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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第27話 愛の密偵の虚偽報告と、勃発する正妻戦争

勇者一行の迷宮探索から数日後。

魔王軍の本拠地にて、特級魔族である娘アイリスからの定期報告を受ける魔王。

しかし、彼女の報告は魔王の理解を完全に超越していた。

一方その頃、アルクは自身の巣(拠点)で本来の姿に戻り、進化の確認を行っていたが……。

魔王軍の本拠地、漆黒の城の最深部。

 玉座に腰掛ける絶対的支配者・魔王の前に、一人の少女が膝をついていた。最高位の力を持つ『特級魔族』であり、彼の実の娘でもあるアイリスだ。

「――よくぞ戻った、アイリスよ。して、勇者一行……そして、奴らに紛れ込んでいる**『あの竜』**の監視任務はどうなっている? 我が軍の脅威となる動きはあったか?」

 威厳に満ちた声で魔王が問う。アイリスは顔を伏せたまま、密偵らしく淡々と、しかしどこか弾んだ声で報告を始めた。

「はい、お父様。調査の結果、警戒すべき人物が一人おります。しかし、その者は『我が軍にとっては』全くの無害。ただの愚かな鎧の男ですわ」

 魔王は玉座の上で身を乗り出し、怪訝そうに眉をひそめた。

「無害だと? お前に監視させているのは、あの畏るべき**『あの竜』**……鎧を纏ったあの男だぞ。正体を見失ったわけではあるまいな?」

「いいえ! アルク様のことなら完璧に把握しておりますわ!」

「……様?」

「あっ」

 しまった、とアイリスは口を覆う。

 魔王の困惑は深まるばかりだ。

「お前、今、あの男に『様』を付けなかったか? それになんだ、その頬の赤みは。特級魔族たるお前が熱でも出したか」

「き、気のせいですわ! とにかく、アルク様……じゃなくて! あの男は不器用で、でもいざという時は空間を切り裂くほど強大で、私のすべてを優しく受け止めてくれる、とっても素敵で……じゃなくて! 全く脅威ではない石ころなのです!」

「……ええと? 空間を切り裂く絶大な力を持っておきながら、なぜ『全く脅威ではない石ころ』になるのだ? 矛盾していないか?」

 普段は完璧な報告を上げる自慢の娘から「恋する乙女のオーラ」が漏れ出している。魔王は冷や汗をかき始めた。

「脅威ではありません! なぜなら、アルク様は愛の密偵であるこの私の、未来の旦那様なのですから!」

「未来の旦那様!? **『あの竜』**が!?」

(……どういうことだ? 私は奴が脅威かどうかの監視を命じたはずだ。なぜ娘がターゲットに求婚されている(?)のだ!? そもそもあの誇り高き竜が、なぜ娘相手にそんな……! 一体全体、勇者一行の中で何が起きている!?)

 魔王の頭脳をもってしても、この極端に飛躍した恋バナ(虚偽報告)が1ミリも理解できない。

 アイリスは無理やり威厳を取り繕った。

「こほん! ゆえに! アルク様には絶対に手を出さないでくださいませ! 魔王軍が彼を攻撃すれば、私の完璧な監視任務の邪魔になりますゆえ!」

「あ、ああ……(そもそも下手に手を出せば我が軍とて無事では済まんが)そうか。分かった、手出しは無用とする……」

「はい! ではお父様、私は監視対象の元へ戻りますわ! ごきげんよう!」

 アイリスはかつてないほど軽やかなステップ(スキップ)で去っていった。

 残された魔王は一人、頭を抱えてポツリとつぶやいた。

「…………『あの竜』(アルク)って、どんな手練手管でウチの娘を誑かしたんだ?」

     * * *

 一方その頃。

 アルクは一人宿を抜け出し、郊外にある自身の隠し拠点(巣)へと戻っていた。

 ここでは勇者の目を気にする必要はない。アルクは窮屈な人型の擬態(鎧)を解き、本来の姿である巨大なドラゴンへと戻って、大きく翼を広げた。

「(ふぅ、やっぱりこの姿が一番落ち着くぜ……って、あれ? なんか俺の体、一回りデカくなってるし、鱗も真っ黒になってないか!?)」

「……肯定します。第3進化に伴い、主の種族階梯も上昇。ただの竜から、上位種たる『黒竜』へと変異しました。併せて魔力キャパシティも従来の数倍に跳ね上がり、空間を『分断』する見えない線が、ノータイムかつ常時展開可能となっています」

