第12話 仕込み
第12話です。
今回は裏での“仕込み”がメインになります。
拠点は完全に制圧された。
倒れる魔物の気配も、もうない。
静寂だけが残る。
(……終わったか)
思っていたよりあっさりだった。
(これ、完全にイベントスキップ成功したやつじゃん)
妙な達成感がある。
勇者が剣を収める。
「これでこの辺は安全だな」
その顔は達成感に満ちている。
(……すげぇな)
素直に思う。
まっすぐで、迷いがない。
ゲームで見てきた“勇者そのもの”。
(やっぱ本物は違うわ)
思わず見入る。
そして。
(……いいな)
胸の奥が少し熱くなる。
(次、どこ行くんだろ)
自然と期待が膨らむ。
完全にゲーム感覚だ。
(絶対イベント続くやつじゃん)
「次はどうする?」
仲間の一人が聞く。
勇者は迷わない。
「この先の村だ」
地図を広げる。
「被害が出てるって話がある。まずはそこを助ける」
(やっぱそれな)
魔王討伐より人助け優先。
ブレない。
(……いい主人公してるわ)
完全に好感度が上がる。
(俺もついていけば――)
少し考える。
だが。
(いや、情報もいるな)
魔王軍側の動きも把握しないといけない。
両方見てるからこそできる動き。
「……一度離れる」
短く言う。
勇者がこちらを見る。
「そうか」
(軽いなほんと)
「……観測」
それだけ返す。
勇者は小さく頷く。
「無茶すんなよ」
(いやそっちだよ)
そのまま離脱する。
森へ。
視線を切る。
気配を消す。
(……戻るか)
姿を変える。
鎧が崩れ、歪み、巨大な体へ。
ドラゴンへ戻る。
(やっぱ落ち着く)
そのまま巣へと帰還する。
しばらくして、気配が現れる。
「……おられましたか」
魔王軍の観察員が姿を見せる。
(来た)
以前よりわずかに距離を取った立ち位置。
「拠点の件ですが……既にご存知でしょうか」
「……把握している」
低く返す。
「内部から崩れた」
それだけ告げる。
手下は小さく息を吐く。
「やはり、そうでしたか……」
「拠点リーダーを失えば、統率は保てません」
(あー……)
(まぁ、あれは仕方ないよな)
内心で軽く流す。
その時。
頭の中に声が響く。
「主様、問題ありません」
ノクスの冷静な声。
「排除対象として適切に処理しました」
(いや言い方)
ルミナが続く。
「悪い子だったから倒したのー!」
(それはそう)
(……いや、うん、そうなんだけど)
妙に納得してしまう。
わずかな沈黙。
「……この地の“過去”について、お話ししてもよろしいでしょうか」
(お、きた)
「……話せ」
「かしこまりました」
観察員は静かに語り始める。
「昔、この一帯を支配していた存在がいました」
(へぇ)
「“竜王”と呼ばれていたドラゴンです」
(……おい)
「圧倒的な力で、人間も魔物も支配していた」
(それ俺じゃね?)
嫌な予感がする。
「しかし――勇者に敗れた」
(あー……)
納得する。
「完全には死ななかったようですが、瀕死の状態で……」
一拍。
「魔王様に発見されました」
(……え)
「ですが」
手下は淡々と続ける。
「戦力としては不要と判断され、放置されたと聞いています」
(え、ひど)
「弱った存在に価値はない……それが魔王軍の基準です」
(いやまぁ……うん)
反論できない。
「その後、消息は不明」
視線がこちらに向く。
「そして、今のあなたです」
(やっぱそうなるよな)
(……バレてる?)
わずかに警戒する。
だが観察員はそれ以上踏み込まない。
「……詮索はいたしません」
(助かる)
「ただ――興味深い存在ではあります」
(それはやめてくれ)
(……竜王、ね)
過去。
勇者に負けて。
魔王に捨てられて。
(……ろくな人生じゃねぇな)
だが。
(今は違う)
頭に浮かぶ。
勇者の姿。
(あいつと一緒に戦うの、普通に楽しいしな)
少しだけ口元が緩む。
観察員の話が続く。
「もう一つ、情報がございます」
(まだあるのか)
「勇者が向かう先ですが――既に魔王軍も把握しております」
(だよな)
観察員は淡々と続ける。
「現在、その村には“擬態型”の個体が潜伏しています」
(擬態)
「人間に化けるモンスターです。拠点リーダークラスではありませんが、単体戦闘能力は高い」
(めんどくさそう)
「そして――勇者が到達した時点で、排除する予定となっております」
(あー、イベント戦だこれ)(絶対ボス戦じゃん)
「……なるほど」
短く返す。
「もし関与されるのであれば、ご注意を」
(いやもう関与する気満々なんだけど)
観察員が去る。静寂が戻る。
(……どうする)(いや、確認はいるな)
(間違って人間だったら終わりだもんな)
(よし、行くか)
鎧を纏い、人の姿へ。気配を抑え、村へ向かう。
遠くからでも分かる。普通の村。人の気配。生活の音。
(……ほんとにいるのか?)
一歩踏み入れる。
(あ、これだ)
違和感。
(くっさ)
瘴気の匂い。一箇所だけ濃い。
(分かりやすすぎるだろ)
迷わず近づく。
一人の男。普通の村人の姿。
(中身バレバレなんだが)
視線が合う。男が笑う。
「……おや。珍しい客人ですね」
(うわ喋った)
「あなた……何者ですか?」
(来た)(どうするどうする)
軽くパニックになる。
「……通りすがりだ」
とりあえず言う。
男の目が細くなる。
「妙な気配ですね」
(やばいバレる)
ノクスが即座に反応する。
「……排除可能」
(待て待て待て)
体がわずかに動く。
(やめろ!!)
次の瞬間。
「主様ー!交代するのー!」
(は!?)
体の主導権が切り替わる。
ルミナ。
(ちょ待て)
一歩前に出る。
くるり、と回る。
(何してんの!?)
「一緒に踊るのー!」
(は!?)
さらにステップ。意味不明な動き。
(やめろ!!ここ村だぞ!!)
男が固まる。
「……何をしている?」
(それな!!)
ルミナは止まらない。
「楽しいのー!」
(楽しくねぇよ!!)
くるくる回る。完全に謎の踊り。
沈黙。
そして。
男が一歩引く。
「……狂人か」
(やめろその評価)
さらに一歩。
「関わるべきではないな」
(逃げる!?)
そのまま背を向け、去っていく。
(え、マジで?)
完全に撤退。静寂。
「やったのー!」
(……助かった)
「……制御復帰」
体が元に戻る。
(初めて助かったと思ったわ)(ありがとうルミナ)(……でももうやるな)
村を離れる。
(確定だな。あいつがボス)(しかもそこそこ強い)
(だからこそいい)
口元が緩む。
(勇者イベント成立)
(タイミング合わせて、あとは補助入れれば――勝てるな)
(めっちゃ楽しみなんだが)(次のボス戦だろこれ)
足取りが軽くなる。
(よし、勇者のとこ戻るか)
(いい感じに倒してもらおう)
読んでいただきありがとうございます。
次回はいよいよ勇者側での戦いになります。




