第11話 見えないお膳立て
第11話です。
主人公の“補助”が本格的に戦闘に関わってきます。
拠点の奥から離れ、再び森の中を戻る。
(……戻るか)
ドラゴンの姿を解き、鎧を纏う。歪み、収まり、人の形へ。
(やっぱこっちの方が動きづらいな)
だが今はこの姿が必要だ。
勇者たちの元へ戻ると、全員がすぐに気づいた。
「戻ったか」
勇者が軽く手を上げる。
(相変わらず軽いな)
「……どうだった」
魔術師の視線が鋭い。
(探ってくるな)
「……戦力は確認した。だが今は混乱している」
嘘は言っていない。ボスは消え、統率は崩れている。
勇者が頷く。
「なら、チャンスだな」
(やっぱ行く気だな)
少しだけ息を吐く。
(まあ、止めても行くしな)
口から自然に出る。
「……俺が守る」
全員の視線が集まる。
「ただし、前には出ない。一歩引いて補助に徹する」
勇者が少し笑う。
「信用していいんだな?」
(軽い)
「……勝手に死なれると困る」
本音に近い。
勇者は笑ったまま頷く。
「十分だ」
(……いいなこれ)
胸の奥が少し高鳴る。
前世でやっていたRPGみたいだ。
勇者がいて、仲間がいて、ダンジョンに突入する。
(めっちゃワクワクしてきた)
「行くぞ!」
勇者が先頭に立ち、全員が動く。
拠点へ侵入。
警戒しながら進むが――
(……静かすぎる)
魔物の数はいる。
だが動きが鈍い。
統率が取れていない。
「……様子がおかしいな」
魔術師が呟く。
一体の魔物がこちらに気づくが反応が遅い。
「来るぞ!」
勇者が前に出る。
(補助、補助)
ノクスが即座に制御する。
「……回避補助、起動」
勇者の動きがわずかに変わる。
「おおっ!なんか見える!」
(見えてるのはこっちの補助な)
ルミナが騒ぐ。
「主様すごいのー!」
(静かにしろ)
戦闘は一瞬で終わる。
勇者の一撃で魔物が倒れる。
(弱いな)
いや違う。
(……士気が落ちてる)
周囲を見る。
逃げる個体、動かない個体。
統率が完全に崩れている。
「……押せるな」
勇者が言う。
魔術師も頷く。
「今なら奥まで行ける」
(そりゃそうだ)
ボスがいない。
現場は混乱状態。
(完全に崩壊してる)
(これ、俺のせいだよな)
内心だけで苦笑する。
それでも。
(ゲーム的にはチャンスだ)
自然と口元が緩む。
「進むぞ!」
勇者が叫ぶ。
そのまま奥へ。
(いいな、この感じ)
戦いながら進む。
仲間がいて、補助して、前線が動く。
(最高じゃねぇか)
拠点の奥へ進む。
戦闘はほとんど発生しない。出てきても統率の取れていない魔物ばかりだ。
(……やっぱり完全に崩れてるな)
勇者パーティはそのまま最奥へ到達する。そこは広く開けた空間だった。
だが――
(……誰もいない?)
本来ならボスがいるはずの場所。気配がない。静かすぎる。
「終わった……のか?」
勇者が呟く。
(いや、そんな簡単なわけ――)
その瞬間、空気が変わる。
「……来る」
ノクスの声。
奥から現れる影。ゆっくりと歩いてくる。
五体。
人型に近いが歪んだ異形。明らかにこれまでの魔物とは違う。
「……親衛隊か」
魔術師が低く言う。
中央の一体が前に出る。
「……私達のボスはどこだ」
低く、抑えた声。
(あっ……)
(……うちの子がやりました。ごめんなさい)
内心で小さく謝る。
だが次の瞬間、殺気が膨れ上がる。
「侵入者、排除」
(あ、これダメな流れ)
「来るぞ!」
勇者が前に出る。
(補助入る)
「……制御補助、開始」
ノクスの声。
視界が変わる。
動きの“線”が見える。
(……これ)
ゾンビドラゴンだった頃。動けなかった自分。
あの時と同じ感覚。
(線、引けるな)
攻撃の軌道。位置。干渉できる“ズレ”。
(なら――敵をずらす)
親衛隊の一体が突進する。
速い。
(そこだ)
見えない線を引く。
わずかに、軌道をずらす。
空間が歪むように、攻撃が逸れる。
勇者の横をかすめて通り過ぎる。
「……!?」
勇者が一瞬驚く。
(よし、いける)
次。
二体同時。
(重なる……いや、崩せる)
線を引く。ぶつかるはずの軌道を外す。
二体の動きがズレる。
「今だ!」
勇者が踏み込む。
一体を斬り裂く。
「すげぇ……!」
(いや俺もびっくりしてる)
ルミナが騒ぐ。
「主様すごいのー!」
(静かにしろ)
ノクスは冷静に続ける。
「……干渉精度、安定」
戦闘が加速する。
親衛隊は強い。だが――
(動きが単純)
怒りで突っ込んでくるだけ。連携もない。
「遅いな!」
勇者が笑う。
(それ言うの早い)
だが事実。
一体、また一体と崩れていく。
残り二体。
(同時に来るな)
線を引く。
攻撃のタイミングをズラす。
わずかなズレが、大きな隙になる。
「いける!」
勇者が前に出る。
そのまま斬り込む。
二体まとめて斬り裂く。
静寂。
全滅。
(終わったか)
少しだけ息を吐く。
「今の……何をした?」
勇者が振り返る。
(やばい)
「……予測だ」
短く返す。
魔術師がじっと見る。
(絶対疑ってる)
だが勇者は笑う。
「頼りになるな」
(軽いなほんと)
周囲を見渡す。
もう敵はいない。
完全な制圧。
(……これで拠点は終わりか)
だが。
(絶対これで終わりじゃないよな)
少しだけ嫌な予感が残る。
それでも。
(まあいいか)
今は勝った。
(楽しかったしな)
読んでいただきありがとうございます。
少しずつですが、主人公の力の方向性も見えてきました。
引き続きよろしくお願いします。




