10−11 二人の絆
「た…助けて、クリスティン…」
「もちろんよ。モイラ」
クリスティンはモイラをぎゅっと抱きしめた。
「今まで一人で頑張ってきたけれど、これからは私が助けてあげられるから。そんなに苦しまないで良いのよ」
モイラはクリスティンに抱きついて嗚咽を漏らした。モイラの緊張と孤独感が薄れていくのにつれ、闇魔法で使役していた狼や野犬達も穏やかな表情になりその場で横になった。
暫くしてモイラが落ち着いた頃、クリスティンはモイラの手を取った。
「さて、そういう訳で宣言をしないといけないわね。あなたを私が保護しているから、密入国じゃないとね」
「…迷惑をかけてごめんなさい…」
「大した事では無いから、気にしないで」
少し離れて見ていたレイラはイザベラに尋ねた。
「おい、森の!あいつ、無防備に相手の目を見つめたが、闇魔法対策はあったのか!?」
「ある訳ないだろ。瞳を見つめる事で、相手に敵意が無い事を示したんだ。そういう馬鹿をやると思ったから、保険にお前を連れて来たんだろうが」
「相手は私以上の実力があるんだから、闇魔法にかかったら解きようがないぞ!?」
「とりあえず動けなくしてくれれば良かった。後は何とかする」
「対策はあるんじゃないか」
「とりあえずクリスティンが操られて魔法を使い出したらどうにもならん。最終兵器親子の子供の方だからな」
物騒な単語が出てレイラは黙った。
二人と離れた場所の民家の塀に座って二人とクリスティンを眺めていたレジーナも、ぶるっと寒気がした。
(最終兵器親子、ね。親もあんななのか)
クリスティンは1ブロック戻って右に進んだ。そこには護衛に囲まれた第三王子エドウィンがいた。
「エドウィン殿下、森の魔女の里の魔女クリスティンから王国への宣言があります。証人として聞いてくださる?」
「もちろんだ。王家は森の魔女の里をないがしろにするつもりは無い」
「森の魔女の里の魔女クリスティンは、闇の魔女モイラを保護します。今後彼女の意に沿わない干渉を行う者は、魔女クリスティンの名において二度とその様な事が出来ない様に処理します」
エドウィンは歓喜した。殺気を隠した怒気を含む宣言、彼女の名の下に不届き者は跡形も無く消し去ると言うのだ。エドウィンはエクスタシーを感じたが、今喜んじゃうとクリスティンが本気で怒るので、王子らしく感情を隠した。それでもクリスティンもクロちゃんもそろそろこの王子が変な事を考えている時は察知出来る様になっていたから、次にこいつが話す言葉次第では大問題が発生するぞ、と思っていた。
とはいえ、エドウィンも王子である。正式な宣言にはちゃんと宣言を返した。
「分かった。王国を代表して第三王子エドウィンが宣言する。王国は森の魔女の里の魔女クリスティンの宣言を尊重し、その宣言の履行に異を唱えない」
「ありがとうございます」
「そういう事だけど、モイラ、荷物はある?」
「ボロボロの服ばかりだけど…」
「それでも女の服だもの、他の人に見せたくないわよね。だから処分しましょう。ノルマン風の服もこの国では着にくいし。身の回りの品ならいくつか用意してあるから」
「…私が来ると確信していたの?」
「友達だから、何時来ても問題無い様に気を配っておいたのよ」
「本当にごめんなさい」
「良いのよ。今度二人で魔法のアクセサリーでも作って売りましょう」
「簡単に言うのね。私は闇魔法使いなのに」
「そこは何とかするわ。二人でお小遣いを稼ぎましょう」
それを聞いたエドウィンが口を挟んだ。
「クリスティン、魔法のアイテムは国防に係わるから、勝手に売られては困るな」
「魔法研究所に売れば良いのでしょう?ついでに小部屋を作業場に提供してくれれば機密も守れます」
エドウィンもクリスティンの魂胆が分かった。
「それではモイラを臨時研究員として魔法研究所で雇う様に手を回そう」
「お願いします」
「さて、それじゃあ、公園に行けば良い?後は野犬達に王都外に行って貰って、毎日餌をあげないといけないわね」
「そうね。餌代を稼がないといけないわね」
「魔法研究所が大枚を叩きたくなる様な物を作れば良いのよ」
「あなたは本当に…」
「後は浮浪者に貧民街の掃除の仕事でも斡旋出来る様に、その元手も稼がないといけないわね」
「何もかも本当にごめんなさい」
「良いのよ。社会には無解決な問題がいくつもあるから、誰かが汗をかく時が来たというだけだから」
さりげない政治批判をエドウィンは聞こえぬふりをした。
「じゃ、王子様、モイラは平民宿に連れて行きます。次の週末までは大人しくしているからご安心を」
エドウィンは口元を上げた後、こう言った。
「お手柔らかに頼むよ」
「法的には問題ないやり方にしますのでご安心を」
「それで頼むよ」
エドウィン王子一行は王城へ帰って行った。
色々後始末をしていると、クリスティンにクロフォード家からの使いが近づいて来た。そして紙片を渡して帰って行った。
「じゃあ、モイラ、宿に行くわよ」
クロフォード男爵が用意した部屋は大店のオーナーが借りる様な豪華な部屋だった。
「もっと普通で良かったのに…」
モイラも恐縮してしまった。
「本当にごめんなさい…」
「良いのよ。義父が出してくれると言うのだから」
「大丈夫?」
「何なら男爵家にも魔法のアイテムを入れれば良いだけよ。気にしないで」
「ごめんなさい…」
「そんなに恐縮しているなら素直に洗われてね。浴槽がある部屋で良かったわ」
「下から水を汲んでこないといけないわね」
「ここに水魔法も火魔法も使える人間がいるから、その必用は無いわ。さあ、脱いで。しっかり洗ってあげる」
「待って、自分で洗えるから!」
「駄目よ。あなた野犬みたいに汚れているのよ」
「…せめて浮浪者みたいに、って言ってよ」
「野犬の方が可愛いじゃない」
モイラも長い事心を許せる相手がいなかったから、少女の様にきゃあきゃあ騒ぎながら洗われた。女が泊っていると分かる様な行動は避けるべきだったが、クリスティンは部屋の外に音波が伝わらない様に空気を操作していたから問題無かった。
「今日は一緒に泊ってあげるけど、明日からは一人で大人しくしていてね」
「…色々迷惑をかけてごめんなさい」
「良いのよ。友達だから、この件で謝るのはもう止めてね」
「…ありがとう…」
クリスティンとしては孤独なモイラの心を何とかしてやりたい、今はそれが最重要と思っていた。けれど、もう一つ心に浮かんでいる事があった。
(ごめんね、アッシュ。あなたを忘れた訳じゃないの。ただ、思い出さなかっただけ)
別にキャッキャウフフを書きたい訳ではなく。昔、寂しかった女の子が、今寂しい女性にしてあげる事は、昔自分がやって欲しかった事だと。それもあって、昼間に狼を見た事もあって、アッシュを思い出したという事で。
明日はキアラの更新です。土曜まで三連投予定です。




