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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第33話 嘆きの谷の接待ステージと、経験値泥棒

魔王軍の精鋭がひしめく『嘆きの谷』。そこは勇者が伝説の兜を得るための最難関ダンジョンとなるはずだった。しかし、先回りしたアルクたちによる、勇者のための「過剰な接待ステージ作り(レベル調整)」が幕を開ける。

切り立った崖に囲まれた『嘆きの谷』。

 岩陰から見下ろすと、谷底には魔王軍の精鋭たちが隙間なく布陣していた。凶悪な魔獣、重装甲のオーク兵、そして谷の中腹には中ボスである巨大なゴーレムが鎮座している。

(素晴らしい……。敵の配置、難易度カーブ、どれを取ってもRPGの中盤ダンジョンとして完璧だ。だが、今の勇者のレベルじゃあゴーレム戦で確実に全滅する。だから俺が、絶妙な『難易度調整』をしてやる!)

 アルクは漆黒の鎧を纏った暗黒騎士の姿で、崖の上から静かに顎をしゃくった。

「ノクス。遊撃部隊の索敵能力を奪え。重装歩兵は装甲の継ぎ目のみを破壊し、ゴーレムの左足の駆動系を削れ。……すべて『殺さず』にな」

「……任務を受諾しました。対象の生命活動を維持したまま、戦闘能力のみを規定値まで低下させます。直ちに実行に移ります」

 ノクスが影となって谷底へ滑り落ちる。

 それを見たルミナが、ぴょんぴょんと飛び跳ねてアルクの袖を引っ張った。

「ルミナもやるなの! ……でも、ルミナがやったら全部ぶっ壊しちゃうから、今日は主様の横で応援係なのー!」

 やる気だけはあるものの出番のないルミナは、暇そうにアルクの足元にちょこんと座り込んだ。

 直後、ノクスの手によってオーク兵たちの鎧の留め具だけが音もなく斬り飛ばされ、遊撃部隊の魔獣たちは気絶し、ゴーレムは左足の関節を破壊されて片膝をついた。

(おおおっ! 完璧だ! これなら勇者でも『うおおお! 装甲の隙間を狙うぜ!』とか『ゴーレムの死角に回り込め!』って熱い展開で勝てる! まさに神調整!)

 アルクは心の中でガッツポーズを決め、谷の最深部へと意識を向けた。

(よし、道中の調整は終わった。あとは一番奥にいるはずの、伝説の兜を守る『真のボス』を適度に弱らせて――ん?)

「……報告。谷の最奥、および周辺の空間を走査しましたが、『主』の生体反応を検知できません。高度な隠蔽魔法、もしくは特殊な亜空間に潜伏している模様です」

 ノクスの言葉に、アルクは兜の奥で冷や汗をかいた。

(マジか。俺とノクスの『空間把握』をフル稼働させても見つからないのかよ! ボスがどこから湧いてくるか分からなきゃ、勇者が不意打ちの初見殺しを食らってゲームオーバーになっちまうぞ……!)

 アルクが内心で焦っていると、隣で熱っぽい吐息が聞こえた。

「ああ、アルク様……! 隠れたネズミ探しなど、旦那様が煩わされることではありませんわ。まずは邪魔な雑兵を私が片付けて差し上げます!」

「……ふん。貴様の出る幕はない」

「いいえ! お父様から新たに預かったあの子のお披露目には絶好の機会ですわ! 行きなさい、ノワール! 旦那様に愛の力を見せつけるのです!!」

 途端、アイリスの足元の影がドロリと底なしの沼のように広がり、そこから這い出るように一体の異形が姿を現した。

 光を一切反射しない漆黒の体躯。大柄な戦士すら一息で両断できそうな、巨大で禍々しい鎌のような両腕。血のように赤い双眸だけを妖しく光らせた『影の死神シャドウ・リーパー』は、アイリスの指示を受けるや否や、音もなく谷底へと滑空した。

(……ま、待って。)

 その禍々しい後ろ姿を見送った瞬間、アルクの背筋を滝のような冷や汗が伝った。

(今こいつ、アイリスの『影』から出てきたよね? ってことは……あの洞穴での24時間密着添い寝イベント中ずっと、この両腕ギロチン鎌のバケモノが俺のすぐ真下に潜んでたってこと!? ヒィィ……! もし俺の寝相が悪くてアイリスの機嫌をちょっとでも損ねてたら、寝首どころか胴体ごと真っ二つにされてたじゃん……! 完全な即死トラップの上で寝かされてたのかよ俺……!!)

