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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第22話 事後報告

進化の第ニ段階へ到達したアルク。その胸に宿る鼓動は、もはや星の質量すら超えていく。

しかし、目覚めた彼を待っていたのは、自分が寝落ちしている間にやりたい放題だった眷属たちの報告でした。

――視界の端で、名もなき「巣」の天井が揺れていた。

 そこは、まだアルク自身もその全貌を把握していない、濃密な魔力の澱みが滞留するだけの歪な空間だ。

「……嘘だろ。なんだ、この感覚は」

 自身の内側を探り、アルクは戦慄した。

 強制進化の第ニ段階――『空間の支配者』クラスへの到達。

 外見に変化はない。しかし、胸の奥にある『竜核りゅうかく』が、まるで別の銀河に置き換わったかのように変質していた。

 ただ静かに脈打つだけで、周囲の空間が質量に耐えかねて軋む。これまでの魔力が「流れる水」だったとするなら、今の竜核が吐き出すそれは、星そのものを凝縮したような圧倒的な重みを持っていた。

「(……凄まじいな。鼓動一つで周辺の理を書き換えてしまいそうだ。ノクス、隠蔽を最大化しろ。……って、ん?)」

 慎重に力の漏出を抑え込みながら身を起こしたアルクは、ふと違和感に気づいた。

「なんで俺、宿屋じゃなくてこんな場所にいるんだ……?」

 脳内システムにアクセスし、スリープモードに入っていたノクスとルミナを叩き起こす。

「(ノクス、ルミナ。おはよう。……とりあえず、なんで俺がここにいるのか、俺が気を失ってから今日に至るまでの経緯を説明してくれるか?)」

 アルクの問いかけに、ノクスが事務的なログを表示した。

(……おはようございます、主。行動ログを開示します。まず、主が強制進化で気を失った直後、私の演算リソースの大半が『竜核の拡張処理』に奪われ、一時的にオフライン状態に陥りました)

「(あ、そうだったのか。じゃあその間、俺の体はどうなってたんだ?)」

『主様! そこはルミナが説明するなの! ノクスが寝てたから、ルミナが一人で主様の体を動かしてあげたの!』

 ルミナがドヤイメージで割り込んできた。

『お外で勇者さんたちに会ったから、ルミナ、必死に誤魔化そうとしてまた「あの謎のステップ」を踏んじゃったのー!』

「(……おい待て。あの変な踊りをか!? 俺の暗黒騎士のガワで!?)」

『うん! そしたら今度は、屋根から落ちてきた氷柱に子供が潰されそうになったから、ルミナ、泥んこになりながらスライディングして子供を助けたなの! そして「泣くな。もう、大丈夫だ」って、超絶イケメンボイスで頭を撫でてあげたの!』

「(……)」

(補足します。ルミナのその行動により、勇者は『彼はいつも冷たいが、本当は子供好きで、不器用で優しい男なんだ』と強烈な勘違いを起こしました。魔術師からも『変な踊りをするけど見直した』と評価され、信頼度が上昇しています)

「(……終わった。俺が必死に築き上げてきた『クールで底知れない暗黒騎士』のキャラが、完全に崩壊した……。ただの変な踊りをする不審な良い奴になってるじゃないか……)」

『えへへー! 褒められたなの!』

「(……褒めてない。いや、でも子供を助けて勇者を誤魔化し切ったのは偉い。そこは助かった。よくやったルミナ)」

(ログを継続します。私が復帰した後、魔王軍の観測員から「暗殺部隊を差し向け、主の実力を試す」との通告がありました。主の威厳を保つため、最大の威圧を展開しつつ『……好きにしろ。我は我のやり方で処理する』とハッタリをかましておきました。魔王軍側の評価も格上げ済みです)

「(おお、ノクス、お前は本当に優秀だな。……でも、その後どうなった?)」

『ここからまたルミナのターンなの! 勇者さんの部屋に行って「吹雪の夜には古の竜が現れる……絶対に近づくな」って、警告してあげたなの!』

「(……勇者を巻き込まないための警告か。偉いぞルミナ)」

(補足します。その警告がフラグとして機能し、勇者が後を追ってきました。その後、谷底で暗殺部隊と接触。交渉が決裂したため、ルミナが偽装を解いてドラゴン化。竜の瘴気で暗殺部隊を消し炭にしました)

「(……街のすぐそばでドラゴン化したのか。隠蔽もクソもないな……)」

(さらに補足。ルミナが瘴気を出したせいで勇者も殺しかけましたが、以前主が取得させた『聖銀の胸当て』が自動発動。自分で撒いた毒を自分で防ぐ。マッチポンプとしては完璧な出来栄えです)

「(……自分でマッチポンプって言うな。虚しくなるだろ。……はぁ。まあ、いい。二人とも、俺のいない間に本当によくやってくれた。そこは感謝する)」

『やったなのー!』

(……主の賞賛を受理。魔力限界のため、混乱に乗じてこの仮拠点へ撤退しました。論理的な最適解です)

「(……いや、勇者を雪山に放置して自分たちだけ帰ってくるのが最適解なわけないだろ。今頃、親友に捨てられたと思って絶望してるんじゃないか……?)」

 胃を激しく痛めたアルクは、宇宙の質量を抱えたような竜核の鼓動を必死に抑え込み、宿屋へと急行した。

 ――数十分後。

 吹き荒れる雪を切り裂き、宿屋のロビーに足を踏み入れたアルクを待っていたのは、ボロボロになった勇者だった。

「アルクッ!! 無事だったのか!? 竜が出た後、いくら探しても見つからなくて……!」

 必死な形相の勇者に、アルクはビクッと肩を揺らした。コミュ障の彼に気の利いた嘘は無理だ。半ば自暴自棄になり、彼は『100%の真実』を口にした。

「……あ、ああ。ひどく……眠気が差したので、な。一度、我の家に帰り、朝まで熟睡していた」

 凍りつくロビー。

 アルクは内心で(やっちまった、正直に寝落ちを白状しすぎた……!)と絶望したが、勇者の表情は『深い感動』へと歪んでいった。

「お前……まさか……あんな強大な竜と一人で対峙して、街を守るために、限界まで力を使い果たしたんだな……ッ! 俺を助けるために、わざわざ隠れ家で傷を癒やしていたんだろう!? なのに『眠かったから帰った』なんて……お前はどこまで一人で抱え込むんだよ、この不器用野郎!!」

 ボロボロと勇者が泣き出す。

(……こいつの脳内フィルター、どうなってんだ……!? 俺の『ただの寝落ち』が、なんでそんな神シナリオに変換されてるんだよ……)

(……報告。勇者の好感度がカンストしました。完璧な言い訳でしたね)

 アルクは深く、深く息を吐いた。

「(……まあ、バレてないなら……それでいいか……)」

 表面上は「……フン、貴様の勘違いだ」とクールに視線を逸らしつつ、アルクは渋々この壮大な勘違いを受け入れることにした。竜核は進化しても、彼の胃が強くなる気配は、一向になかった。

「謎ステップ」から「子供救助」、そして「マッチポンプ」まで。

眷属たちのやらかしと勇者の超解釈によって、アルクの正体隠蔽は(なぜか)より強固なものとなりました。

次回、新たな波乱の予感……?

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