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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第29話 戦場のティータイムと、不動の推し事(おしごと)

魔王軍の急襲。絶望に包まれる村。

しかし漆黒の結界内だけは、アルクとアイリスの「命がけの初デート」会場と化していました。

突如として村を包み込んだのは、不気味なほどに静かな闇――魔王軍が放った『沈黙の霧』だった。

「な、なんだ!? 前が見えないぞ!」

 勇者の叫びが霧に吸い込まれる。その混乱の中、アルクの周囲に漆黒の光柱が立ち上がり、強固な【絶対隔離結界】が展開された。

(な、なになに!? 結界!? また俺だけ隔離されるの!?)

 アルクがパニックになりながら、隣にいたアイリスに目を向ける。てっきり彼女も霧の向こうへ消えたかと思いきや、アイリスは頬を真っ赤に染めてその場に立ち尽くしていた。

「……あ、アルク様。これって……敵地の中、結界に閉じ込められて、二人きり……。これって、いわゆる『密室デート』というやつですのね……っ! はぁ、はぁ……っ!」

「――その通りでございます。どうぞ、お楽しみください」

 高低のない、性別不詳の声。

 結界の中に現れた鬼の執行官が、流れるような所作で豪華なテーブルセットを用意する。アルクが何か干渉しようと指を動かすたび、その執行官は無言で圧をかけ、すべての行動を先回りして遮断した。

(う、動けない……! 完全に封じられた……! 怖い、この執行官さん、マジで怖すぎる……!!)

 アルクが内心でガクガクと震え上がっている間に、カップには禍々しいほどに濃い紫色のハーブティーが注がれていく。

「さあ、アルク様。アイリス様。……一滴たりとも、残してはなりませんよ?」

 有無を言わさぬ無機質な圧。

(ひ、ひぃぃ……! 飲むしかない、飲むしかないんだ……!!)

 アルクは内側で涙目になりながらも、外面だけは完璧な暗黒騎士として、傲岸不遜にカップを手に取った。

「……ふん。余を退屈させぬための趣向か。苦しゅうない、その相伴に預かろう」

「ああぁ……っ! 旦那様と……旦那様と同じお茶を……。事実上の『回し飲み』ですわ……っ! 素晴らしい……戦場での初デート、これ以上の刺激があるかしら……っ! はぁ、はぁ……っ!!」

 アイリスの荒い吐息と、鬼の無言の圧。その地獄のような空間を、結界の外で戦う勇者は「最悪の拷問」と誤認していた。

「……あ、アルク……アイリス……っ! あんな禍々しい結界に閉じ込められ、精神を汚染する毒を無理やり飲まされているなんて……! 待っていろ、今すぐその呪縛から救い出してやる!!」

(いや違うんだ、勇者ぁ! アイリスは別の意味でヤバいけど、これただの高級茶なんだ! それよりお前、背後から巨大な鉄球が来てるぞ! 避けて! 死ぬ! 本当に死んじゃうから!)

 結界のせいで声も届かない。勇者のあまりの危うさに、アルクの胃がキリキリと悲鳴を上げる。

(……こ、怖くてこの結界を破る勇気もないし……あいつらに頼むしかない! ノクス、ルミナ! 聞こえるか!? 俺の代わりに勇者を助けてやってくれぇ……!)

 アルクの影から、二つの神々しいシルエットが結界をすり抜けて滑り出した。以前に覚醒を済ませている、アルクの自慢の眷属たちだ。

 夜の闇を纏うゴシックドレスの麗人、ノクス。

 陽光を散りばめた聖なる法衣の乙女、ルミナ。

(……あ、あああああ!! 何度見ても神デザイン……っ! ノクスのあの『クール系黒髪ロング・網タイツ添え』、属性が盛られすぎてて尊死する! ルミナもなんだ、その『あざと可愛い絶対領域』は! 世界よ、神絵師よ、ありがとう……!!)

 結界の中でアイリスの「はぁはぁ」を聞き流しながら、アルクの中の「元オタク」が、心のなかで限界突破したペンライトを振り回して絶叫する。

(……行けぇぇ! 俺の推したちよ!! 全力でバックアップを開始してくれぇぇ!!)

 二人は即座に『不可視化』を展開し、勇者の元へと駆ける。

 戦場を舞うノクスの糸が、勇者の手足を操り人形のように引き、最適な剣筋へと導く。ルミナの光が、勇者の傷を瞬時に癒やし、出力を強制的に引き出す。

「お、おおおお!? 力が……力が溢れてくるぞ! 見ろ、僕の剣が、敵の攻撃を完璧に見切っている!!」

 実際には、勇者はただ振り回されているだけだ。

 ノクスが物理的に敵を弾き飛ばし、ルミナが背後から超弩級のバフを盛りまくっているだけなのだが、勇者の視点では「囚われた二人を想う僕の魂が、奇跡を呼んだんだ!」と完全に勘違いしていた。

「ははは! 鬼の執行官よ、覚悟しろ! 二人を解放してもらうぞ!!」

(よ、よし、いいぞ勇者! そのまま『俺の推したちが頑張ってるおかげの勝利』を、自分の実力だと信じ込んで突き進んでくれ……!)

 アルクは結界の中で、指先の震えを隠しながら二杯目のハーブティーに手を伸ばす。

「……ふむ。茶の味は悪くないが……外が少々喧しいな。執行官よ、もう少し静かにはならぬのか?」

(う、嘘です、調子に乗りました、すみません! 睨まないで!! 隣のアイリスの吐息もすごすぎて、心臓が持たないんだよぉぉぉ!!)

 戦場には、勇者の勝ち誇る叫びと、見えない眷属たちの溜息、そしてアイリスの濃厚な「はぁはぁ」、さらには結界の中でビビり散らかしながらも萌え狂うアルクの心の声が、カオスな三重奏となって響き渡っていた。

勇者は悲劇に燃え、アルクは眷属の神デザインに萌える。

アイリスの吐息と鬼の圧に挟まれた、全方位に噛み合わない接待戦の行方は――。

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