 実体化したノクスが淡々と報告を続ける。

「さらに、空間の制御精度が飛躍的に向上したため、『あそこに行きたい』と少しでも意識しただけで勝手に瞬間移動してしまう現象が消失しました。これにより、暴発を防ぐために一歩ずつ慎重に歩行していた、あの不格好な『ペンギン歩き』も完全に卒業となります」

「主様、主様! ルミナたちの処理能力もアップしたから、もうアチアチにならないなの! おんぶにだっこで大船に乗るなのー!」

 小さな身体を持ったルミナがアルクの太い竜の腕に元気よくしがみつく。

「(マジか! やっとあの恥ずかしいペンギン歩きから解放されるのか! ちょっと気を抜くとすぐ意図しない場所に瞬間移動して困ってたんだよな……。あの過負荷気絶も二度とごめんだし、結果オーライだな)」

 アルクが黒竜の巨体でホッと息を吐き出した、その時だった。

 空間が陽炎のように歪み、そこからポンッと一人の少女が飛び出してきた。

「ただいま戻りましたわ、未来の旦……なっ!?」

 突如現れたアイリスは、目の前に鎮座する巨大な黒竜を見て目を丸くした。

「(!? ピラミッドにいた迷子の幼女!? なんで俺の秘密の巣の場所を知って……!)」

 アルクが内心でパニックを起こしかけた次の瞬間、アイリスの瞳がキラキラと輝き始めた。

「なんて……なんて美しく、猛々しいお姿……っ! まさか真の姿がこれほどまでに気高く、カッコいい『黒竜』だったなんて! さすが私の旦那様、見惚れてしまいますわ♡」

 頬を染め、両手を合わせてうっとりと褒めちぎるアイリス。

 しかし、それ以上に鋭い反応を見せたのは、傍らにいる二人の眷属だった。彼女たちはアイリスの正体も、「無言の求婚(勘違い)」の経緯も一切知らない。

「……警告。特級の魔力反応。侵入者です、主。即座に排除しますか?」

「だ、誰なの!? 主様のカッコいい姿に見惚れていいのはルミナたちだけなの!」

 ノクスが冷徹に殺気を放ち、ルミナが威嚇する。

 すると、アイリスはふんぞり返り、高飛車な笑みを浮かべた。

「あら、旦那様に付き従う下等な使い魔ですの? 私は特級魔族アイリス。アルク様の『未来の妻』ですわよ。虫ケラどもが気安く私の旦那様に近づかないでくださる?」

「む、虫ケラ!? 妻ならルミナの方が先なのー!!」

「……不快です。主、この得体の知れない妄想癖の魔族を、分断領域で三枚に下ろしても?」

「お黙りなさい! 旦那様は私の発情した姿を真っ向から受け止めて、責任を取ってくださると無言で誓われたのです!」

「(待って待って待って! 目の前で直接の口喧嘩始まっちゃったよ!? てかノクス、三枚おろしはヤメて!!)」

 アルクはたまらず巨体の腹部を黒竜の太い前足で抱え込んだ。

「(痛たたた……っ。精神的なストレスで、存在しないはずの人間の胃がキリキリ痛む……! 黒竜になっても、幻の胃痛ってあるのかよ……!)」

 前足で腹を押さえてジッと丸くなるアルクの姿は、外から見れば『底知れぬ怒りで、周囲を消し飛ばす極大ブレスを腹に溜めている、恐ろしい黒竜の威圧ポーズ』にしか見えないのだが――彼の内心は、女の子たちの板挟みによるストレスと幻の胃痛で、過去最大のパニックに陥っていた。

魔王が頭を抱える中、アイリスは一直線にアルクの巣へと帰還しました。

しかし、何も知らない眷属たちと初対面し、凄惨な正妻戦争が勃発。進化したばかりの無敵の黒竜は、早々に精神的ストレスで「幻の胃痛」に苦しむハメになりました。

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