 直後、無音の惨劇が始まった。

 アルクの目の前で、絶妙に装甲を剥がして「あとは勇者が殴るだけ」にしていたオーク兵たちが、巨大な鎌によって鎧ごと胴体を両断されていく。

 気絶させておいた魔獣の首が宙を舞い、あろうことか中ボスのゴーレムすら、死神の乱舞によって綺麗なサイコロ状に細切れにされた。

(ああああああああ!? 俺のミリ残し神調整がぁぁ!! やめてぇぇ真っ二つにすんなァァ!! それ勇者が美味しい経験値もらって適正レベルに到達するための必須イベントだろうが!! ゲームバランス崩壊するわ!! このフラグクラッシャー! チート級の経験値泥棒ぉぉぉ!!)

「ふふっ♡ アルク様、見てください! ノワールが敵の防衛線を完全に刈り取りましたわ! これで谷は私たちの愛の巣に……」

(更地にしてどうすんだよ!! ダンジョンじゃなくてただの死体置き場じゃねーか! ゴーレムの核まで綺麗にスライスされてるし! これじゃ勇者が『俺、何もしてないのにクリアしちゃった……』って虚無感抱えるクソゲーになっちまうだろ!! 俺の緻密なレベリング計画を返せぇぇぇ!!)

 心の中ではRPGオタクとしてのこだわりが粉々に砕け散り、血の涙を流して発狂するアルク。しかし、アイリスや眷属の前でそんなヘタレた本音を見せるわけにはいかない。

 アルクは震える拳を握り締め、底冷えするような声でアイリスを睨みつけた。

「……愚直な真似を。誰が殺せと命じた?」

「えっ……?」

 アルクはマントを翻し、血の海と化した谷底を見下ろす。

「余が直々にいたぶり、絶望を与えるはずだった『玩具』を……貴様の死神は、塵に変えたな。余の楽しみを奪うとは、良い度胸だ」

「あっ……!」

 冷徹な威圧感を向けられ、アイリスの顔が恐怖ではなく歓喜で真っ赤に染まっていく。

「あああ……! ご、ごめんなさいアルク様! 私としたことが、旦那様の『獲物』を奪ってしまうなんて……! もっと、もっと私を冷たい声で蔑んでくださいませ……っ♡♡」

(違うそうじゃない!! ドSのふりをしてキレたのに、なんでこいつはご褒美もらってるみたいな顔してんだよ!!)

 アルクが心の中で頭を抱えていると、谷底から帰還したノクスと、足元のルミナが冷ややかな視線をアイリスに向けた。

「……対象の思考回路に深刻な異常を検知。理解不能な嗜虐・被虐思考です。視界に入れるだけで不快指数が跳ね上がります」

「ベタベタ魔女、顔が赤くて気持ち悪いなの! 主様に変な声を出さないでほしいなのー!」

「……うるさいですわね。これも深い夫婦の愛の形ですわ♡」

 冷酷なAI的ツッコミと、容赦ない子供のド直球なツッコミを涼しい顔でスルーし、アイリスはねっとりとした気配と共にアルクの背中へとすり寄ってきた。

「うふふ……アルク様。雑魚は片付きましたが、見つからないボスがいるご様子。それを、私の『力』で見つけ出して差し上げましょうか……?」

完璧なHP調整による「接待ステージ」を構築していたアルクでしたが、アイリスの影の死神【ノワール】の乱入により、谷は経験値ゼロの死体置き場と化してしまいました。

フラグをへし折られ心の中で発狂するアルクと、変態化するアイリスにドン引きする眷属たち。そして、姿の見えない真のボスを探るため、アイリスのいかがわしい提案が幕を開けます!

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