第15話 魔王の提案がオタクの理想郷だった件
魔王との対面。
圧倒的な実力差を前に、アルクは逃げ場を失う。
しかし、魔王から提示されたのは、予想だにしない「懺悔」と「究極の選択」だった。
玉座の間。
立っているだけで、魂が削れるような圧がある。
(無理無理無理……帰りたい。今すぐポータルで勇者のところに逃げたい)
魔王は動かない。ただ、紅い瞳で俺を射抜いている。
「……来たか」
低い声が空間に響く。
本能が「勝てない」と叫んでいる。
「……遅れた」
かろうじて、威厳を保った声を出す。
咄嗟に、防衛本能で**『見えない線』**を魔王の周囲に展開した。
だが。
「……ほう」
魔王が指先をわずかに動かす。
パチン、と乾いた音がした。
(……え?)
俺が絶対の自信を持っていた空間干渉の糸が、指先一つで簡単に弾け飛んだ。
「小賢しいな。……だが、不完全だ。今の其方は、ただ魔力が巨大なだけの不完全な竜に過ぎぬ」
(……俺のチート能力、あっさり切られたんだが!?)
(不完全……? いや、これでも最強クラスの自負あったんだけど!)
「案ずるな。かつての其方を捨てたこと、我が愚かだったと詫びよう。其方が瘴気の中で再び目覚めた時、観測隊を置いたのは……其方の暴走を食い止めるためだ。其方自身が、その力で壊れぬようにな」
(……魔王、めっちゃ素直に謝った。しかも観測員って、監視じゃなくて保護だったの!?)
魔王が玉座に深く背を預ける。
「勇者を倒しても、また次の勇者が現れる。私が死ねば、また次の魔王が生まれる。この世界はそういうシステムだ。完全な平和など存在せぬ。……だが其方、今はその勇者と行動を共にしているな?」
(詰められてる……!)
「光の勇者が、世界に散らばる『究極の武具』をすべて揃え、真の力に目覚める時……其方の器もまた連動して満たされ、ようやく『真の竜王』へと至るだろう。それまで、不完全なまま彷徨うつもりか?」
(勇者の装備集めが、俺の進化フラグ!? ってことは、あいつが装備を揃えるまで見届けないと、俺は不完全なままってことか……!)
沈黙が流れる。魔王の瞳が、俺の隣で警戒するルミナとノクスに向けられた。
「取引をしよう。其方はもう、動かなくていい。其方はただ安全な場所で、眷属を使い観測すれば良い。其方の力の分離体……その眷属たちには、我が魔力を常に注ぎ、常に**『覚醒状態』**に固定してやろう。安全も、平穏も、我が保障する」
(…………は?)
思考が止まる。
魔王の提案を、俺の脳内オタク変換器が即座に翻訳した。
【翻訳結果:魔王軍の全額負担により、推しの24時間3D生配信を最前で見続けられる、家賃光熱費タダの終身名誉ニート権】
(…………っっっっっっっっっだあああああ!!)
(何その究極のプラン!? 前世の俺が聞いたら、一秒で魔王に跪いてるわ!!)
(外に出なくていい。戦わなくていい。目の前には常に完成されたビジュアルの推し。……天国かよ!!)
ルミナが「主様……?」と不安そうに見上げてくる。
ノクスが「……魔力供給による出力固定。合理的。主の生存戦略として、最高ランク」と冷静に分析を挟む。
揺らぐ。全力で、魂が揺らぐ。
(……でも)
脳裏に、あの真っ直ぐな勇者の顔が浮かぶ。
名前を呼ばれ、握手をした、あの時の熱。
「……その提案、少し考えさせてもらおう」
震える声を、低く重い「威厳」で塗りつぶす。
「我は、観測者だ。……今はまだ、どちらにも与せぬ」
魔王は少し意外そうに目を細め、やがて短く笑った。
「……よかろう。せいぜい、その脆弱な勇者の末路を見届けるがいい」
読んでいただきありがとうございます。
魔王からのまさかの謝罪、そして提示されたのは究極の「引きこもりライフ」でした。
揺れ動くオタク心。そして明かされた自身の進化の条件。
勇者と魔王、両方の思惑が交差する中でアルクはどう動くのか。
次回、勇者パーティへの帰還。よろしくお願いします!




