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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第28話 深淵の糸と、泥濘(ぬかるみ)の誓い

アイリスを仲間に加えるための最終調整回です。アルクが手に入れた新たな力『見えない糸』が、意外な方向(主にDIYと変態の助長)で大活躍します。

人跡未踏の隠し拠点。

 アルクは人型の擬態を維持したまま、アイリスを冷徹な眼差しで見下ろした。その指先から放たれるは、新たに定義された精密極まる魔技――『見えない糸』。

「いいかアイリス。勇者の前では、貴様は『どこかの村で迷子になっていた子供』として振る舞え。……これは、余の絶対の命令だ」

(……よし、これなら『道に迷っていた可哀想な村の子を、親切な暗黒騎士(俺)が保護した』ってことで通るはずだ。豪華なドレスなんて作って正体がバレたら目も当てられないからな。この地味で、どこにでもありそうなワンピース……俺の危機管理能力、冴え渡ってるぜ!)

 アルクの精密な糸捌きによって、アイリスの重厚な魔装は「清潔感のある村娘の服」へと作り変えられていく。だが、その糸が微かに体に触れるたび、アイリスは頬を染めて熱い吐息を漏らしていた。

「ああ……旦那様に直接指示を頂き、さらにこの糸で全身を……。ただの迷子……。つまり、旦那様の慈悲を乞い、導かれるだけの無垢な獲物を演じろとおっしゃるのですね……っ! はぁ、はぁ……っ!」

• ノクス:「……主、報告。この個体、もはや修復不可能なレベルで脳内が泥沼化しています。論理的対話は時間の無駄かと」

• ルミナ:「そうなの! 主様に睨まれて『はぁはぁ』するなんて、ルミナでもやらない変態さんなの! 早くどっかに捨ててくるべきなのー!」

 アルクはふざけた空気を一変させ、マジなトーンでアイリスに告げる。威厳あるその声は、拠点の空気を一瞬で凍りつかせた。

「アイリス、貴様に余の本心を明かそう。余は今、勇者側に身を置いている。……そしていずれは、貴様の父である魔王を、この手で討ち果たすつもりだ」

(……まあ、実際にトドメを刺すのは勇者だけどな! 俺は後ろでちょっとサポートして、最後はあいつに全部丸投げしてやるんだ。勇者を最強に育て上げて、俺は悠々自適の隠居生活に入る……これこそが完璧な計画よ)

 威厳に満ちた宣言。だが、アイリスは怯えるどころか、とろけるような笑みを浮かべて返した。

「……ふふ、あぁ。勇者様がお父様を倒されるというのなら、私は喜んで共謀者になりましょう。……ですが、逆でも構わないのですわよ?」

(……逆?)

「もしもお父様が勇者を倒してしまっても、アルク様には絶対に手を出させませんわ。お父様は私のことを一番に愛してくださっているもの。私が『この人は私のもの、手を出さないで』とおねだりすれば、魔王軍だって絶対に逆らえません。……そうなれば、もう戦う必要もありませんわね。アルク様は中立として、この静かな巣で私と一生、愛のまどろみに溺れ、濃密に睦み合い続けるだけですもの……はぁ、はぁっ!」

(……怖すぎる。つまり、勇者が負けたら負けたで、俺はこの執念深い娘に『おねだり』ひとつで一生この『巣』に監禁・飼い殺されるってことか!? どっちに転んでも俺の自由、なくない!?)

(……凄まじいな。もはや善悪とか立場の問題じゃない、愛という名の狂気だ。だがまあ……この執念があれば、俺が勇者側に付いているという本性をパパ(魔王)に売ることもないか……。密告される心配がないのは助かるけど、その代償が重すぎる……!)

 アルクは内心で戦慄しながらも、静かに頷いた。

「……貴様がそれでいいと言うのなら、もう何も言わぬ。……余に、ついてくるがいい」

「はい、旦那様……っ! どこまでも、地獄の果てまで……っ!」

     * * *

 翌朝、勇者たちが滞在する宿屋。

 アルクは傍らに「村の迷子」として、大人しく(演技中の)アイリスを伴い合流した。だが、勇者は新メンバーを祝う余裕など微塵もなかった。

「ぬ、ぬおおおお……っ! 助けてくれアルク! この『伝説の鎧』と『愛用の胸当て』を共に装備したが、もはや一歩も動けん! 鎧同士が噛み合って、俺がプレス機に挟まれてるみたいだ!」

 不格好に着膨れし、甲冑の重みで身動きが取れなくなっている勇者。アルクは無言でその背後に立ち、指先を僅かに動かした。

(……やれやれ。俺の能力をこんなプラモデルのバリ取りみたいな工作に使うのは忍びないけど、勇者が自分の防具に絞め殺されるのは勘弁してほしいからな。将来の魔王討伐係(予定)のために、少しサービスしてやるか)

 刹那。

 放たれた**『見えない糸』**が、干渉し合う余分な部位のみを精密に削り取り、伝説の鎧と既存の胸当てを、一つの工芸品のように完璧に融和させた。

「な、なんだと……!? 鎧が、吸い付くように俺の体と一体化した……! 伝説の武具が俺の魂を認め、究極のフィットを成し遂げたというのか!!」

 歓喜に叫び、身軽に跳ねる勇者。だが、その光景を背後で見ていたアイリスが、またもや熱い吐息を漏らす。

「ああ……旦那様の指先。あんなに細かく、激しく……。あの糸で私も、全身をフィットされるように……はぁ、はぁっ!」

• ノクス:「……主、再度進言。やはり今すぐこの泥棒猫を細切れにするべきです。主の神聖な技術が、汚らわしい視線で汚されています」

• ルミナ:「変態さんが主様の糸をエッチな目で見てるなの! ルミナ、絶対に許さないなのー!!」

(……お前ら、勇者の前で小声の喧嘩を始めるのはやめてくれ! 勘違いが渋滞しすぎて、俺の幻の胃がもうボロボロなんだよ……!)

 アルクは深い溜息を吐きながら、次なる目的地へと目を向けた。勇者を最強に育て上げ、自分は楽隠居するという「完璧な計画」は、この泥沼のような愛の中で果たして達成されるのだろうか。

「村の迷子」という仮面を被り、アイリスがパーティーに加わりました。

勇者の勝利も魔王の勝利も、すべてを「アルクとの愛」に結びつけるアイリスの無敵論理。アルクの『見えない糸』は勇者の防具を整えましたが、同時にアイリスの執着をもより強固に繋ぎ止めてしまったようです。

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