け、勇者。貴様の刃で、あの巨躯を地に伏せさせてみせろ」

焼け野原となった谷を誤魔化すため、ノクスとルミナをこき使って「ダンジョンのフル再現(手動遅効性エフェクト付き)」を決行したアルク。漆黒の闇の奔流を聖なる力と勘違いする勇者に、眷属たちが過労死寸前になりつつも、一行はついに真のボスの元へとたどり着きました。

事前に入れた見えない糸でのアーマーブレイクと、接待で温まった勇者の勘違い必殺技。いよいよ激突の時です!

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